春の訪れ
携帯のアラームで目が覚めた。もう四月なのにやっぱりまだちょっと寒い。このままベッドから出たくないけど、私の携帯はさっさと起きろと言わんばかりに大音量でアラームを鳴らし続けている。
「わかったよぅ」
覚悟を決めてベッドからもそもそと出てアラームを止める。そうでもしないと母さんに無理やりベッドから引きずり出されてしまう。だったら自分で起きた方がマシだ。
「だるい……寒い……眠い……」
ぼやきながら一階へと降りる。朝なんて愚痴でも言わないとやってられないのだ。
冷たい水で歯磨きと洗顔を済ませ朝食を摂りに朝の食卓へ。
「おはよ。ふわぁ……」
「おはよう。なんかだらしないわね。もうちょっとシャキっとしなさいな」
欠伸をしながらリビングに入ると母から叱咤の声が。なんでこの母は朝からそう元気なんだ。私も同じ遺伝子持ってるはずなのにこの差はいったいどこで生まれたのやら。
「眠いものは眠いんだよう。体が眠りたいと訴えて止まないからしょうがないでしょ」
「あんたはもうちょっと気を引き締めて生活すべきね」
そんなこと言われても体の欲求には抗いがたいものなのです。
「ほら、さっさと食べて準備しちゃいなさい」
朝ご飯くらい優雅にのんびり食べたいものだ。
急かされての朝食を終えて制服に着替える。教科書やらノートやらは基本学校に置きっぱなしなのであとは筆記用具やらが入れっぱなしの鞄を持って行くだけだ。
「行ってきまーす」
「はい。行ってらっしゃい」
玄関を出て学校へと向かう登校という一日で一番憂鬱な時間だ。
それに、今日から普通授業が始まる。つまり、昨日みたいにお昼には放課後なんてことはなくなるのである。さようなら午前授業。こんにちは通常授業。できるなら二度と君とは顔をあわせたくなかったよ。
我が校名物(悪い意味で)の通学路の坂道を登って学校を目指す。この坂道がなかったら幾分かはこの通学時間の憂鬱加減もマシになるのにな。
長い坂道を登り終え、新しく場所が移った下駄箱から教室へ、2年生になると教室が2階に変わるから階段を上らなくてはいけなくなる。一年生のころは一階に教室があったので、今思えば恵まれた環境だったんだなぁと思う。
「あ!オハヨウゴザイマス!リン!」
教室に入るとオルコットさんじゃなくて……エリーにとっても元気な声で迎えられた。
「おはよーエリー」
なるほど。エリーも朝から元気なタイプか。羨ましい。その元気を私にもちょっと分けてほしい。
「きょうもリンにあえてうれしいデス」
ニコニコしながら超ドストレートな言葉の剛速球が飛んできた。面と向かってこんなこと言われたことなんてないからめちゃくちゃ恥ずかしい。そりゃ嬉しいけどさ。
「あ、ありがとう?」
こういうときなんて返せばいいのかわからずに変な答えになってしまった。
「えっと……ドウイタシマシテ?」
なんか変な会話になってしまった。
「おはよー。おや、凛とオルコットさんはもう仲良くなったのかい?」
後ろからたった今教室に入ってきたまどかに声をかけられる。
「わたしのはじめてのトモダチになってくれマシタ! 」
「ほー、んじゃ2番目にはあたしが立候補しちゃおっかな。友達ってことであたしのことはまどかって呼んで」
「わっうれしいデス!ヨロシクオネガイシマス!わたしもエリーってよんでクダサイ」
まどかのこういういい意味で軽いテンションは気楽に付き合えるから私でもすぐに打ち解けられた。まどかはエリーともさっそくその高いコミュ力を発揮しているようだ。
「エリーならすぐにもっと友達できるよ。昨日だってずっと人気者だったしね」
「リンにそういってもらえるとなんだかうれしいデス」
笑顔がまぶしい。こんないい子で見た目もいいなら友達作りに苦労なんてしないだろう。
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。ホームルームの時間だ。
