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諸刃の剣

宇宙空母コロラド 上部展望室


「物理現象であるということは魔法ではない、つまりは非現実ではなく理論で説明ができるということです。」

「なら、魔術とは何ですか?」

「魔術は、魔法の模倣と言えますが本質的には魔法とは種類の一部異なる物理現象です。」

「では、その違いは何ですか?」

「残念ながら、それは秘匿情報です。そもそも、この魔法と魔術の違いが解明されてしまうと私達『魔女』は弱体化し、それこそ『魔女狩り』が行われ、この世界に居ること私のような異世界人はこの世界の現世界人類による革命により、全ての計画は崩壊することでしょう。」

「魔女である、あなた方の特殊能力…そして、ナポレオンや山本五十六も同様ということですか?」

「その認識で問題ありません。」

「なら、それは…私…この世界に来た自衛官や日本国民も同様であると?」

「はい、そうなりますね…。」

「田中司令は、それも知っているんですか?」

「はい、そうです…。」

「…。」


彼女の話は信頼できる。

勿論、自分の身体がこのようなものである為、これを魔法と言うには相違ないだろう。

ただ、その魔法が物理現象だとする。

所為、魔法ではないということが分かった。

魔法ではないのではなく、魔法と名の付いた他の方法で物理現象になっているということだろう。

ようは、ライターの炎を昔の人に魔法であると言うように…。

その昔に無い技術で起こした物理現象、彼らから見たら奇跡と呼ぶに相応しい行為は確かに魔法に違い。

けれど、タネがわかった時その神秘性は失われる。

私の世界では、それだけなのかもしれないがこの世界ではかなり異なる。

そもそも、その魔法と魔術の現象の原因を知られた時、魔女である彼女達には致命的であるからだ。

魔法が物理現象であるという事実から考えると、この魔法の因果関係がわかった時が彼女たちに洛陽が訪れるということだろう。

少なくとも、私の中では魔法ではなく、マジックとなりつつある。

日本語のマジックだが、ようは手品だ。

だから、もう怖くはないものかもしれない。

そのマジックのタネを隠さなければならないという、脆さが露わになった。


「魔法という武器を奪われた時、この世界はまた別の形であなた方の脅威になります。」

「すでに、脅威ではないのですか?」

「これは自衛官としてのあなたへの脅威ですね。」

「…この世界が新たな脅威になると?」

「はい。」

「つまり、この世界の一国家が日本への侵攻を開始すると?」

「いいえ、狙われているということではありません。」

「では、どういった脅威であると?」

「簡単に言いましょう。」

「日本国民は全員死にます。」

「なっ…。」


彼女が真面目にそう言ったのは確かだった。

同時に、私は信じられなかった。

そして、恐れもあった。


「一体、何を根拠に…。」

「日本国民ではなく、あなたの世界の70億人とされる人類全てですね。」

「そんなことが…。」

「時空の歪みと言いますか、この世界にあなた方が来た時、あなたの居た世界はこの世界に取り込まれると言うのは難しいですが、あなたの世界になり替わろうとしているためです。」

