好きの形
今日も今日とて携帯のアラームで目が覚めるが、なんだかいつも以上に体が重い。アラームが鳴り続けている携帯に手を伸ばそうとするが、それすらもできないくらいに体が重い。
だめだ。起きたばかりなのに意識が遠のいていく。体が動かない。
「ちょっと凛?起きてんの?ってあんた大丈夫!?」
母さんが何か言っている気がするが、よくわからない。もう何も考えられない。
「38度9分か、こりゃ完全にダウンね」
どうやら私は熱を出してしまったみたいだ。そりゃ体もだるいわけだ。
「あー……しんどい……」
「今日は寝てなさい。学校には電話しとくから」
母さんの言う通り今日はゆっくり寝ていよう。こんなんじゃ何もできやしない。
「リン」
「エリー?どうしてここに……?」
なんでエリーがここにいるんだろう。
「リンが風邪をひいたって聞いて、心配で来ちゃいマシタ」
なんだかエリーとの距離がすごく近い。それこそ肌が触れ合いそうなほどの距離だ。
「それは嬉しいんだけど、風邪うつっちゃうから……」
私の風邪をエリーにうつしちゃ大変だ。心配してくれるのは嬉しいけど、少し離れてもらった方がいい。
「風邪は人にうつすと治るって聞きマシタ。わたしにうつしてクダサイ」
「だ、だめだよ、エリー」
私の制止を聞かずにエリーとの距離がどんどん縮まっていく。もうお互いの吐息を感じられるほどの距離になる。
「ん……」
エリーの唇が私の唇に触れる。何が起きているのか全く理解できない。ただエリーの柔らかい唇の感触だとか温かさが心地よいなと思った。
「……夢?」
目を開けると部屋にはエリーはもちろん誰も居ない。
「ありえない……」
いくら熱で参っているとはいえ、あんな夢を見るなんて。もちろん私はエリーのことは好きだ。というか大好きだと言ってもいい。今までエリーのことを抱きしめたいとかもっとエリーと一緒に居たいだとかスキンシップをとりたいと思うことはあってもキスをしたいだなんて思った事はなかった。
「これは本格的に私ダメかも」
まだ頭は痛いし、体はだるい。ただ、それ以上に今の夢が私のメンタルに止めを刺した。私は自分で意識しない内にエリーのことをそんな目で見ていたのだろうか。そう考えると余計にエリーのことを意識してしまう。そもそも私のエリーに対する好きっていう気持ちはどういうものなんだろう。ただの良い友達として?それとも夢で見たような意味でなのか。ぼーっとする頭で考えれば考えるほどにわからなくなっていく。こういうときに限って変な事を考えてしまって余計にダメになっていく。これはよろしくない。
「こういうときは寝るしかない……」
無理やりにでももういちど眠ることにした。今は何も考えたくない。瞳を閉じて再び眠りにつくようにする。
「リン、大丈夫デスカ?」
またなぜかエリーの声が聞こえる。またも私は夢を見ているのだろうか。
「この時期に熱なんてついてないねえ」
「そうね。凛さんにはしっかり休んで栄養のあるものを食べてもらわないと」
まどかと霧香の声も聞こえてくる。
「あ、皆……なんで?」
これもさっきと同じで夢だったりする?残念ながら今は漫画みたいに自分の頬をつねって夢じゃないなんてことをする気力すらないので確かめようがない。
「凛さんが熱でお休みだと聞きましたので、皆でお見舞いに来たんですよ」
「いろいろ買ってきたんよー」
まどかがビニール袋の中からスポーツドリンクとかいろいろ取りだしてくれる。
「ありがとう……」
寝起きで喉も乾いていたしこれはありがたい。
「お身体はどうですか?」
「うん、ずっと寝てたから朝より大分ましになったかな」
まだ体はだるいけど、朝起きたときのような体が全く動かないような辛さはない。
「そっか。良くなってるみたいで安心したね。あたしらも心配はしてたけど、エリーはもう気が気でなかったみたいだったし。今日一日ずっとそわそわしてるというか上の空でさ。」
「そ、それは言わないでクダサイ……」
エリーが恥ずかしそうにしている。なんというか、あまり喜んじゃいけないんだろうけど、嬉しいな。でも、さっき見た夢のせいでなんだかエリーの顔をまともに見れない。夢の中のエリーが再び頭の中に浮かんできてよけいに
「みんな本当にありがとう。この調子だと明日にはなんとかなりそう」
私の変な考えを悟られないようになんとか誤魔化す。
「よかったです。あまり長居してもいけませんし今日はこの辺りで失礼しましょうか」
「そだね。そんじゃまたね。お大事に」
