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大物釣りの漁師作戦Ⅱ 必要とされた英雄像

3月29日

ローマ帝国 ローマ 軍総司令部会議室


「『津波の後の静けさ(tristis oram)』作戦の戦力の詳細は省略する。『大物釣りの漁師』作戦の説明を。」

「はい…。

では、作戦を説明します。

大物釣りの漁師作戦は、まず前段階としてローマ帝国内海艦隊全戦力を投入し、敵侵入艦隊を撃滅し、その後はシチリア島付近まで撤退し、迫りくるアンジェラをエトナ山にて、陸軍、空軍の火力により撃滅します。

また、この作戦に投入される部隊の詳細は機密とし、ここでの詳細は省きますがローマ帝国最大規模の野戦陣地となり、砲数は7千門、歩兵、砲兵数師団を投入します。

本作戦の最大にして、最大の懸念事項として、水の魔女アンジェラがあげられます。」

「説明ありがとう…。

さて、そもそもこの大物釣りの漁師作戦はありえない作戦であるのは確かだ。

言うなれば、これは本当に釣りだ。

そして、エサは私達だ。

大量の兵器と兵員をエトナ山周辺に集め、それでセイレーンを倒す。

彼女も先のレベッカ様との戦いで、傷ついている。

補給線も万全とはいえない中、彼女は最前線で戦い続けている。

レベッカ様によると、彼女も多くの力を使えない。

そう考えるとアンジェラはローマを目指すのだろう…。

スエズ運河から短距離でのコース、そして内陸艦隊…。

ローマ帝国最後の戦だと思えば、十分な数の兵力だろう。」

「…最後というのは。」

「アンジェラの撃滅に成功すれば、ローマ帝国は回復したレベッカ様と共に一時的な講和条約、またはイタリア王国占領をすることができる。」

「…全ては運命のお導きによるものなのですか?」

「皇帝陛下は、ローマにて儀式を執り行うつもりだ。

そして、皇帝陛下はこの先の作戦の進行こそ見たものの、その結果はわからないとおっしゃられた。

その中の最後のピースが、そこの少年だ。

にわかに、信じられなくても彼がローマ帝国の希望であるのは間違いがない。

…以上だ。

総員、解散。」


会議が終わり、俺も部屋を後にした。


俺は、そのままウェスタ神殿へと向かおうとしたがそれを予想していたのだろう。

デル・サルト元帥の命を受けていた兵士に止められ、エトナ山へと向かうことになった。


4月2日 午前5時

ローマ帝国 エトナ山 山頂陣地 司令部


「こちらは、ローマ帝国陸海空軍統合総司令部。

秘匿回線により、エトナ山に居る味方部隊に連絡する。

以降、ローマ帝国陸海空軍統合司令部からの当領域該当部隊の連絡は所定日時まで行わない。

作戦開始前に、最後の演説を行う。

寝ている者には後で、こう伝えてくれ…。

任務を全うせよと…。

これよりローマ帝国は、ローマ帝国の存亡をかけた作戦、ローマ帝国防衛作戦を行う。

この作戦の成否により、ローマ帝国の未来は決まる。

それは、どんな状態にあるローマ帝国国民、兵士達にとっても重要なことだ。

すでに、イタリア王国、ローマ帝国のどちらも大きな被害は出ているが…これは最後の希望だ。

私たちには、成功するしか道はなく…失敗した際は際限なくローマ帝国の民である我々は死んでいくのみであろう。

ネロ皇帝陛下による未来視の最後のピースを埋めるのは我々である。

持てる力を全て使い、機械、武器…身一つになっても魔女に抗い続けよ。

現時刻をもって作戦を開始する。

ローマ帝国…万歳!」


ローマ帝国防衛作戦の第一作戦『津波の後の静けさ』作戦が開始された。

津波の後の静けさ作戦では、噂だった32mの大きさを誇る機械狼の巨大機ルピ・ジェミニが各地の戦場で、自爆または部隊への攻撃を行っていた。


俺は、エトナ山の山頂にある司令部でその様子を地図の上に表示されている赤い点を眺めていた。

ルピ・ジェミニは、無人機で機動性が高く榴弾砲の砲撃にも少しは耐えられる。

そして、それを追随するように味方の戦車、航空機が奪還の為に動いていた、

第二作戦である、『大物釣りの漁師』作戦はローマ帝国内陸艦隊がスエズ運河を目指し攻撃に向かった。

内海艦隊は、新鋭戦艦5隻、標準戦艦10隻、旧型戦艦15隻、予備戦艦10隻、巡洋艦10隻、駆逐艦20隻、魚雷艇50艇の主戦力である70隻と50艇。

自爆ボート郡250個の予備艦艇、後方支援艦30隻と内海にあり、アンジェラからの難を逃れた船と、練習艦を全て動員した。


そして、この大物釣りの漁師作戦に投入する作戦はイオニア海、ティレニア海の2艦艇で内海艦隊の45%であり、ジブラルタル海峡の艦艇からもエーゲ海に存在していた艦隊の補填にはなりもしないが戦艦7隻、巡洋艦3隻、駆逐艦5隻がこの艦隊を構成していた。


司令部には、陸軍元帥IlarioイラーリオFontanaフォンターナの他に、大将や中将が居て、階級的にあまり居場所がなさそうな俺は何故かテントを1つ貸してもらい、ステラ達と共にそのテントを使っていた。


