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羅伊戦争Ⅳ 理想的国家と幸せの条件

ローマ帝国 ローマ

3月11日


地下の部屋で、この部屋へのルートや配備されている艦についての情報を教えられた俺は、部屋を後にし、自分の部隊を見に行くためにネロと部屋を出た。


「…倒せとは言ったが…時間を稼げばいい?」

「ネロさん?」

「ああ、水の魔女…アンジェラについてだ。これから見る、君の機械部隊を以てしても倒すのは厳しいだろう。」

「それは、承知していますが…何か方法はないんですか?」

「彼女の能力は、水を操る能力だ。君の持つオリハルコンのナイフはその魔法を断ち切ることができる。」

「…魔法ですか?」

「…ああ、そうか。この世界の魔法と魔術の違いについては君は知らなかったか。」

「はい…何が違うんですか?」

「魔術というのは、この世界に工業に結びつかれている…ややこしいところだが要するに製法だ。魔術自体は並みの人間でも使用できるものだ。魔術で鋼材の均質化や硬度の強化などが出来る。…一方、魔法というのは、魔女や私達、この世界の一定数と他の世界からの人々が使用できる。」

「…ということは、僕も魔法を使えるんですか?」

「使えるさ…ただ、魔法を覚えるのは少し待ってほしい。」

「なぜですか?」

「魔法というのは、能力でレベッカの場合は火の魔法しか使えない。これは、魔女という存在が1つに由来する魔法と関連する魔法しか持ち得ていないからだ。そして、それが弱点でもある。」

「…レベッカの弱点はアンジェラなんですか?」

「そうとも言える、どちらにせよ1つの魔法しか覚えられないのはかなり戦術的に厳しい。君の場合はいくつの魔法を覚えられるかわからないが、1つくらいだろう。選ぶ魔法を間違えれば、他の魔女に対して戦うのはさらに厳しくなるだろう。…これは、ジャンヌからの願いでもある。」

「わかりました…その…このナイフは、魔女と魔法にに対して効果があるのはわかりましたが、魔術に対してはどうなるんですか?」

「ムガル帝国のガルダ部隊は魔術により飛行している。そのガルダ部隊に対してオリハルコンを含む弾丸を放ったとしよう。その場合、魔法ではなく、魔術で飛んでいる彼らに対して弾丸が命中しても根本的に要素が異なるため、飛ぶ能力を奪うことはできない。だから、魔術に対しては通常のナイフと同じ物理現象しか引き起こさない。」

「なるほど…よくわかりました。」


再びエレベーターで地上に上がり、格納庫へ向かった。


「これが君との最後の会話になるだろう。だから、聞いてくれ。」


格納庫に向かう途中、ネロはそう言った。


「このローマ帝国はある目的の為に私が作って行った。

このローマ帝国というのは理想的な未来都市という構想を現実にしたものだ。

その理想都市というのは、人々が労働から解放され、資本主義社会の到達点のような貧富の差が発生することのない社会主義のような1次階級のみの世界で、人がその一生を何不自由なく幸せに生きて人生を全うして死んでいくことができるものだ。

そして、その幸せというのは既得権益や資産のみにならず人間関係や社会的地位と言った概念が発生することなく、自分だけの世界の中で人に自分の地位を脅かせることも、何かを奪われることも、上下関係を作られることも個人が個人の立場を確立させ、生きていくというものだ。

