恐ろしいこと言うなっ!
―調査3 恐ろしいこと言うなっ!―
「ま、まじか…。」
俺は音楽室の中を一見して、足がすくんだ。
なぜなら部屋のなかに、ぼぅっと、二つの青白い光が浮かんでいたから…!
こ、これは…これは叫んでいいよね!?
いや、やっぱ駄目って言われても叫ぶわ!!
「ぴぎゃぁあぁああああ!!!!!?」
俺は思った、ハッピーエンドに行き着くには
ここは全力でrun away(逃亡)するしかねぇー!と。
だが、
走り出そうとした途端に襟を後ろから掴まれて、その行動は敢えなく止められましたとさ、めでたくねぇ、めでたくねぇ。
「走ると危ないんだな、界記くん。
ここは二階だし、床が腐ってるんだな。」
襟を掴んだのは、煉ちゃんだった。
煉ちゃんはほとんど開いていない眠そうな瞳をこちらに向けながら、あくび混じりに言う。
「今ここで走ったらrun away(逃亡)がpass away(他界)に化けるんだな。そしたら、まず間違いなくバッドエンドなんだな。」
怖いことをいうんじゃねーよ!
あと、煉ちゃん、心でも読んでんのかよっ!
さっきの俺の脳内会話、完全に聞いてたやつの発言だろ!それ!
「聞いてたんだな。」
は!?
「全部声に出てるんだな、界記くん。」
ええええええええええええ?!
まじで!?
「どの辺から漏れてた?!」
煉ちゃんは、うーん、と考えてから、ゆっくりと口を開く。
「俺は昨日買った新作ゲームを抱き抱えながら…の辺りからなんだな。」
うわぁああああ!最悪だぁあああ!!!
進に話を聞いてなかったのがバレるぅ!!
「心配してる点がおかしいんだな。」
おかしくねーよ!
これ知られたら、進くんのテスト予言(テスト問題傾向を当てて、プリントを作ってくれる)が無くなるだろうがっ!
「小声だったし多分、進くんには聞こえてないんだな。
…というか、界記くんはちゃんと自分で勉強すべきなんだな。」
わかってるよ!でも、いつもテスト中寝ててゼロ点の煉ちゃんに言われたくねーよ!!!
「僕は、人として大事なことは自然と調和して暮らす…田畑を耕し、山林を管理することであって、勉学ではないと心得てるんだな。だから、テストの点は気にならないんだな。」
気にしろよっ!!
後、農業従事者と林業従事者は勉強嫌いでいいとかそんな理屈ないからね!
「て、こんな漫才してる場合じゃなかった!!」
俺ははっと現実に返った。
謎の光の魔力により恐ろしいことが起こる前に逃げ出さなければ…!
そう思った矢先。
「帰るぞ。」
進が音楽室の中から歩いてきた。
しかし、その表情に怪異を見つけた喜びや恐怖は伺えない。
「どうしたんだよ、進。怪異見つかったのになんか…」
俺がそう言いかけると、進はそれを遮るようにこう言った。
「今回は空振りだ、これを見ろ。」
そして、手のひらになにかを載せて俺の方につきだした。
「なにこれ、ちっちゃい電球…?」
それは二つの小型のLEDライトだった。
進は悲しそうにため息をついて、俺に言う。
「絵画の目の部分にこれが埋め込んであった。この辺りに住んでる誰かのいたずらだろう。恐らく、噂もこれが原因だ。」
まぁ、俺は元々七不思議なんて胡散臭いものは信じてはいないし、最初からこれは偽者だってわかってたけどね。
進は淡々と言う。
「今日はもう引き上げよう。睡眠時間を削るのは得策じゃない。」
え?“今日は”?
まさか明日もやるの?これ!?
俺は心の中でツッコミを入れたが、
進に伝わるわけもなく、あいつは来たときのようにすたすたと、俺たちの横を歩いて行った。
俺は急いで、他の二人に声をかける。
「じゃっ、俺たちも帰ろうぜ。」
「そうね、ここに長居するのは危険そうだし。」
「分かったんだな。」
二人はすぐに俺の言葉に頷いて、俺達は三人で歩き始めた。
が、少し歩いた所で煉ちゃんが唐突に立ち止まる。そして、ポケットを探る動作をしてから言った。
「あ、音楽室に忘れ物しちゃったんだな、ちょっと取ってくるから、先に行ってて欲しいんだな。」
「どうぞ。」
「いいけど、気を付けろよ?」
蛍子と俺は顔を見合わせてから言う。
煉ちゃんは俺たちの返答を聞くと、こっくりと頷いて、音楽室に歩いていった。
そして、俺と蛍子も煉ちゃんとは反対に歩き始める。
煉ちゃんが忘れ物なんて珍しいな…。
どうしたんだろう?
いつも、必要以上に動かなくていいようにと、物の管理をしっかりやってる煉ちゃんが忘れ物をしたことには違和感があったけど、俺は魔王を倒し世界を救う方が優先だと考えて、家に直行した。
※
「…見つけたんだな。」
人の居ない、真っ暗な音楽室には二つの青白い光が浮かんでいる。
続く…。