「早く元気になってクダサイ!」
皆が帰って再び部屋の中が静かになる。夢のことを気付かれなかったのは良かったけど、なんだか少し寂しい気持ちになるのは体が弱っているからだろう。
静かになった部屋でぼーっとベッドで横になりながら考えるのはやっぱりエリーのことだった。今日の夢を見て思ったが、私はエリーに対してどういう形の「好き」という気持ちを持っているのだろう。
友達?それともそれ以上の特別な感情だろうか。改めて考えてみると私はやっぱりエリーに対しては特別な感情を持っていると思う。でも、それは夢で見たようなことをする仲になりたいのかということになるとまだわからない。
でも、私のエリーと出会ってからのことを思い返してみるとさっきはスキンシップだとか思ったけど、エリーに抱きついたりしたりってもしかして友達としては過剰なんだろうか。確かにエリーを抱きしめたときはすごく心地いいとは思った。それになんというか下心みたいなものが全くなかった……わけではないと思う。
「私って女の子が好きだったのか……?」
最近というかここ何年かは誰かに恋するなんてことはない寂しい青春を送って来たが、小さい頃は普通にクラスメイトの男の子を好きになったりしていたはずだ。でも、だからといっていわゆるそういう性癖なのかどうかはわからない。異性も同性もいけるっていう人も世の中にはいるわけだし。
「でも、別に私はエリーの裸を見たいだとかそういうやましい気持ちは持ってないし」
誰にするでもない弁明をしてみたが、一瞬エリーのそういう姿を想像してしまった。問題なのはそれになんというかとてもじゃないが人前では口出せない気持ちになってしまったことが問題だった。
「ああ、そうか……」
やっぱり私はエリーのことを友達としてではなく女の子として好きなんだ。
こんな私の気持ちをエリーが知ったらきっと気持ち悪いと思われる。それはすごく嫌だ。私はエリーとは友達でいたい。でも、こんな気持ちを持った私が一緒に居るわけにもいかない。これからのためにも私はエリーと少し距離を置いて一度私の気持ちを整理した方がいいのかもしれない。
こんななんでもないことで自分の本当の気持ちを自覚してしまった。こんな気持ちになんて気付かない方が幸せだったのかもしれない。熱で苦しかった胸が今はもっと苦しく感じた。
丸一日眠っていたおかげで熱はすっかり引いた。それでも今日も学校を休みたいと思うくらいに体が重い。別に体に不調はない。問題は私の気分だ。別に普段から積極的に学校に行きたいとは思わないが、今日はいつもの数倍行きたくないという気分だ。というかエリーに今は会いたくない。
それでも学校には行かなければいけない。鉛のように重い心で制服に袖を通した。
「リン!もう体は大丈夫なんデスカ?」
教室に入るとエリーに声をかけられる。いつもなら嬉しいけれど、いまはエリーには会いたくなかった。
「あ、うん。昨日はありがとう……」
やっぱりエリーの顔をまともに見られない。
「うーん……リン、まだちょっと元気ない気がシマス……」
しかもエリーに私がやましい気持ちを持っていることをこのままじゃ見抜かれてしまいそうだ。
「おはよー。おっ凛もう体大丈夫なん?」
「あ、まどか。うん、もう大丈夫。昨日はありがとう」
まどかも教室にやってきた。思わぬところで助け舟が来てちょっとほっとする。
「いいのいいの。今度なんか奢ってくれればね」
「それが狙いか!」
こうやってまどかと冗談を言い合えるおかげで場の空気というか私の気分も和らいだ気がする。
「そろそろホームルームかあ」
チャイムが鳴った。席に着かないと。今はエリーとあまり話さずに済むホームルームや授業時間にありがたみを感じる。
午前最後の授業が終わってお昼休みになる。今日は何を食べようか。
「リン、お昼ごはん一緒に……」
「ごめん!今日はちょっとお昼休みに用事があって、また今度!」
「あ……」
エリーから逃げるようにして教室から出る。寂しそうな目をしていたエリーの姿を見てまた胸が苦しくなった。だけど、私は今エリーと距離を取らないといけないのだ。ぐっと堪えてその場から逃げだした。
購買でパンを買って屋上で一人でお昼ご飯を食べる。屋上に来たからか始業式の日を思い出す。ここで私たちは友達になった。それからは毎日が楽しくなったって感じた。今思うとあの日から私の生活はエリーが中心になっていったんだと思う。
「購買のパンってこんな味だったっけ……」