特に変わったこともないままホームルームが終わり、一時間目の国語の授業が始まった。国語は数学とかみたいに無理やり頭を使ってる感がないからまだマシな教科だ。
何気なく隣に視線を向けるとなにやら難しそうな顔で教科書と睨み合っているエリーの姿が。
やっぱり文字はまだあまり読めないのだろうか。
「エリー」
小声でエリーに声をかけて手招きのジェスチャー。
「読めないとこあるんだったら教えたげる」
「アリガトウゴザイマス」
机をくっつけてエリーが読めない部分は私がフォローする形で授業を受ける。
エリーが苦戦しているのは漢字みたいだ。確かに同じ字でも読み方とか意味が全く変わったりするのもあるし使い慣れていない人にとっては難しいのかな。そんな感じで授業を受けているうちに一時間目終了のチャイム。
国語担当の先生が教室から出て行くと同時に休み時間特有の騒がしさが教室に戻っていく。
「またリンにたすけてもらっちゃいマシタ……」
「いいよ、気にしないで」
申し訳なさそうにするエリー。私から勝手にやったことだし本当に気にすることないのに。
「やっぱり漢字って難しい?」
「ハイ。カンジもいっぱいれんしゅうしないとデスネ」
漢字の練習って小学生の時にやった漢字ドリル的なやつだろうか。宿題で出されてめんどくさがりながらやった記憶しかないなぁ。それを自発的にやろうなんて私にはとてもじゃないが無理だ。
「熱心だねぇ」
「日本のホンいっぱいヨみたいデスシ、ガンバリマス!」
それからの授業も一時間目と同じような感じでやっていって待ちに待った昼休み。やっぱりこの時間はお腹が空く。早くお昼にしたい。
今日のお昼は何を食べようか。
「リン、きょうもいっしょにおひるたべまセンカ?」
今日の昼食のメニューに思いを巡らせているとエリーからランチのお誘い。
まどかも誘ってみようかと思ったが、既に教室にまどかの姿はない。なるほど、今日から普通授業だからスピード重視ということか。それなら仕方ない。
「うん、どこ行こっか?」
「きのうのショクドウでいいデスカ?」
「食堂か……まあどこでも今日からは同じだよね。うん、それじゃ行こっか」
そう、今日からは購買だろうが食堂だろうが変わらないのだ。
「わぁ……」
食堂に着いたエリーはこの混沌とした様子に呆然としている。そりゃそうか。昨日はガラガラだったのに、今じゃ人で溢れ返ってるんだもの。
「よし、行くよ」
「ハ、ハイ!」
意を決して戦場へ。戦わなければ昼食にはありつけないのだ。私たちは食券を手にすべく映画の主人公に群がるゾンビのような人の波の中へと向かう。
「リ、リ~ン!」
突入した途端に早速エリーが人の波に流されそうになってしまっている。
「ちょ、エリー!大丈夫? 」
「ハ、ハイ……ショクドウってじつはすごいんデスネ……ちょっとこわいデス……」
涙目になっているエリー。まあこれじゃあね。
「よし、それじゃ手繋いで行こ。離したらまたさっきみたいになっちゃうから離さないでね」
「ハ、ハイ!」
エリーの手を取って再び戦場へ。
何度か二人で人の波に呑まれそうになりながらなんとか食券を購入。この日私たちは勝者になったのだ。
私は今日の戦利品はカツ丼セットにした。前にまどかに
「凛って食べる物が男の子だよね」
なんて言われたけど、安いし量も多いしでいいこと尽くしなんだからこういうのを選ぶのは当然だよね。そういえばエリーは今日は何を食べるんだろう。
その後なんとか席を確保できたのはラッキーだった。席についてようやく昼食にありつける。エリーはうどんセットにしたみたいだ。
「なんだかすごくつかれマシタ……」
「今日から本格的に学校が始まったからね。みんなここか購買に押し寄せて来るんだよ」
これが毎日のように続くんだから恐ろしい。でも、こうでもしないと昼食にありつけないのだからめんどくさがりな私もこればかりは避けて通れない。母さんがお弁当作ってくれれば万事解決なのに、以前めんどくさいと一蹴されてしまった。