「どうされましたか、長篠様。」

「いやっ、何でもない…。ん?」


地図を見て、惰性でそう答えてしまったが声の主の確認すると、陸軍元帥だった。


「すっ、すいません…元帥殿!」


俺は、慌てて声を荒げたが白髪で髪の薄い元帥は特に驚きもせず、こちらを見ていた。

そして、何か思い出したのか俺にこう言った。


「別に、お気になさらず…長篠少尉。」

「しかし…。私は…。」」

「いえっ、いいんです。

あなたは、ネロ様と同じ様なお方でこの国をお救いになる力を持っていると聞いています。

このエトナ山に居る部隊は私の指揮する部隊であり、あなたの部隊でもあります。

あなたは、階級を気にしているのだろうが、むしろ私達の方があなたに敬意を示さなければなりません。」

「元帥殿…。」

「フォンターナとお呼びください。もうすぐ最後の会議が開かれます。そこで、お願いがあります。」

「はい…なんでしょうか?」


恐る恐る俺は、元帥に尋ねた。

明らかに買い被りすぎているというか…。

アンジェラを倒すことに全てをかけているというか…。

冗談を言ってもの通じない、ただ周囲が俺に対して期待していて、プレッシャーが掛かっている状態だった。

軍の他の兵士とはまったくと言ってもいいほど何も話していないが、彼らと話したら俺はたぶん、疲れてしまうだろう。

元々、ストレス耐性がないわけなのだから…。

ステラ達は、特にそう言ったことを言わないで食事を運んで来たりとかしているが他の兵士からそう言った話や、嫌味が言われ続けているのはわかっていた。

俺だって、そう言った小言を同じ立場だったら堂々と酒を飲みながら…飲んでいなくても口にしている。


痛々しい笑顔を出さないのは、ステラ達がロボットだからだろう。

アレッシアの方は、会ってはいないがイレーネから聞くと少し思い詰めているらしい。

アレッシアの両親は、『津波の後の静けさ』作戦に参加しているはずなので、生きていたのは作戦前にわかっていたが、その後の安否は作戦後…すぐには、わからないだろうが…どういう形であれ、生死はわかる。


俺は、アレッシアの両親のことをアレッシアの前で口に出さないようにしていた。

家族が戦争に行く時の感情は、映画とか少しは知っていたのでわかっていたはずだった。

マリーノ家では、妙に淡々としていて戦争に行くのが義務的なもののように誇らしく、涙は流さなかった。


一見、奇妙であるが…人々の職業が兵士であるローマ帝国にとってそれは、珍しくはないことだろう。

職業の多くがステラのような機械に取られ、兵士や研究者、職人のような職業しか残っていない…言わば、そういう可能性もありえるディストピアであるローマ帝国は、ある種の怖さもあり、ネロの言った理想の国のような気もした。


ローマ帝国の人々には、多くの職業がないが、給与も待遇も貧しい職業はなく、限られた職業の中から自由に仕事が出来て、給与もあって…誰も貧しくはならない。


資本主義と機械化の果てにある社会主義のように見える理想の国がこのローマ帝国だった。


そして、その国の出身でありネロやその前の皇帝が治めてきた国の人であるフォンターナ元帥は俺に求めた。


「どうか…私達の希望になってください。堂々として、横暴で、偉そうに…私達に指示を出す。…理想的な指導者を演じてください。」


必要なのは、英雄だった。

そして、俺に足りていない要素だ。


ローマ帝国の国民は既に多く死んでいる。

独立や、分離、反乱など起きても良かったはずだ。

それを繋ぎ止めていたのは、ネロとレベッカだった。

優れた身体能力や魔法を持っていて…超人のような存在で威光を持っている存在。

ようするに、英雄だ。

けれども、ネロやナポレオンさんは俺の世界で死んでいて、偉人として語られる人々だ。

偉人である人々は、その時に隠していたり、わからなかった心情や悩みが書物で語られているように彼らも人だった。

そのことが、わかっているのはこの世界の人々も同じかもしれない。

だが、そう感じていたとしても彼らには英雄としか映っていない。

誰しもの理想である、完璧な超人像を重ねているからだ。


「わかりました…。」


俺は、そう元帥にそう言った。

そして、続けて…。


「ウォッカと、ワイン…それと葉巻が欲しいです。フォンターナ元帥。」

「…長篠少尉?」

「元帥殿…呼び方は長篠様でお願いします。演技はそんなにうまくありませんが、諜報技術の訓練で、偉そうな態度くらいは取れます。」

「それなら、良かった。」

「あと、元帥殿も協力をお願いします。」

「…何をすれば?」

「ネロ皇帝陛下と話すような感じで、少しかしこまった感じで接してください。」

「つまり、私も演技をすればいいと…。しかし、私は演技が下手でね。」

「演技ではなくて、ただ…陛下の前で陛下と話している。そういうふうに割り切ってもらえばいいと思います。」

「…わかった。」

「これから、元帥殿のことをただ元帥とお呼びしますが、お許しください。」

「それは、承知している。」

「会議の後は、少尉に戻ってもいいですか?」

「はい…その方がこちらとしても楽ですので…会議としていますが、実際は兵士に向けたパフォーマンスですので…。」

「わかりました…。」

「では、長篠昇少尉…頼みますよ。」

「はい…元帥殿…。先ほど言った物もお願いしますね。」

「ははっ、灰皿もお持ちいたします…長篠様。」


そう言うと、元帥は部屋を出て行った。

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