帰属
過去の記憶、統合の記憶、現在の記憶。
人の人格が環境という言葉の中に存在するならば、人の意識とは、一体なんなのだろうか。
「政岡さん、あなたは、日本第三課技術研究局長、長田雅彦と強いつながりを持っていた。違いますか?」
大葉は、政岡にそう問う。
政岡は、額から汗を垂らしていた。大葉の言葉など耳に入っていたなかった。
「どうゆう事だ、お前は、何なんだ。」
平戸は、政岡の瞳の一点のみを強く見つめていた。
「あえて言うなら、一ノ瀬真は、僕という存在のこちら側での分身でしょうか?」
「お前は、ヒトではないのか?」
「ええ。人間ではないです。意識体と言いましょうか。」
彼らの頭上の曇り空は変わらない。
「長田は、私の父だ。」
すべてを投げやりになってしまった雰囲気を出した政岡は、ひとり言のように話し始めた。
「この世界の理念は狂ってしまった。変えられるものなら変えたい。ただそれだけだ。君だちだって、内側の世界を何回、変えたんだ?数えきれないくらいに人は、結局世界をいつも変えているんだよ。いつもね。いつもだ。それを対象物が変わったぐらいで、君たちは、何を恐れているんだ?」
大葉は、平戸の表情をうかがう。
「政岡さん、この世に良いことも悪いことも存在しない。ただあるのは、事象だけですよ。
でもね、人は弱いからこそ、意識は脆弱だからこそ、そんなくだらないものに頼るしかないんですよ。」
「それが人ならざる者の客観的意見か。とてもじゃないが、受けれいられないな。この国の政府は、機密特権とやらで、越権行為を好き勝手やってるんだよ。父が私との関係を何もかも捨てなければ、いけないほどね。とんだ話だ。そして、その政府を実質、解体してくれたのは、ヒトなんだよ。」
政岡は、一息ついて薄汚れた椅子に腰を落ち着かせる。
大葉は、時間がたつにつれ、額の汗を増やしていった。
「冬坂鳴海を殺害した動機を教えてください。彼は、あなたに会う前から、既にヒトだったはずだ。」大葉は、政岡の瞳の一点のみを見つめていた。
平戸は、政岡と真正面に向き合う形で、もうひとつの古びた椅子に腰を付けた。
「冬坂は、優秀な人間だった。第三課の再開発計画に特殊な形で関与していた。しかし、この件を君たちが知る必要はどこにある?」
政岡は、今にも崩れそうな天井を見つめて、そう言った。
その天井は鉄筋をむき出しにしていて、落下してくれば軽い怪我では済みそうになかった。この建物の天井はどれもそんな状態だった。
「僕は、こんかいの一件は、すべて知る必要がある。それによって、これからどこに手を出していいかわかる。」
大葉がそう、言葉を発した直後に平戸も口をあける。
「私も大葉くんと同じスタンスだけれど、何分、彼とはおかれた状況が異なるので、そのあとの行動は、異なってくる。この世界の現状を維持したいか、それとも変革をもたらしたいか、どうでもいいということだよ。君たちは、確かに突出した異質な存在だが、やはり、見ている次元が違うんだよ。すまない、話の軸を折ってしまって。」
謝罪を行ったが、彼にその気持ちがあるかは、定かではない。彼は、飄々とした口ぶりで話し終えると余韻もなく、形式的に話をすることをやめた。
政岡も大葉も放つ風格は、この世界の住人と比較すれば、確かに一線を画しているが、平戸の場合、そもそも生きているのかさえ、疑問に思えた。ただ、人の形をした何か、といった具合である。
政岡は、その平戸の異質ぶりに少しの間、唖然としていたが、
「まぁ、いい。すきにすればいい。」と言って、話を始めた。
「冬坂や、私以外にも内務省を再建しようという考えを持った者は、いた。しかも、それは、ヒトの中にもだ。おそらく、思考ネットの深淵まで、あまりアクセスせず、精神の同期化を行っていなかった者たちだろう。そして、冬坂は、総務省に所属し、ある計画を動かし始めた。第三課を実質的に内務省化しヒトとある約束事を行い総務省も取り込んだ、より大きな形の復活だった。
冬坂は、それを我々、メンバーと別行動を始めた。それは、なぜか。彼もヒト化が始まっていたんだよ。そうして、彼は、この計画を完璧なものにする方法を見出したようだった。」
人々は事象をただ感じてそれに反応して動き、生きてきた。
思考もまたそれと同じことだった。
しかし人は自らを見つめることで新たな段階へ進むことを望んだはずであった。
理解や共感が歩みを進めていったその先。
原因帰属を繰り返した脳はその情報を遺伝子として次の世代に渡す。
何がきっかけでその事象は起きてしまったのか。
何が原因で。何が誤りだったのか。
そしていかにそれを制御するか。
出来事を予測しコントロールする能力。
それこそが集束であり、我々が我々自身を封じているものの正体である。
「冬坂の本当の目的は、大きな脳を作り出すことだった。」
と政岡は地を見つめていた。