朝が弱く、自他共に認めるめんどくさがりな私にはもちろん自分で作るという選択肢は初めから存在しないので、昼食は学食か購買かとなるのは必然といってもいいのだ。
「でも、こんな大変なことしたあとだからご飯がおいしく感じるよ」
一苦労した後のご飯は美味しいものだ。
「そうデスネ。とってもおいしいデス」
昨日もそうだったけど、エリーは美味しそうにご飯を食べる。そんなエリーを見ているうちになんかうどんも食べたくなってきた。さすがに財布の中身
と体重がオーバーヒートしてしまうので今日はカツ丼一筋ですが。
「おふぁえり~」
怒涛の昼食を終えて教室に戻ると戦利品の購買のパンを頬張っているまどかの姿があった。ウチの学校の購買は近くの結構おいしいパン屋からパンを仕入れていてこちらもかなりの激戦になるのだけど、どうやら向こうも今日の戦果は上々みたいだ。
「食べながら喋るのは行儀が悪いわ。まどか」
まどかと向かい合ってお弁当を食べているのはクラス委員で生徒会メンバー、テストはいつも学年トップとかいう真面目を絵に描いたような霧香。
割となんでも適当なまどかと霧香は性格がなんとも合わなそうなものだけど、幼馴染なだけあって案外馬が合うらしい。
「凛さんたちは今日は学食だったんですか?」
「うん。今日も大混雑だったよ」
私も霧香とは普通に生活してたら接点なんてなさそうなものだけど、まどかとつるんでるうちに霧香とも結構親しくなっていた。去年はテスト勉強とか教えてもらったしお世話になっております。
「まどかも凛さんもすごいですね。私にはあの混雑具合を乗り切る自信はありません」
「でも、霧香ってば毎朝自分で弁当作ってるんでしょ?そっちのがすげーわ」
それには私も同意だ。毎朝弁当作りとか私には三日も続かないだろうな。
「慣れてしまえば苦ではないけれど……そういえばオルコットさんも今日は学食だったんですよね。みなさんすごいです」
「わたしもリンがいなかったらとおもうと……」
あの様子を思い出してか少し震えているエリー。まあいきなりあれじゃトラウマになってもおかしくない。エリーなんか今日は人の波に流されそうだったし。
「あら、そういえばオルコットさんとちゃんと自己紹介していませんでしたね。私は悠木霧香と申します。よろしくお願い致します」
「あ、わたしはエリー・オルコットデス。ゴテイネイにドウモアリガトウゴザイマス。ヨロシクオネガイシマス」
「昨日はオルコットさんは皆さんに囲まれていてお話するタイミングが無かったので、お話しできて嬉しいです」
確かに昨日のエリーの状況じゃゆっくり話なんてできたもんじゃない。
「もー二人とも硬いよー。それにただでさえ霧香は真面目すぎんだからさ」
「まどかがだらしなさすぎるのよ。でも、そうね。私もエリーさんって呼んでもいいでしょうか?」
「ハイ!わたしもキリカさんってよんでいいデスカ?」
「はい。そうしてくださると私も嬉しいです」
やっぱりエリーはすぐに誰かと打ち解けられる才能的ななにかを持ってるんだと思う。もうこの場に馴染んでるみたいだ。
「じゃあ友達3号は霧香かー」
「3号?よくわかりませんが、私もエリーさんとお友達になれるのは嬉しいです」
「トモダチ……リン!またトモダチができマシタ!」
「おー。よかったねエリー」
本当に嬉しそうだなぁ。なんか見ていて微笑ましいというか。子どもを見てる親ってこんな気分なのかな。思わず頭を撫でてしまいそうになった。
「でも、やっぱエリーが一番なついてるのは凛か。昨日一日でここまで口説き落とすとはやるな」
口説いたっていうのは語弊がある。少し他のみんなよりも一緒に過ごした時間が多いだけだ。
「変なこと言わないの。ほら、そろそろ昼休み終わっちゃうよ」
「おっと、まだパン食べ終わってないって!」
まどかは再びパンにかぶりついてラストスパートをかけるみたいだ。
「もう、行儀が悪いって言ったでしょう」
