大物釣りの漁師作戦Ⅳ 機械にも生死を…。
ローマ帝国 エトナ山 山頂陣地 司令部
部屋に戻り、戦闘服を身につけCarcano Mod. 1938(ライフル)とBerettaベレッタM1915、Glisenti Model 1889の拳銃2丁、Modello 1938A、脇差、グラディウスを装備した。今回は、M1938Aのマガジンポーチ付きのベスト、通称サムライベストというものを身につけて、右腰にM1915とグラディウス、左腰にM1889と脇差で、M1938Aは着剣した。
最後の切り札であるナイフはステラに縫ってもらいベストの左肩部分に、鞘が入るようにしてもらいそこに収めている。
部屋の外で待っていたカールに会い、空になった司令部を歩く。
「カール、B分隊の配置は?」
「指示された場所に配置しています。」
「そうか、狼もそこに?」
「機械狼ですか?ええ、その近くに居ますよ。」
「A分隊の狼はここに居るのか、カール?」
「はい、全匹居ます。」
「1匹だけ、ここに残して他は海岸線からここまで等間隔に配置して偵察に行かせろ。」
「了解しました。…しかし、司令部の許可を得ずにですか?」
「そうだ、たぶん問題はないからすぐにやってくれ…。」
「了解しました…視覚情報を共有なさいますか?」
「どうやって?」
「先ほどの会議室のモニターを使い、リアルタイムでの機械ネットワークでの位置情報、視覚情報をモニター上で表示できます。」
「すぐに、準備できる感じ?」
「はい…ですが、共有にはエネルギーが必要になります。」
「電気とか?」
「いえ…違います。」
「…どういうことだ?」
「使用するには、機械のコアが必要です。その為には、他の機体からコアのエネルギーと処理能力を使う必要がある為、1体の機械がそれに従事する必要があります。」
「…なるほど、俺の護衛の2体の人形にやらせる。」
「よろしいのですか?」
「護衛は必要ない、A分隊はここに残されている資材で遮蔽物を組み立てた後、指定地点へ移動、その後は交戦せよ…カール、私からの指示は以上だ。」
「了解しました、作業に移ります。」
「…お前は、本当に無愛想だな。…それがいいけど。」
「皮肉ですか?」
「ああ、そうだ。…もう君とは会うことはない。命令の遂行を頼むよ。」
「了解しました、長篠隊長。」
そう言うと、カールは司令部の方へ向かった。
俺は、紅、ミア、ステラを探しに司令部を出てA分隊の機械が言われた通りに作業しているのを見ながら、3人を探した。
「あっ、ご主人様お疲れ様です。」
「ミアもお疲れ…水がまだあったからそれで身体を拭けるから…。」
「汗臭い方がお好きだとばかり…。」
「俺は、綺麗な方が好きだよ…。」
「なんていうか、それだと人形みたいな気がしたんですよ…ご主人様…。ミアだって、紅みたいに戦えます!」
「…ミア。」
ミアは、ズボンに上が肌着のみだった。
下には、真っ白なブラウスで、軍手をつけ、硬いであろうこの地面に穴を掘っていた。
彼女の長い金色の長い髪をポニーテールにして、作業をしていたのである。
「何ですか、ご主人様?女性を人形扱いする方は嫌われますよ!」
「相手が…機械でも?」
「それは、卑怯です!」
「ミアのことは大事だ…。」
「やめてください、ご主人様!…死ぬつもりなのですか!」
「いやっ、そんなつもりは…。」
「だったら、笑ってくださいよ…。わかりましたよ、私はみんなと一緒に隠れています!その代わり、ご主人様が死にそうになったら叩いてでもこの世界に呼び戻してやりますから!」
「…ミア。」
それは、どうだろう?
もしかしたら、俺がこの世界で死ねばまだあの世界に戻られる可能性はある。
けれど、ミアは俺がこの世界で生きているように見えたのだろうか?