もっとおいしかったはずの購買のパンがなんだか味気なく感じた。それに屋上は数少ない学校でのお気に入りスポットなはずなのに、今日はここにいても気持ちが重くなるばかりだった。
重い気持ちを引きずったまま放課後になる。いつもは放課後には多少は晴れやかな気持ちになるものだったが、今日はそうもいかない。
「リン、一緒に帰りまセンカ?」
「ごめん、今日はちょっと行かないといけないところがあって。先に帰ってて」
「そうデスカ……」
そんな捨てられた子犬みたいな目をしないでほしい。罪悪感がものすごい。本当だったら今すぐエリーのことを抱きしめたいし、一緒に帰りたいんだけど、今はだめだ。今の私が一緒に居ちゃいけないんだ。きっとすこしの間距離を空ければきっとこの気持ちも整理できる。それまでは極力エリーとは接しないようにしないと。
それから数日間できるだけエリーとの会話を避けてきたが、私の気持ちは未だに整理できていない。むしろ、どんどん気持ちが大きくなっていってしまう。エリーともっと話したい、触れ合いたい。だけど、そうしてはいけない。矛盾した感情が私の中で渦巻いてわけのわからないものになっていく。
「凛さん。少しいいですか?」
「どうしたの?」
霧香に声をかけられる。いったいどうしたんだろう。
「放課後に少しお時間よろしいでしょうか?できれば二人で」
「うん。いいけど」
二人でっていうことは私個人に話があるってことだろう。
「それでは放課後にどこか落ち着いてお話できるところに行きましょう」
「わかった。それじゃいつもの喫茶店に行こうか」
「はい。ありがとうございます」
霧香の用とはいったいなんだろう。それも放課後になればわかるか。
「今日はどうしたの?」
いつもの喫茶店で霧香と席につく。
「えっと、エリーさんのことです」
エリーの名前を聞いてドキっとした。
「エリーが……どうかしたの?」
「こういうことは口外すべきではないのは承知の上で凛さんだからこそお話します。実はこの前に私とまどかにエリーさんから相談されたんです。最近凛さんがエリーさんのことを避けているように感じると」
やっぱりそう感じられてしまっているのか。実際そうだったから私は何も言えないのだけど。
「えっと、そうかな?」
「言いにくいですが、私もここ最近の凛さんを見てそう感じました……エリーさんと何かあったのですか?」
まさかエリーに恋しちゃってそれを抑えるために距離を開けているなんてとてもじゃないが、話せない。どう言えばいいんだろう。結局言葉が見つからなかった。
「私には言えないこと……でしょうか?」
「ごめん……でも、エリーが悪い訳じゃないの。私が悪いんだ。だから……」
「凛さんとエリーさんに何があったかは私にはわかりません。でも、伝えたい気持ちがあるのならしっかりと伝えるべきだと思います。それが二人にとっていい方向に向かうことだってあるはずです」
そうなのかな。もし私がエリーに好きだって伝えてしまったら少なくとも今までの私とエリーの関係では居られない気がする。もちろん、それ以上の関係になれたら嬉しいが、それ以上に今の関係を壊してしまうことが怖い。
「私もまどかと喧嘩してしまったときにはお互い意地になって言いたいことも言えないなんてことがありました。でも、私たちは自分の気持ちを伝え合って、より仲を深められたと思います。凛さんもエリーさんに伝えたい気持ちがあるならそれを伝えてみてもいいんじゃないでしょうか?」
私にそれができるのだろうか。今だってこの様なのに。
「差し出がましいことを言ってしまいましたが、どうするかは凛さん次第です。ただ、エリーさんは凛さんを待っていることを忘れないでください」
「うん、私がどうエリーと向き合うのか考えてみる……ありがとう霧香」
確かに霧香の言う通りだ。このままじゃいけない。いつまでも今みたいに逃げ続けることなんてできないんだ。
ベッドで横になって一人でエリーのことを考える。霧香に言われてエリーと向き合わないといけないって思えるようにはなったんだけど……どうすればいいんだろう。かれこれ3時間は考え込んでみたが、全く解決の糸口が見えない。
「あー、どうすりゃいいのさ……」
結局考えても何も見えてこなかった。こういうときはもう当たって砕けろだ。もともとめんどくさがりやな私にはこうやって考えることなんて向いてないのだ。
『こんばんわ。明日の放課後に少しいい?話があるんだ』
