結成!謎の組織
―調査1 結成!謎の組織―
頼りない月明かりだけが差し込む真っ暗な廃校舎を高校生4人組はまとまって歩いていた。一行はギシギシと軋む木製の床板を踏みながら、懐中電灯が照らし出す僅かな視界を頼りに目的の場所を目指している。
唐突に何処からか激しい羽音とカラスの鳴き声が響いた。先頭を歩く1人を除いた高校生たちは割れた窓の外をびくりと見つめる。音のした方には何も無く、最後尾を歩いていた俺は安堵したのと同時に頭を抱えた。
( どうしてこうなった…… )
※――――――――――――――――※
時は遡ること3時間前。
「超常現象、UMA、呪い……この世には現代科学では解明出来ない多くの不思議が残っている!僕たちにはそれを知る権利……いや! 知る義務がある!」
生徒でありながら教壇に立って、そう語るのはきっちりと制服を着こなした眼鏡の男……《探求 進》である。
彼は学校イチの真面目であるのと同時に学校イチの変人でもあった。
俺はそんな奴の演説をいつも通りの呆れ顔で聞き流していたのだが、今日の進は唐突にトーンを変えてこちらに向き直った。
「 ……もちろん、君もそう思うよな? 《山城 界記》」
俺は訳も分からず目を丸くする。
「 え……俺!? 」
それに続けて進は教室の窓際に座っている眼鏡姿の女子生徒にも目を向けた。
「《安藤 蛍子》!」
目を向けられた蛍子は俺以上に驚いて、読んでいた本を盛大に机の前方に倒してしまう。
「 な、なに!? 何の話!? 」
更に、進は目線を動かしてもう1 人の姿を捉えた。
「《江藤 煉瓦》!」
姿を捉えられたのは机に突っ伏してスヤスヤと眠っているふくよかな男子生徒である。
「 ……すうすう 」
彼は進に声を掛けられても構わず睡眠を続けていた。
進は3人の名前を呼び終えると、最後に何故か自信たっぷりの顔で宣言した。
「 僕と君たちは今日から世界の神秘を探求する、陰陽決死団だっ!!! 」
※――――――――――――――――※
そして、俺たちはその日の夜に進に電話で呼び集められ、現在に至る。
( わざわざ、親がいる時間帯に家電に召集掛けてくるし悪意しかねぇよ )
俺がため息をつくとそれを見計らったかのように、進はこちらを振り返って言った。
「 ……と言うわけで、まずは身近な怪奇現象である、“学園七不思議”を調査しようと思っている。全員、理解してくれたな? 」
言葉尻から察するに、先頭を歩く最中にも何か演説をしていたようだ。俺は話を振られるかもしれないと思って慌てて記憶を辿るが、やはり何も思い出せなかった。
( やべぇ、何も聞いてなかった )
だが、最後の言葉からなんとか、進がこの学校に2年前から伝わる《学園七不思議》について調べようとしていることは分かった。
進は再び前に向き直って、懐中電灯でとある教室のネームプレートを照らし出す。
「 では早速、調査に移ろう 」
木製のネームプレートの白色はすっかり剥がれていたが、《音楽室》という黒い文字はなんとか残っていた。進はこちらに背中を向けたまま説明する。
「 今回調査するのは七不思議の1つ《光る絵画の目》だ 」
《光る絵画の目》とは――。
ベートーヴェンだったか、モーツァルトだったか、シューベルトだったか、まぁよく分からないが、音楽室の壁に掛けてある有名な音楽家の肖像画の目が光るという怪異現象である。
学校の怖い話としてはかなり定番の話ではないだろうか。その理由を物語るように音楽室からは置き忘れられた楽器のものなのか微かな錆の臭いがした。
俺と蛍子はその不気味さに思わず後ずさるが、進は構わず引き戸に手を掛ける。
だが、扉はガタガタと音を立てて揺れるだけで、中々右に動かなかった。進は必死に扉と格闘しながら声をあげる。
「 くっ、この扉……レールに何か詰まっているみたいだ。油でも流し込めば開きそうだが…… 」
俺はこれ幸いと進に助言した。
「 壊しても悪いし、さっさと諦めて帰ろうぜ。なぁ、連ちゃん 」
すると、俺より一歩前にいた連ちゃんは進に言う。
「 確か同じ階に家庭科室があったんだな。新校舎への引っ越しは急だったらしいから、運が良ければ油があるかもしれないんだな 」
俺は「え?」と思わず声をあげるが、進は納得したように頷いた。
「 なるほど、家庭科室に行ってみるか。皆もそれでいいな? 」
それに対して口を挟んだのは蛍子である。彼女は渋い顔をして進に言った。
「 ちょっと待ってよ、進 」
進は首を軽く横に傾げて蛍子の方を見る。
「 なんだ、蛍子。何か意見があるのか? 」
やはり幼なじみだけあって、こういう時の彼女は頼りになる。俺は進を止める一言を期待して蛍子の方を見た。
しかし、蛍子はスタスタと音楽室の扉の前まで歩くと引き戸に手を掛けて、開く方向にぐっと力を込める。
「 進の開かないは信用できないよ。進は《もやし》なんだから! 」
そして、「がこん」という鈍い音が響くと悲鳴のような耳障りな音と共に引き戸は開いてしまった。
《つづく》