こんな二人のやりとりを見るたびに霧香はまどかのお姉さんみたいに思えてくる。
「なんだかキリカはマドカのおねえさんみたいデスネ」
エリーも同じことを思ってたみたいだ。
「やっぱそう見えるよね」
思わず二人で笑ってしまった。
午後の授業も終わってようやく放課後だ。あとは帰ってごろごろするだけだ。
「ん?」
ポケットに入れてる携帯のバイブが鳴ってる。
「うげ」
携帯を取り出してみると母さんから帰りに駅前のスーパーで買い物してから帰ってこいとのメールだった。家に帰ってだらけるという夢の計画は一瞬にして消滅しました。この世に救いはないのか。
「リン?かえらないんデスカ?」
携帯を見て絶望に暮れているとエリーに声をかけられた。
「んー。帰るけど、駅前までおつかいのミッションを終わらせないといけなくなってね……」
「リンもエキまでいくンデスカ?わたしもこのあといくんデスケド、いっしょにいってもいいデスカ?」
「うん。それじゃ一緒に行こう」
「そういえばエリーってどの辺に住んでるの?」
駅のほうに向かう途中でなんとなく気になったので尋ねてみた。
「えっと、このまえのコウエンのすぐ近くデス」
「そっか。それじゃ駅も学校も結構家から近いんだね。いいなぁ」
うちはどっちからも微妙に離れてるからなぁ。
「あれ?そういえばエリーってこっちではどっかに下宿してるの?」
それとも家族で引っ越してきたとか?でもそれじゃあ留学って言わないか。
「ゲシュク?」
「あ、ごめんね。こっちではどこかに泊まってるの?」
「わたしのおじさんとおばさんのおうちにとめてもらってマス」
なるほど。親戚がたまたまこの街に住んでいたってことか。まあ、そうでなきゃこんな田舎よりももっと都会の方とかにするよね。
「でも、ここにこれてほんとによかったデス。トモダチもできて、リンにもあえマシタ」
エリーはたまにこうも恥ずかしい台詞をさらっと口にするから恐ろしい。言われた私のほうが恥ずかしいじゃないか。いや、嬉しいけどさ。普段からこういうことを言われることなんて今までまずなかったから耐性がないのです。
「エリーってもしかして天然ジゴロってやつ?」
「???」
エリーはよくわからないといった風に首をかしげている。まさしく天然物だ。
そうこうしているうちに周囲に店も人も増えてきた。もう駅まですぐのところまで来ていたみたいだ。この時間は学校帰りの学生やら夕飯の買い物に来た親子連れだとかで結構賑わっている。
「そういえばエリーもおつかい?」
「ハイ。きょうのばんごはんのざいりょうをかってきてっておばさんにたのまれマシタ」
どこの家庭も食材の調達は子どもに任せるものなのか。
「そうだ。せっかくだしちょっとお茶していかない?」
せっかくここまで来たのにおつかいだけして帰るのもなんかもったいない気がしたのでエリーを誘ってみた。
「あ、ハイ。でも、わたしこのあたりのおみせまだあまりしらないデス……」
「それじゃ、私の知ってるお店でいい?」
たまにまどかや霧香とも来るケーキの美味しい喫茶店がある。私は自発的にこの辺りまで来ることは少ないのでそんなに来た回数は多くないけど、それなりにお気に入りのお店だったりする。
「ハイ。たのしみデス」
店内の奥にあるテーブル席に着いてすぐに店員さんがメニューを持ってきてくれた。今日は何にしようかな。
「ここのお店はケーキが美味しいんだよ」
「そうなんデスカ。なんだか迷っちゃいマス」
そうなんだよね。ここに来ると何にするかいつも迷っちゃうのが悩みだ。幸せな悩みなんだろうけど。
さて今日の私の口は何を求めているのか。
「よし、決めた!」
しばらく迷ってなんとか今日の相棒を決定。
「わたしもきめマシタ」
ちょうどエリーも決まったみたいだ。
「すいませーん!」
店員さんを呼ぶ。
私はガトーショコラとホットココアにした超甘々だけど、それがいいのです。
