大物釣りの漁師作戦Ⅰ 2作戦開始
用語解説
・lupi geminae
大型の狼型の機械、全長32m
イタリア王国 ヴェネツィア
3月16日 午後2時
「久しぶりだな、ローマ帝国の諸君。
今日は、いい知らせと悪い知らせの両方を兼ねたたった1つの知らせがある。
そう、その知らせとは我がイタリア王国艦隊の勝利である。
この海戦において、我が艦隊は敵国であるローマ帝国の主力艦隊の撃滅に成功したのである。
これにより、ローマ帝国は新鋭戦艦を多く失い、イタリア王国は僅かながらの被害を受けたが、その戦果は十分なものであった。
大日本帝国からの戦艦、長岡、掛川、金沢の3隻をこの海戦で失ったのは痛手であり、我が艦隊の不徳の致すところではあるがこの勝利をもたらしたのは事実だろう。
我が国は、進み続ける。
この勝利は始まりに過ぎない。
脅威であったローマ帝国の栄光は色を失せつつ、この国はさらなる領土を手にするだろう。
イタリア王国に栄光あれ!」
主力艦隊を失ったローマ帝国は、その後三ヶ月の間にさらに軍を進めウェールズへと艦隊を向けた。
ローマ帝国はジブラルタル海峡に船を回し、アンジェラと共にローマ帝国領 (元の世界のウェールズ-イングランド) へと侵攻し、修理中であった艦艇を拿捕した。
海戦から1ヶ月後、ウェールズ-イングランドを占領した。
そして、このバトル・オブ・ブリテンと逆の立場でのローマ帝国とイタリア王国の航空戦が行われ、ローマ帝国は敗北。
ダンケルク、ディアップをはじめとする港湾都市、そして、海戦から5ヶ月後イタリア王国はパリへの入城を果たした。
南部の戦線は、キレナイカ(リビア)のバンガージーに至り、スエズ運河はアンジェラにより切り開かれた。
その間、レベッカはウェスタ神殿に籠り何かをしていた。
3月21日
ローマ帝国 クレタ島
長篠昇は、アレッシア達を残しクレタ島に派遣された。
連日、航空機に乗り込み偵察と空戦に明け暮れていた。
そして、その日の夜。
フライトスーツを着たまま部屋に居た昇は、サイレンの音を耳にしすぐさま持って来ていた拳銃2丁を装備し、軽装のまま滑走路の方へ走って行こうとしたが司令部から走って来た兵士に止められた。
「お前、どこへ行く!」
「滑走路です。」
「行くな、高いところに逃げろ!セイレーンが来やがった。津波でここも沈む!」
「そんな…。」
「ああ、だから!逃げろ!」
昇は、その言葉を耳にし司令部のある建物の上にある対空機銃座へと向かった。
機銃を掴み、辺りを見回していると空に天使が居た。
その天使の名前はレベッカと言う…。
「レベッカ!」
届きはしないと、声を出して彼女を呼ぶと彼女は急いでこちらに降りてきた。
「昇さん!」
「なんでここに…アンジェラが?」
「はい…この場所も危険です。行きましょう。」
「行くって、どこに?」
彼女は俺をお姫様抱っこし、イディ山の山頂まで俺を運んだ。
「レベッカ…。」
ものすごい速さで運ばれたのと、気圧の変化で少し痛さを感じた俺は彼女の名前を呼んだ。
「波が引いたら、カタルーニャまで撤退してください。迎えに行けませんので…ここで見ていてくださいね。」
「レベッカ…どこに行くの?」
「アンジェラと戦って来ます…大丈夫ですよ。まだ、死にません。」
そう言うと、彼女はまた空に戻っていった。
そして、クレタ島をアンジェラが起こした津波が襲った。
北にあるイラクリオン国際空港は波に襲われ、多くの死者が出た…。
だが、この人数はあまりにも少なすぎた。
なぜなら、クレタ島より北東の地域がレベッカとアンジェラの戦闘により多くの都市ごと壊滅したからだ。
彼女達は、ギリシャを滅ぼした。
人、森、川から水分を取り、アンジェラはそれを操った。
レベッカは、死体、枯れた木、石や金属を燃やしアンジェラに抗った。
交戦時間は約8時間に上り、空はレベッカの放った炎をで燃え、朝日が登ったのにも気がつかないまま日はローマ帝国に差した。
火で燃やされ、水に流された人、物、建物の燃えきれなかった物が海に流れ、焼けた黒い土地がそこに姿を現した。
俺は、その後…クレタ島を後にしカタルーニャへと帰還した。
そして、もう一度俺はローマへと向かうことになった。
3月29日
ローマ帝国 ローマ 軍総司令部会議室
「これより、本ローマ帝国での最終行動計画を発表する。なお、ローマ帝国陸海空全ての軍による共同作戦ではあるが機密保持の為、今回は主要なメンバーのみ招集した。」
「レベッカ様の容態は?」
「ウェスタ神殿で治療を受けている。」
「容態を聞いているんだ!」
「大事には至っていない、そして、この作戦を成功させることができればレベッカ様はこのローマ帝国をお救いになるだろう。」
「…わかった、すぐに作戦を。」
「デル・サルト元帥、そこに居る黒髪の小僧はなぜここに?」
「彼も魔女だ。」
「魔女?この少年がですか?どう見ても男では?」
「彼は、長篠昇特務少尉。
ネロ皇帝陛下お墨付きの対魔女戦力もとい…本作戦の成功の鍵だ。」
「では、何か能力を?」
「あいにく…私には、わからない。
ただ、陛下によると彼は、水の魔女アンジェラ…セイレーンとの戦い挑むことを『運命』付けられているという。」
「…。」
「元帥、彼が困惑していますが?」
「なにせ、彼もこの話が初めてということだ。…そうだろ、少尉?」
「はい…今、初めて聞きました。」
「しかし、どうやってこの少年が勝つんです?」
「ペルジーノ陸軍大将…それは機密事項だ。」
「長篠少尉!君はアンジェラに勝てるのか?勝つ算段はあるのか?」
「はい、あります。」
「そうか、それは大層なことだ。
この作戦計画書の通りなら、そうなんだろう!