ただ、悲しそうな顔をしていた。
「…そうだな、君に叩き起こされるのも悪くないかもね。」
「もうっ!馬鹿なご主人様ですこと…。」
カール、ミアと来て…次は、紅だ。
「主殿…どうかされましたか?」
「ああ、君を探してた…。」
「それは、誠に嬉しいことですが…本当に死ぬおつもりですか?」
「…ああ、そうだ。」
「…私は、主殿の後を追います。忠義というものを貫かなくてはなります故に…。」
「紅…君は、侍ではないのだから…。」
「人でもありませんね…。」
紅は、そう自分を卑下するように言った。
「…紅。」
「ご心配なさらず、私は所詮機械故に忠義というものを表すべがありません。ただ、あなたの為にプログラムに従い、従者としての理想的な真似事の為にあなたの仇を取るつもりです。」
「…。」
「機械には、生死という概念はありません。データの損失という物が間接的な死で、新しい身体に自分のデータを入れ替えたところで、テセウスの船と同じ様な状態になります。」
「紅のデータは、どこかにバックアップされているの?」
「いいえ、されていません…。」
「それじゃあ…。」
「そもそも、機械は生きていないので死ぬことはありません。主殿が、私に魂…あなたと生きた時間という記録が途絶えることを死と感じているに過ぎません。」
「でも、紅は紅だよ…。」
「嬉しき言葉であります、主殿…私は結果を受け止めるのみであります…では…。」
紅は、そう言うと西側の斜面にある退避壕の方へ移動した。
どことなく、彼女の背中が悲しそうに見えたが、それがどういうものなのかはわからない…。
ただ、今際の別れであるのは察せられた。
機械に、何を話しても無駄であるはずなのに…何でこんなことをしているのか思いながら、ステラを探した。
ステラは、すぐに見つかった。
なぜなら、司令部の小部屋で彼女の歌声が聞こえたからだ。
Ave Maris Stellaという曲で、彼女は一人でよく歌っていた。
「ステラ?」
「…ご主人様。」
「ここに、居たのか…何をしてるの?」
「はい、身を隠すためのマントを作っていました…。」
「ステラは、裁縫が得意だったっけ…。」
「はい、そうです…ご主人様…。」
「…まだ、時間の猶予はありそうだけど…退避してもらった方が…。」
「お気遣いいただきありがとうございます…ご主人様…でも、あともう少しだけ…。」
「ああ…そのステラは、俺が居なくても平気だよね…。」
「いいえ、居なくては困ります。私の存在意義がありません…。」
「…ああ、だから俺から命令を…。」
「要りません…従いません…。」
「ステラ…。」
「必ず…また、会いましょう…ご主人様…もう行ってください…それと、これを…。」
「これは?」
「イラーリオ元帥から、ご主人様への手紙です。」
「そっか…それじゃあ、またな…ステラ…。」
ステラは、元から無表情な娘だった。
でも、おそらく怒っている。
俺は、会議室に戻り、手紙を確認した。
『私が手伝えるのはここまでです。どうか、この国を救ってください。』
そう書かれており、裏には10桁の数字と文字のコードと、5桁の暗証番号のようなものが書かれていた。
「…なあ、この文章の意味わかるか?」
そう、首筋からコードでモニターに繋がれている人形に問いかけた。
かなり、サイバーパンクというか怖さを感じるが…。
「機械ネットワークのコードです。権限は元帥レベルの物です。味方情報の簡易表示が、現在の処理能力で可能ですが、実行しますか?」
「ああ、そうしてくれ…。」
「モニターに追加された権限での、味方座標を表示しました。」
モニターに目をやるとそこには、新たに海上や北部南部の砲兵部隊の位置が表示された。
「元帥からの贈り物か…これなら、アンジェラがいつ来るのか…どこで戦っているのか、わかるな…。」
モニターには、『元帥権限分』の位置座標のデータが表示されていた…。
それは、潜水艦から中隊規模まで多くの数の光点がならび、頼もしいまでの数だった。
「イレーネ?」
「何ですか、アレッシア?」
「…お願いを頼める?」
「内容次第です。」
「そう、じゃあ…昇さんの所へ戻りなさい…。」
「何故ですか?」
「イレーネ、あなたにはネロ様からの命令があるのでしょう?」
「…はい。ですが、私はアレッシア様と…。」
「私は大丈夫です。…行きなさい、イレーネ。」
「ですが、あなたにもしもがあったら…。」
「いいんですよ、私はレベッカ様に仕える身でありますので…。」
「…なぜですか?」
「あなたは特別だから…それに、あなたは覚えているでしょ…私もことも…。」
「…わかりました。」
「そう…昇さんによろしくね…。」
「私は、あなたを見ています…。」
「…。」
「…アレッシア様…行って来ますね。」
イレーネは、アレッシアの護衛のロボットの視覚情報を同期させ、降りてきた山を登り、昇の元へ向かった。