エリーはチーズケーキと紅茶のアッサムを頼んだみたいだ。なかなか素晴らしい組み合わせじゃないか。やりおる。
しばらくしてから二人の注文したケーキとお茶が届いた。これこれ、この時を待ってたんですよ。
「うわぁ、おいしそうデス」
「味もバッチリだから食べてみて」
チーズケーキを口に運んだ瞬間エリーの顔がぱあっと明るくなる。本当に表情豊かな娘だなぁ。
「おいしい……」
「でしょー。やっぱりここのケーキは最高だよね」
私もガトーショコラをいただくとしましょうか。
「あーやっぱ美味しいな」
口に入れた瞬間にチョコの濃厚な甘さと少しのほろ苦さが絶妙な感じに広がっていく。今の私は世界中でも最高に幸せな瞬間を過ごしているだろう。
「うん。やっぱり来てよかった」
「ハイ。こんなおいしいおみせにこれてよかったデス」
エリーも喜んでくれてよかった。やっぱりここに寄って正解。
「リンはたくさんすてきなところしっているんデスネ。すごいデス」
「そんなことないって。大袈裟だよ」
ただこの街で人生のほとんどを過ごしてきただけですから。
「でも、ほんとにここのケーキはいつも何にしようか迷うんだよね。みんな美味しいから」
「そうデスネ。とってもおいしくてほかのメニューもたべたくなっちゃいマス」
そうそう。でもそう何個も食べられるほど安いわけでも低カロリーなわけでもないのだ。
「そうだ、せっかくだしこっちのケーキも食べてみる?」
「いいんデスカ?それじゃ、わたしのチーズケーキもどうぞ」
誰かと来た時にはこういう風にお互いのケーキを交換したりできるからいいよね。
「ハイ、どうぞ」
エリーがチーズケーキを一切りしてくれたフォークを差し出してくれた。あれ?これっていわゆる「あーん」ってうやつだろうか。エリーはニコニコしながら私がケーキを食べるのを待っていてくれている。なんか恥ずかしいけど、ここでいただかないのも失礼だろう。
エリーからあーんしてもらったチーズケーキをぱくりと一口でいただく。うわぁ……チーズケーキも美味しいなぁ。こっちにしてもよかったかも。
「チーズケーキも美味しいなぁ……っとこっちのもどうぞ」
これって私もあーんってしてあげた方がいいのかな。少し迷ったけど、意を決して私もあーんで返すことに。
エリーは恥ずかしそうな様子も無くぱくりとガトーショコラを一口。
「リンのケーキもとってもおいしいですね……」
エリーは幸せの余韻を噛みしめるようにしている。やっぱりケーキ交換してよかったってエリーを見てると思える。
その後、ケーキを食べ終えて喫茶店を後にしてから、二人で駅前のスーパーでおつかいを済ませてあの公園までは同じ帰り道なので一緒に帰ることにした。
「そういえばもうお花見シーズンか」
公園が見えてきた。もうすぐでこの辺りも桜が見ごろになるらしいってニュースで言ってた気がする。
「オハナミ?なんデスカそれ?」
「簡単に言うと桜を見ながら食べたり飲んだりすること……かな」
今のお花見なんて桜は二の次でただの宴会みたいなものなんだろうけど。それにしても我ながらざっくりすぎる説明だと思った。
「サクラはしゃしんではみたことありマス。とってもきれいデシタ。ほんものもみてみたいデスネ」
そっか。エリーはまだ実際に桜を見たことがないのか。
「それじゃさ、今度お花見しよっか?」
「わあ、したいデス!リンとオハナミとってもたのしみデス!」
花見なんてするのは何年ぶりだろう。今まではわざわざ桜を見にいったりもしなかった。外まで行って桜を見るのめんどくさかったし。
持っていくお弁当のメニューはどうしようだとか数年ぶりの花見に思いを馳せてみる。昔に親戚が集まってお花見とかやったときは料理の準備だとか手伝わされてすごいめんどくさかったけど、なぜか今回は面倒だとかそんな気持ちは起こらなかった。むしろちょっと楽しみに感じている自分もいる。
きっとこんな気持ちになったのは春がもうすぐそこまで来ているからなんだろう。