彼と福音
用語解説
・MP40
サブマシンガン
・Kar98k
ボルトアクション式ライフル
ドイツ三国 ドイツ領 ベルリン シューネフェルト空軍基地
Evaという少女から離れ、今夜はこの基地で眠る。
明日は、総統への謁見となっている…おそらく、あのアドルフ・ヒトラーと会うことになるのだろう…。
ここにある武器は、MP40、Kar98k、M1911とエンフィールド・リボルバーとナイフだ。
手榴弾は貰っていない。
滑走路はひっきりなしに航空機の離着陸が行われているが、この部屋には音がせず、よく眠れた。
翌日、俺は食事を取り部屋で待機しているとエヴァがやって来た。
「はい。」
「おはようございます、昇さん。」
「ああ、おはよう。」
部屋がノックされたので返事をした。
部屋にあった珈琲豆で淹れた珈琲は酸味が強くあまり美味しくなかった。
「そろそろ、行きますよ。」
「ああ、もう用意は出来てる…。」
「どれどれ…。」
メガネを付けていない彼女は、立ち上がった軍服姿の俺を見回した。
「…糸くずがついていますね。匂いは普通ですね。」
彼女の顔が俺の首に向けられ、彼女の鼻息と吐息が感じられた。
体臭でも確認しているのだろうか…。
そう思った俺は、「香水も支給して貰えるかな?君と同じ奴がいい。」っと照れ隠しに言った。
「あげませんよ。でも、ネズミにかじられるほど甘い匂いの香水をあげます。」
「それは、嫌だな。」
彼女の香水は、おそらくシトラスの香りだと思う。
清潔感のある匂いとされている。
「むっ、糸くずがついていますね。まったく…。」
「えっ…。」
「取りましたよ。」
「ああ、ありがとう…。」
「ていっ!」
「ちょっ、何を…。」
「二丁拳銃ですか、それとナイフ…刀ですか…。」
彼女が屈み俺の腰の武器を飼い主に擦り寄る犬のように顔を上に上げながら…。
いやっ…俺のズボンのチャックの前に彼女の顔が置かれている。
正直言って、かなり気まずいし、本能的にまずい。
何がまずいのかというと俺の記憶が呼び覚まされるからだ…。
具体的に言うと娼館に行った時の出来事がフラッシュバックされている。
なので、素数を数える事になる。
その上で、意識をそらすために彼女を見つめ、身体の緊張を解くために呼吸をする。
幸いなことに数秒で済むのだが、この年齢でやることをやってしまった(?)ので、後悔している。
…まあ、多分童貞のままなんだけど。
バレないように彼女から解き放たれた俺は、不整脈のような動悸に耐え、なんとか口を開く。
「それじゃあ、行きましょうか。」
「ああ…。」
そして、俺はフォルクスワーゲン・タイプ1に乗り込み、国会議事堂に向かった。
この車は、Kdfワーゲン、戦後はビートルと呼ばれた車だ。
俺は、後ろの座席に乗り国会議事堂へと向かった。
そして、俺はドイツ国会議事堂についた。
車を降り、階段を登り、ヒトラーの待つ部屋まで話しながら行くことになった。
「…では、行きますか…むっ、少々お待ちください。」
「エヴァ様!ようこそ、いらっしゃいました。その方は?」
「この方は、私の部隊の者であり、権限は私と同等であり、我が労働者党のメンバーです。」
「失礼いたしました!では、ご案内を…。」
「私直々に案内するので要りません。」
「…申し訳ございません。どうか、お許しください。」
「まったく…要はありません。仕事に戻るように…。」
「はっ!」
そういうと、親衛隊の兵士は引き下がっていった。
やはり、エヴァも高い階級に相当するのだろうか。
「…言っておきますが、私はそんなに怒りっぽくありませんからね!」
「わっ、わかった。」
「信じていないようですね。」
「いやっ、信じてるよ…MG42を貰えるとさらに…。」
「むぅ…。」
「冗談だよ。」
「あなたの方が、信じられない人なんじゃないですかね?」
「どうかな…。」