私は、運命を信じないが陛下の言葉は信じる。
…以上だ。」
「では、作戦説明に移ろう。」
長机と、椅子とコーヒー…それだけ、説明すればいいだろう。
話し合うのには不向きな配置で、大きな地図を机の上に投影して会議は進んでいった。
「では、説明を。」
「はい、元帥殿!
現在、ローマ帝国の戦線は敵イタリア王国の被害を受けつつも機能しています。
しかし、今回のレベッカ様とセイレーンの攻撃によりダーダネルス海峡、ボスポラス海峡の部隊は甚大な被害を受け、海峡は完全に崩壊し被害全容は不明のままです。
ジブラルタル海峡の部隊は健在ですが、スエズ運河は敵の手に落ち、運用されています。
北部戦線はパリ陥落後、ウェールズ経由での海上、航空輸送により敵の補給物資が絶えず送り続けられている為、戦線は拡大していますが膠着状態を維持できています。
南部戦線も膠着状態であり、本作戦での打開こそ出来ませんが作戦の成功によりイタリア王国軍の弱体化を期待できます。
以上が、現在の戦況です。
続けて、作戦の発表に移ります。
今回の作戦は、2ヶ所同時に攻撃を行う大規模作戦であり、ローマ帝国防衛の為の戦闘でもあります。
そして、ネロ皇帝陛下から、巨大機の使用が許可されました。
作戦名は『津波の後の静けさ(tristis oram)』、『大物釣りの漁師(Piscatoris hamo)』』。
そして、この作戦名両方をローマ帝国防衛作戦とします。」
「それは、また随分とわかりやすい。」
「ああ、陛下が言うにこれは、ローマ帝国の未来を決める戦いであると…。
『津波の後の静けさ』作戦では、ネロ皇帝陛下からの賜りものである機械狼の巨大機、lupi geminaeを使用する。」
「…本当に使用するのですか?」
「少なくとも、敵だけでなく占領された地域にいる国民も巻き込むことに…。」
「すでに、北東の地では多くの人々が死んだ。
確かに心苦しくはある…しかし、アンジェラを倒さなければローマ帝国は滅びる。
そして、滅びるだけでなくその後、ローマ帝国の民は浄化されるだろう。
かつての奴隷を利用し、その後…その奴隷を機械に変え、用済みになった奴隷達を殺した私達と同じように…。
ローマ帝国は、階級層を統一し平等なものにする為に階層以下の者を全て殺した。
忌むべき歴史ではあるが、最も効果的で人が平等になるものであった。
イタリア王国は、1つにまとまっている。
そうした中に、ローマ帝国の人々だった者は混ざることができない。
なぜなら、私達がローマ帝国の民だからだ。
ローマ帝国の民は、ローマ帝国の中でしか生きられない。
私は、社会の幸福論なんかは認めない。
…仕方はないとは言わない。
私達はこれから、国民を殺す。
…それだけだ。」
つかの間の沈黙が、会議に浸った。
「…次だ。
巨大機を使い、その後を陸軍が続き、海岸線までの奪還を目指す。
出し惜しみは無しだ、ローマ帝国に配備されていた100機のうちの残存する61機全てを使用する。
残りの39機のうちの15機は既に自爆し、各地にある24機は作戦区域外にある為作戦開始時に付近に敵がいる場合は交戦、でなければ自爆させる。
非常に残念なことであるが、スエズ運河への侵攻と先日の北東地域壊滅により、ローマ帝国の飛び地になってしまい海上輸送も現実的でない為、防衛の為に分散運用していたのがあだになったと言えるだろう…。」
デル・サルト元帥はそう言った。