「なり替わる?」

「ええ、その為エネルギーとしてこの世界が変換されるのか、それとも魂のみ死後の世界に行くのかはわかりません。」

「…それを阻止する方法はあるんですか?」

「はい、でも…それも教えることができない情報ではあります。」

「私も軍人…自衛官である以上、情報の取り扱いについては心得ていますが…なぜ、それを今、私に伝えたんですか?」

「あなたが、目的を失っていないのかと心配になりまして…。」

「私の目的ですか?」

「はい、この世界でのあなた方自衛官の任務と、この世界での実務により目的が変わってしまわないかの確認です。」

「なるほど…。」

「では、あなたの自衛官としての任務をお答え願えますか?」

「私の任務は、入間基地に居る日本国民を全員、元の日本国に返すことです。」

「はい、その通りですね。」

「…では、私から質問ですが…それがどのように変化すると?」

「日本国ではなく、日仏露連合の兵士と、もしくは出向した国の国民を守ることなどです。」

「それは、不都合なことなんですか?」

「はい。」

「…なぜ。」

「彼らに武器を向けなければならないときに、迷ってしまっては困るからです。」

「…つまり、私達は兵士と言う機械であれと?」

「まあ、そう言えばいいのかもしれません…。」

「言わんとしていることはわかりましたが…それは、非情と冷徹であると…。」

「それが問題なんです…国連の平和維持活動の比ではないほどの精神的負担をあなた方自衛官が受ける、感じることも私達は想定しています。」

「PTSDを発症するとも?」

「はい。」

「…それは仕方のないことかもしれません。それに、そういうこともありえることはわかっています。」

「大尉のように、わかっている方も居ますが私達は精神の保護も必要だと思っていますし、何より責任感により見逃してしまう方も居ます。」

「もし、PTSDを発症していたとして、それに気がつけなかったらどうされるんですか?」

「記憶の削除をして、その魂は私達が管理します。」

「管理とは?」

「魂を不感状態にすることです。」

「感覚の不感ではなく?」

「はい、感覚を不感にするだけでなく、時間の間隔、思考、自己認識も不感にさせます。」

「植物人間のようにすると?」

「いえ、植物人間よりも考え方としては酷いのかもしれません。」

「そうしたあとは、どうするんですか?」

「必要がある場合は、操り人形のような状態になります。」

「…魂を弄ばれるということか。」

「そうですね…。」

「…。」


少なくとも、この世界での任務に従事した自衛官が、記憶を消され元の生活に戻れるのなら、それでいいのかもしれない。

ただ、いくら何でも結果論のような気がする。

そもそも、この世界に来たのがあまりにもイレギュラーで、それ故に体調を崩す…おそらく、最初期の私達は身体が無かったのにも関わらず生理的な現象が発生していたということは、魂自体が物理的な質量をもつことが分かる。

だから、それは…疑似的な痛みではなく、それこそ魂、精神への痛みも同時に喰らっていたことになる。

その後は、日仏露連合に所属することとなり、自衛隊としての任務は形を変え、継続していくことになった。

責任感の感じ方に差があるとはいえ、それでこそこの世界での孤独感に苛まれることになっただろう。

特に、元の世界…いやっ、家に家族や親しい人が居るのならそうかもしれない。

そうしたものが、これまでの年月のせいで元の世界を忘れつつあるか、目を背けていたことを思い出した時、そのストレスや孤独感といった精神的負担が限度を超すだろう。

そして、訓練を積んだとはいえ、海上自衛隊とも異なり地上に足をつけ、基地を中心に世界が回っていた私を含む人々は世界中の場所も知らない場所に運ばれ、そこで仕事をする上で耐え切れなくても仕方がない。


だが、それでも…そのような振る舞いは許されるのだろうか?

確かに、人道的ではあるかもしれない。

…そうなのだが、果たしてそれが正しいことなのだろうか?

それは私も、兵士が心に傷を抱えたままその後の人生を生きていくことになるのはつらいことだろう。

ただでさえ、自衛隊というものは憲法の外に置かれた組織なのだから…。

さらに悪化する可能性もある。


「納得できませんか?」

「納得したとしても、私もそうなるかもしれません。だから、その時の決定権はあなた方にあります。」

「はい…そうですね。」

「…わかりました。」

「非人道的だと責めますか?」

「…責めません。ですが…私は非人道的だと、私のエゴですが考えています。」

「そうですか…LLFは手を汚すことを率先して行いました。魔法の実験では、1つの国の人々を…。」

「国…ですか?」

「はい、安重根と伊藤博文による最終実験で…朝鮮総督は消滅しました。」

「…いったい、どういう実験を?」

「伊藤博文さんの能力は、命令をする能力でした。安重根の能力は爆発する能力でした。実験では、伊藤博文が最終命令として自身が死ぬときに朝鮮総督を消滅させる命令を出し、ハルビンにて実験が行われました。その結果、能力者の消失後も魔法が残ることがわかりました。」

「その為に、多くの人を?」

「はい、でもそれよりも多くです。この世界でのクローンを生産した場合、その魂はどこの世界のものか、それとも新しく産まれた魂なのかを…。」

「…あなたも手を汚したのですか?」

「そうです。これからも、それからもです。」

「…あなたは強い人ですね。」

「そうとも限りませんよ…1人殺しても1000人殺してもそれ以上殺したとしても人数は罪の数ではありません。それこそ、1人殺した時点でその罪は10人殺した場合と変わりません。」

「…なら、なぜ?」

「軍人としての誇りがあるなら、兵士に対して何も感情を抱きません。あなたも同じでは?」

「はい。」

「なら、答えは出ていますね。」

「…そうですね。」

「私は、戦う相手が兵士だけでなく、民間人…細かく言えば乳幼児から前線の後ろに居る兵士の家族まで、敵です。」

「…。」

「…だから、もう手遅れです。あなたもそうなる可能性があります。」

「そして、病んだら操り人形にと?」

「はい。」

「…そうなった時はそうしてください。」

「はい、ですが…いえっ、わかりました。少しは話せましたね。この船には、娯楽部屋があります。そこまでの行き先はあなたにお教えしましょう。右手を…。」

「右手…ですか?」

「はい…では。」


彼女の右手が私の右手のひらを撫でた。

すると、この船の構造全てを記憶していた。


「これで、終わりです。古典的な装置ですがDVDデッキがあります。私のおすすめのSF映画となります。暇な時間に見てくだされば…まあ、別の映画でも構いませんが…それでは、私はこれで…では、また。」

「はい…どこに行かれるのですか?」

「CICです。では…。」


そういうと彼女は、艦内に消えた。

私は、彼女から渡された「Interstellar」、「Gravity」、「Arrival」という映画のDVDだった。

あとで、館内の資料室もとい娯楽部屋には大量のDVDや本があったのだが…。


「…。」


そこには、まだ私が知らない多くの映画が何故かあった。


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