「クスッ、まあいいですよ。この議事堂を案内しますよ。この議事堂はあなたの世界ではナチスドイツの時代には使用されなかったです。1933年の放火や、その後の攻撃により被害を受け、その後は1999年に改築されました。第二次世界大戦時はクロル・オペラ劇場が臨時の国会議事堂として使われています。」
「じゃあ、ヒトラーはここをあまり使って居なかったのか。」
「ここでは、総統と言ってください。」
「…そうか。でっ、実際は?」
「使っていませんね。ここは綺麗ですよ。」
「ここは、レプリカなのか本物なのか…エヴァはどっちだと思う?」
「どっちもですよ。この世界にとっての本物で、あなたの世界からはコピーです。」
「じゃあ、俺は放火前の国会議事堂に居るってことかな。」
「そうですね、その通りです。ここは、放火される前の建物ですから…屋上でソビエト連邦の国旗が立てられる前です。」
「現代の人が無しえない奇跡みたいなものかな…自慢できそうではあるけど誰も信じてくれないかな。…この世界に来て、軍に所属して、色んな武器に触れて…夢のような内容で…。」
「元の世界が懐かしいですか?」
「懐かしいよ…もうずっと前だし、もう帰れないのかなって。」
「必ず帰れますよ…。」
「そう言われると帰りたくないって、思うんだよね。」
「どちらにしても、喪失感がありますからね。…少なくとも、私のことは忘れないでください。」
「忘れないし、忘れたくないよ…。」
「アレッシアのことですか?」
「…何でも知っているのか。」
「ええ、勿論。」
「…何で、アレッシアを見殺しにしたのか。そう君に起こりたいけど、たぶんそうじゃないんだ。謝罪の言葉を聞きたいんじゃなくて…もうだいたいのことはわかったと思ってた。意識のない人形になれば良かったと思う。でも、もう何もかも遅いんだって…結果がどうあれ君に文句言っても何にもならないって…ただ、つらいんだ。」
「私も計画に沿って動いています。どちらにしても、そうしなければならないからです。でも、少しくらいは私にだっていいことはあるはずですよ。…共に過ごしましょう、昇さん。」
「共にって?」
「同居です。」
「…えっ?」
なんやかんやで、総統が居る部屋の前に来た時彼女はそう言い、ドアを開けた。
俺は、驚きを隠せないまま…かの総統閣下の前に居る。
「よく来たな少年…まあ、色々あるだろうがこの国ではゆっくりした前、今後の世界は第二次世界大戦そのものだからな。」
「はっ…はい。」
「とはいえ、私は忙しいのだが、今日中に君は新しい身体に変えられる。ドイツ人タイプの素体だが、意識変異が起きないようにフォーマットされている。だから、君は日本人のままだ。この国で、異国民としての差別を受けることはない。色々と楽しいことも、戦場も訓練もある実に有意義な時間になるだろう。この国での事は、エヴァに頼んでいるから彼女に従うように…。」
「叔父様…ソビエト連邦の動きは?」
「大丈夫だ。概ね予定通りだ。大英帝国も同盟のイタリアと共に動きを封じられるようになっている開戦の時は近い。」
「わかりました。」
「では、また会おう少年。」
そう言って、俺はエヴァに連れられ部屋の外に出され別の部屋に入った。
その部屋には、既にお菓子とお茶が用意されていた。
俺は、淹れられた紅茶を飲みながら何故かあった熊の形のグミを口にした。
「世界ももうすぐ大詰めですかね。」
「第二次世界大戦のこと?」
「正解です。」
「でも、この世界って地理がかなり滅茶苦茶じゃなかったって?」
俺は、そう言った。
実際、その通りで日仏露連合は言わずもがな、イタリア王国に至っては対極図のような配置になっている。
「そうですよ、でもその通りでもありません。」
「どういうこと?」
「この世界は、できることもありますから。」
エヴァはそう言って、笑った。