携帯を取りだしエリーにメールを送信する。メールを送ってからエリーに何を話すか何も考えていないことを思い出してちょっと後悔したが、もう遅い。メールは既に送信されている。それからすぐに携帯のバイブが鳴りだした。携帯の画面を見るとエリーからのメールが返ってきていた。
『はい。明日待ってます。私も凛に話したいことがあります』
エリーからのメールにはそれだけが書いてあった。もうこうなってしまったら引き返せない。これは腹をくくるしかないだろう。それにもうこんな辛い気持ちを抱えたままなのも嫌だし、何よりもエリーのあの寂しそうな顔をさせたくない。
ホームルームが終了してついに放課後になった。
「エリー、あの、いいかな?」
「あ、はい……」
なんだかお互いの間にぎこちない空気が流れている気がする。前まではこんなことはなかったのに。これも私のせいでこうなってしまったのだと思うと胸が苦しくなった。
「屋上でいい?」
「はい」
屋上なら人もいないし、落ち着いて話せるだろう。
屋上に着くと優しい風が頬を撫でる。最近はどんどん暖かくなってきていよいよ春も終りなんだなと実感させられる。春の始まりの日にここで私たちの関係も始まった。ならその関係性が変わる時もここで話をするべきだと思った。ただ、どう話を切り出せばいいのだろう。
「リン、ごめんなさい!」
話をどう切り出そうか迷っていたらなぜかエリーに謝られてしまった。
「え?」
「わたし、リンになにかしてしまったんじゃないかって、それでリンはわたしのことが嫌いになったんじゃないかってずっと考えてたんデス。でも、わたし頭が悪いからなにがいけなかったのかわからなくって……」
エリーが今にも泣きそうにな表情になっている。私がこうさせてしまったのかと思うと心苦しい。
「違うよ!そうじゃないの……」
エリーに悪いところなんてない。それを伝えないと。でも、なんて言えばいいのか。
「えっと、その……」
怖い。私の気持ちをエリーの伝えて嫌われるのが怖くて言葉が出ない。でも、こんな悲しそうなエリーをもう見たくない。
「あのね、私が悪いの」
「え?」
「私、エリーに対していけない気持ちを持ってたんだって気付いちゃったんだ。だから、エリーから離れないと私エリーに嫌われちゃうって思って……」
うまく言葉をまとめられなくてよくわからなくなる。そんな自分がたまらく惨めで情けなくて涙があふれて来る。
「ごめん、ごめんねエリー……」
涙があふれて止まらない。言葉も出ない。すると、エリーが私を抱きしめてくれる。
「ダメだよ。私エリーにそうやって慰めてもらう資格なんてない……」
私はエリーを傷つけてしまった。それに私が本当の気持ちを打ち明けたらもっと傷つけてしまうかもしれないのに。それなのにエリーのことが好きだって気持ちが止まらない。
「私、エリーのことが好き……」
気付けば私はエリーに気持ちを打ち明けている。これじゃもう私に理性なんて残っていないのかもしれない。
「わたしもリンのことが好きデス」
「そうじゃないの。私エリーとキスしたりしたいとか、そういう意味で好きになっちゃった……女の子同士なのに気持ち悪いよね?だから、私エリーにこの気持ちを知られたくなくて、嫌われたくなくてエリーから離れようって思って……」
ああ、言ってしまった。もうお終いなのかな。そう思うとすごく悲しくなってどんどん胸が苦しくなった。
「リンのバカっ!そんなことでわたしリンのこと嫌いになったりしないっ!」
「そんなことって、私本気で悩んでたんだよ!」
これまであんなに辛かったのにそんなことで一蹴されてしまう。
「わたしリンのことが大好きでずっと一緒にいたいって思いマシタ。リンがわたしのことをどう好きかなんて関係ないデス。わたしはリンがわたしを好きだって思ってくれてるって分かっただけで十分幸せなんデス……」
「私のこと気持ち悪くないの……?エリーのことをそんな目で見てたんだよ?」
「そんなの関係ないデス。わたしだってリンが好きデスから……」
エリーがこんなに私のことを想ってくれていることは嬉しい。でも、私とエリーの「好き」はきっと違うものだ。そして私のエリーに対する「好き」は本来異質なものなのだ。
「わたし、今リンに言われて気付いたんデス。わたしもリンのことを友達の好きじゃなくてそれ以上なんだって」
「え?それってどういう……」
「わたし、リンが好きデス。一人の女の子として」
私はまた夢でも見ているんだろうか。エリーの「好き」も私の「好き」と一緒だなんて。こんな私にとっていいことがあるのだろうか。
