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エスプリ  作者: 笛吹き
6/6

クロール

「君の親切な行動は、君が勇気を持って行ったという観点では評価されない。

その行動を評価する者たちの所属に望ましい点で帰属し、評価される。

だから君は違和感を感じるけれど、すぐに錯覚してその所属となる。

逆にいえば、不親切な行動の帰属はすべて、その当事者となってしまう。


人は、集団でいれば、生産効率を上げられるけれど、

その素晴らしい認知能力の稼働力を鈍らせてしまう。


本当に不親切な行動を当事者だけに帰属していいのだろうか?

その人間はまさか、その時まで1人で生きてきたわけではないだろう。」


平戸は、今、街にいる。

椅子に座り政岡と向き合う形だ。

大葉はその2人を見つめるように座っていた。


世界は変質していた。

冬坂の考えたことはその通りになり、思考と一体していた。


行動の実行と帰属が繰り返され続けている。

人々は街を歩いている。

雑踏の中に空気はない。あるのは、反復である。

同じであって同じではないあの風景は、ここにはなかった。

あるのは常に改変されるその一瞬であった。


「人は不幸だ。不幸で仕方ないから幸を作り出す。しかし、不幸は自然的なものだが、幸は我々が作り出したものだからどうも、不自然で奇妙で仕方ない。

あんなものマネキンとおなじだ。その中で生きるのは不幸でも幸でもない。

ただの虚無だ。」

再構築された冬坂がそこにはいた。

政岡は激しく冬坂をにらむ。

「お前をもっとはやく殺しておけばよかった。」

冬坂は瞼を少し下げ、下を見つめる。

そして悲しげに

「冬坂という人間は自らのイデアを解体してそしてそれを全く異なるものに再変換した。」

大葉は手を挙げた。

「あなたは、見た目は冬坂だ。しかもそれを構築する情報源も冬坂だ。

しかし、あなたは情報の組み換え違いの

他人だと?」

大葉はその長い指を冬坂らしき人を指差す。


「ファースト。」


と平戸は言った。

冬坂はイスという概念に腰をかけた。


「はじめに言葉ありき。あるいははじめに言葉という概念ありき。

君の動向を調べてようやく君本人にお話を伺うわけだ。

媒体というのは建前だ。では、その本音はなんだろうか?

それは、全てが媒体であると同時にそれを流れる中身であるということだ。

全ての物質がお互いを構成し、そしていずれ統合する。

君たちは、今こうして限りなく1つになろうとしている。

数値は拡散と集合を繰り返し、少しずつその変化の幅を狭めてゆく。


では、それは一体何だ?では、概念とは何だ?

人の作り出した錯覚の究極のものか?


私自身が意識という概念であり、その意識に媒体を要求しなければ、私という存在はどこにでも存在する。しかし、媒体は情報であり、情報もまた媒体である。

では、私という存在は、消滅してしまうのか?

しかし、平戸あるいは、フォース、私は消えているか?」

ファースト=冬坂は、平戸だけにではなく、すべてに質問していた。

大葉にも政岡にもそして、冬坂にも。

「消えていない。偏在するあたり、どうも自己概念を変えたな、ファースト。」

「そうだ。それで今はいい。」

とファーストは自らの役を演じる。

「存在するための存在が必要だが、それを意味づけるイデアもまた必要だ。しかし、あんたはイデアだけになっている。存在はあんたにとって並列するものだ。

変更される流れに乗ったあんたは、自己変化を行っていたのか。」

大葉は口をあける。

「平坂慎也。」

と。

「ヒラサカ。彼はヒトとして存在する前にその脳の非物質的空間を広げていた。

つまり平坂慎也はこの概念そのものなのだ。」

ファーストは手をたたいた。

「悩むことはまたしても悩みを作り出してしまうものだ。」

冬坂は、平戸に口を開いた。

「あんたは何をした。俺たちに接近する前にだ!」

平戸は、ファーストと話している間は暗い影を落としていた。

その影は、その冬坂の問いで消えていた。

「改変させたのさ。」

「改変?」

「1人の女性は考えることと生きることの溝を埋めた。

その結果、意味は意味としての居場所を失い、概念は崩壊した。

そして新たな情報存立を確立していた。

それが冬坂と呼ばれる、ファーストの今の在り方だ。

僕はこの流れを小さなものにしようとした。結果できた。

しかし、それはもはや流れとしても存在していなかった。存在を超越するということは、存在そのものだったんだ。唯物論であり同時に唯名論である。

つまり矛盾の正当な存在証明だよ。」

大葉は、

「比山征吾は、平坂慎也である。だから征吾としてできなかった事を完了しようとしている?」

ファーストはまた愉快になった。

平戸はどこを見るともなく声をあげた。

「そうだ。その通りだ。自らが概念となった今、彼は、概念そのものを作り出そうとしている。とんだ台本だ。おい!征吾、いい加減にしろ。」


冬坂=ファースト、大葉、政岡、そして平戸の四人が手に持っている台本。


平戸は、どこかに台本を投げた。


それは腰をかけてカメラを回す比山征吾=平坂慎也に台本がぶつかる。

「おい、なんてことするんだ。」

彼はカメラを止めない。

「お前は彼女の世界で生きることができるのを知った。そして、概念で生きることを知った。」

「そういう廻りくどい言い方はいいんだよ。さぁ、すこし休憩といくか?」

と比山は語りかける。


4人は、座っていた何かから腰を上げ、比山と共にまたしてもどこかの舞台へ消えていった。





戦争が絶えない世界。

もう、第何次戦争ともわからない状況で、大国の首相が、演説に訪れた多くの国民に言葉を発した。

「私たちは、戦争をすれば、傷つき、下手をすれば死にます。

しかし、我々は、戦争という形で、各国が互いに存在の証明をし合っているのです。

私は、こうしてみなさんの前にいるわけですが、あなたちは一向に思考を展開せず

己の存在を己自身で持たず、流浪しています。まさに我々のいまおかれた状況であり、この殺伐とした世界そのものといえます。

ある男たちがいいました。

全てが存在であり、全てが同じものだと。

私たちは、一体なぜ戦争をしてなぜ子を残し

なぜ彼らに戦争をさせているのでしょうか?

私たちは、生きることを死ぬこととしていますが、

同時に別のところで死ぬ事を生きることとしているようです。


私たちが理解できずその原因を見出さずにいるこの現状の正体は、

一体何なのでしょうか?

みなさん、どうか、胸に手を当てて考えていただきたい。」

口を止める首相。

言われた通り胸に手を当てる国民たち。

数秒が経つ。

すると首相はスタンドについているマイクを荒々しく取り上げ、

「正体は、その曇ったお前らの魂だよ」


その顔は、平戸であり、冬坂であり、政岡であり、大葉であり、比山であり、


ファーストであった。












こうして一連の物語はおしまいにします。

まだまだ未熟者で言っていることも夢見がちで理想でしかないと思いますが、内側を変えることを極めていくと一体どうなるのかという事に対してはどうしても夢中になってしまうみたいです。

前回と同じになりますが、稚拙な文章を読んでいただいたことを感謝します。

ちなみに既に新しいものの構想を立てています。よかったら見てください。acknowledgeというタイトルです。

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