同意はしてない
―調査4 同意はしてない―
「……見つけたんだな。」
そう呟いたのは、睡魔の煉ちゃんこと、江藤煉瓦だ。
そして、その視線の先には、財布でも手帳でもない、彼の“忘れ物”がいた。
それは淡く浮かび上がる二つの青白い光。
彼が一歩音楽室に踏み入れると、
壁に掲げられた偉人の肖像達が、その瞳を一斉に煉瓦に向ける。
しかし、
「さっきは隠れてたみたいだったから、今度もいないかと思ったけど、居たみたいで安心したんだな。」
とその熱視線の中でも、煉瓦は迷いなく一つの肖像に向けて歩いていく。
そうしてその絵画の前に立つと彼は、
「親玉は君かな。」
と言って白い蛍光ペンキの入ったバケツを構えた。
※
「おーす、おはよー。」
あーあ、今日は朝から体育だよ。
めんどくせーなーとか思いながらも、俺はいつものように登校した。
俺の挨拶にクラスメートたちはこれまたいつものように「ねみぃ。」とか「だるいよなー。」とかやる気のない応答を返してくる。
昨日は色々あって疲れたが、まぁなんてことはない。今日からはまたダラダラハッピーな日々が戻ってく………。
「おはよう、山城。」
俺に声をかけてきたのは進だった。て、あれ、進?
普段は挨拶をしてこないこいつが、わざわざ声をかけてくるなんて、もしかして。
俺は即座に進の次の言葉を悟った。
「今日の放課後も頼むぞ。」
やっぱりかーーーー!!!
いやだよ、絶対嫌だ! どれくらい嫌かって言うと「ざんねんですが、ぼうけんのしょはきえてしまいました。」くらい嫌だ。
いや、まてよ、やっぱり冒険の書が消える方が嫌だわ。
「今日は“廊下を走る音”についての調査だ。楽しみだな。」
いや、俺は全然楽しみじゃないです。
そうだ、蛍子と煉ちゃんにも一緒に「行きなくない」って言って貰えば反対多数で中止になるはずだ。よし、じゃあ、早速頼みに………。
と考えていたときに、
「進くん! 」
と言ってこちらに走ってきたのは蛍子だった。お、蛍子いいタイミングだぞ、さぁ、一緒にこの探検バカに自分の立場を分からせてやるんだ!
蛍子は進の前に立つと、
「進くんがあんまりにも熱心だから、昨日言ってた“七不思議”について調べてきたんだけど………。」
と不機嫌そうに話を始める。
その様子に俺は、おお、いいぞ。俺が話を振らなくても勝手に反対意見を出してくれそうだ。
とか一瞬都合のいいことを思ったが。
実際にはこうだった。
「………あれってスゴく面白いね!! 」
蛍子はそう言って急に目を輝かせ、進に詰め寄る。どうやらオタクの変なスイッチが入ってしまったらしい。まじか。
これじゃあ、反対多数は無理だな。
しかし、2対2ならギリギリ中止にワンちゃんある。俺は、煉ちゃんを味方につけるべく彼の机に駆け寄ったが。
「すよー。」
やっぱりか………。
睡魔の煉ちゃんの名は伊達じゃない。
煉ちゃんはあと2分でホームルームだと言うのに、ゆすっても起きないほど夢世界の深部に突入しているようだった。
その上、落ち込む俺にさらに追い討ちをかける声が響く。
「全員賛成だな。じゃあ、今日の放課後、廃校舎の校門前に集合だ。」
いや、俺と煉ちゃんはまだ賛成どころか意見もしてないんだが。しかし、当然と言うべきかそれを言う間もなく、進は強行採択に至った。
※
それと同じとき、廃校舎の音楽室に足を踏み入れた者がいた。その人物は、
「なるほどね、流石ね。」
と音楽室の肖像画を見て言う。
そこには、無駄に美しい油彩タッチで、渾身の決めポーズをする煉瓦が描かれていた。
「流石に………ちょっと引くわ。」
つづく!