しかし、それは井の中の蛙でいることが条件であり、水槽の中で暮らす魚のようなものでもある。

自由と不自由さの観点から見れば滑稽だが、成功しかない人生は良いものだろう…。

『負けることがない』というのは、幸せなことだ。

奴隷、棺桶の住人、集塵…言い方は様々だが、資本主義による逆転の無い世界や、一部の人が楽をしてしまう社会主義に比べたら階級的にもこの方がいい…。

かつてのローマ帝国もとい各国の奴隷は労働力である一方、現代的には人権がなくモノの一部であった。

機械による労働力の解放の為に人型ロボットを提供した。

そして、次に考えられたのが人口だった。

君の国では少子高齢化が問題になっているだろう。

高齢化はこの世界においても多くの国が直面することになる問題だ。

医療技術が発展しているこの世界ではそれも大きな問題であり、また人口が増え続けるという問題は前の世界と同じだ。

人が増えれば、食糧もそれを得る土地も必要になる。

その為に侵略戦争を行うこともあった。

この国での出生率は2.0ではあるが、ピラミッド型の人口推移を形成している。

これは、人口政策によるものでもあり、私とレベッカが人を監視しているからだ。

私が監視しているは『産まれるべきでない者』を作らせないことだ。

このローマ帝国でも一定数離婚が起きる場合がある。

基本的には子を持つ前ではあるが中にはそうではない場合がある。

この場合、この両親は子を持つのに値せず、産まれた子は可哀想だ。

出生率が2であるのは、ローマ帝国の家庭が安泰であり、豊かであるからだ。それこそが、理想的な環境であり、子供は問題もなく成長していくだろう。

…私が言いたいのはこの2という数字は人口増加を抑えた数字で、なおかつこのローマ帝国には貧困層が存在しないということだ。

先ほどの離婚、貧困、人口抑制というのは子供を産みやすい環境と、産ませないための環境をこのローマ帝国が兼ねているということだ。

人は性欲に飲まれればそれこそ無尽蔵に子を成すことができるだろう。

しかし、育てて行くのには費用がかかり、家庭では貧困になり、幼い子を働かせることになり、結局両親は《自主規制》して、子が増えていく負の連鎖がある。

それ自体は、発展途上国にありがちなことではあるがこの中で子供を救うためにいろいろなことをしようとしても結局、助ける子供の母数が増えすぎ、投入する費用が多くなってしまう。この場合、やはり必要な補助を提供することができず、子供は不幸なままであり、子を育てることはできない。

これにもいろいろな議論はあるが、国としてはやはり優秀な人間が欲しいものだ。

この場合、解決すべきなのは子をこの地獄のような世界に産み落とし、貧しさを忘れるために性に溺れている両親を解決することだ。…その場合、取れる手段は殺害ではあるが…。」

「大本の原因は、確かに両親ですね。でも、両親…1家庭での子供の数が2人でも解決にならないような…。」

「確かにその通りだ、でもローマ帝国の人口は縮小傾向に移行することができた。」

「…他に、なにか要因があるんですか?」

「1つは出生率が2のままでキープされていることと、2つ目は海外からの人々が移動して来なかったこと、3つ目が子が産まれるのを事前に防いでいることだ。」

「3つ目は、避妊ってことですか?」

「いやっ、そうではない…妾の子や、愛人、娼館の子が産まれなくなっているからだ。」

「…それも要因なんですか?」

「ああ、人口を管理するにはそういうことをしたり、実際に子が産まれてしまうと調整に影響が出てしまう。呪われた数字なんだ。不倫や浮気は、不純なものではあるが、『恋』、ロマンスとして良いものであるとされてしまうことがある。『愛』による呪いで、罪を正当化してしまう呪いだった。最も女性がパンドラの箱であることに変わりはないがね…。なぜ、人は純愛では納得しないのだろうか?運命の赤い糸で繋がったカップルが一生幸せになって暮らすハッピーエンドではね。」

「…運命の赤い糸ですか…なんていうか僕には縁遠いというか…。」

「どうだろうか…少なくとも私の場合は、どこかへ消えてしまったのかもしれない。そんな私が、そうした純愛という幻想を信じ込ませ、強いているのはおかしなことだと思うよ。」

「…そうですか。」

「ああ、だが…君には可能性があるのかもしれない。それこそ、どうしようもないクズ野郎になる可能性も、恋人や愛人に追われる可能性もあるのだから…そうだな、私としては君とレベッカが結婚する未来を見てみたいものだ。」

「…なっ、そんなことは…。」

「ありえないことではないさ、ウェスタの巫女でさえ間違いを起こす可能性があるのだから…最も男女というのも少し古くあるのかもしれない。だが、子を作る方法はやはり限られているのだから、どうしてもそうなってしまう。」

「まだ、ずっと先の話だと思いますよ。」

「男女という性が複雑化した時代だからこそ、ちょっとした逆転も生じるものだ。例えば君が女性たちに《自主規制》されたりとか…。」

「…嫌ですね。」

「親は子を利用することもできる。

だからこそ、世界はおぞましくなるものだ。奴隷は消えても身売りはあるし、君が創造しえないようなことも起きている。

世界はそんな地獄だ。

なんで人はその世界で子供を孕み産んでしまうのか?

そして、なぜ幸せに育てることすらままならなくても子を望み、未来に期待してしまうのだろうか?

君は、いつか子供を持つことがあるかもしれない、何らかの事情か自分で望んでだ。

いつしか生物としての繫栄から、呪いのような義務、老後の人生の布石に変わりつつある。君もそうしたものから抜け出せはしないだろう。

…だから、私が言えるのは君は子供を幸せにしてくれ。

だが、不幸にはするな。時には諦めることも善き行いである時もある。

世界の人口は私の時よりもずっと多くなった。だが、人間関係、資産と共に良く幸せな者はやはり少ない、地球の資源は限られているのだから70億の人口というのはやはり多すぎる。責任感と甲斐性は同じようで違うものだし、幸福度ともまた違った幸せは君が求めるべき幸せだと私は思う。

まあ、あまり気にしないでくれ…死人は生者に話せないが今は違う。

こうして、君と話せるのが嬉しいから、つい話過ぎてしまった。

…少年、君は良い未来を求めたまえよ。」

「はい。」


俺は、そう力強く返事をした。

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