「ほ、ほんと……?」
「はい。やっと気付きマシタ。わたしリンに恋しちゃってたみたいデス……」
今度は嬉しくて涙が止まらない。私の気持ちがエリーと一緒だった。こんなに嬉しいことはない。
「リン泣かないで……わたしもなんだか……うう……」
エリーまで泣きだしてしまって二人で子どもみたいにわんわん泣いた。でも、この涙は決して悲しくて辛い涙じゃない。それだけで今は幸せだった。
「ごめんねエリー。その、私のせいで……」
「いえ……」
エリーも私も泣き止んで今は屋上に二人で並んで座って屋上から見える街並みを静かに眺めている。隣に座っているエリーの手と私の手が重なり合っているのがなんだか幸せだった。
「こうやって二人でここからの景色を見てると私たちが友達になったときのことを思い出すな」
「あの日からまだそんなに時間が経ってないのになんだか懐かしいデスネ」
エリーが穏やかな笑みを浮かべながら景色を眺めて言った。今はこの景色よりもこの笑顔をずっと見ていたいと思う。
「私ずっと怖かったんだ。エリーに嫌われるかもしれないって。だから、今すごく安心してる。エリーの気持ちと私の気持ちが同じで良かったって」
「わたしもずっと不安デシタ。リンとあまり話せなくなって、わたしリンに嫌われちゃったのかなって思ったらすごく嫌な気持ちになって……」
あのとき私はエリーにそんな気持ちを抱かせてしまっていたのか。今だからそう思えるのかもしれないが、数日前の自分を引っ叩いてやりたい気分になった。
「なんだかわたしたち同じようなこと考えてマスネ」
「そうだね、なんだかおかしい」
私たちに自然と笑みがこぼれる。
「そうだ。リン、わたしたちってこれから恋人同士になるんデスカ?」
「え?えっと……そうなれたら私は嬉しいなって……」
突然エリーから話を切り出される。一応両想いだったことはわかったからそういうことでいいのかな。でも、私ちゃんとエリーに告白とかしてないしな。
「わたしも、リンと恋人同士になれたら嬉しいデス」
はにかみながらそう言うエリーはすごくかわいくて今すぐ抱きしめたくなったが、ぐっと堪えて改めてちゃんとエリーに私の気持ちを伝えよう。
「その、改めて私はエリーのことが好きです。私と付き合ってください」
ようやくしっかりと私の気持ちを言葉にすることができた。たったこれだけの言葉を口にするのに随分と遠回りをしたなと思う。
「はい。喜んで!」
この日私たちは友達から恋人になった。二人の気持ちが通じ合うことがこんなに嬉しいことだなんて知らなかったな。ついこの前まであんなに悩んでいたのが嘘みたいに思える。
「リン」
「どうしたの?エリー」
エリーが甘えるように私に身を委ねる。今感じるエリーの重みや体温の暖かさ全てが愛おしい。
「わたし、リンとキスしたいデス……」
「えっ!?」
エリーの告白に思わずドキっとしてしまった。
「ダメデスカ……?」
エリーが私の眼を見つめている。この上目遣いはずるい。……なんか初めてエリーと屋上に来た時も似たようなことを思った気がする。いや、そんなことよりここで引いたらいけない。私だってエリーとその、キスをしたいって思ってたわけだし。
「えっと、私も……したいです」
緊張してなぜか敬語になってしまった。エリーが瞳を閉じて私を待っている。私も恐る恐るエリーの唇に私の唇を近づけていく。
ああ、エリーの顔ってやっぱり綺麗だ。エリーの顔を間近で見ると改めてそう思った。
「ん……」
二人の唇が重なる。夢で見たのと全然違う。柔らかくて優しい温かさがあって、キスってこんなに気持ちいいものなんだって思った。しばらくお互いの唇を重ねてから離れるとなんだかすごく幸せな気持ちと恥ずかしい気持ちが入り混じって変な表情になってないか不安になる。
「キス、しちゃいマシタネ」
「うん……」
さっきまで二人で大泣きしていたからかこのファーストキスは少ししょっぱい味がした。でも、それがなんだか私たちらしいという気もする。
「これからもよろしくね、エリー」
「はい。わたしもよろしくお願いシマス!」
私たちの関係は友達から恋人へと変わった。私は二人の関係が変わるのをずっと恐れていたけれど、今こうして新しい関係をエリーと共有できてすごく幸せに思う。こうなるまでに辛い思いもしたけど、これからはきっと、いや絶対今まで以上に楽しくて幸せな日々が待っていると思う。エリーもきっとそう思っていると今では確信できた。
 




