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エスプリ  作者: 笛吹き
1/6

日本国

ある演劇が行われている。


「私たちは、狭い交差点を通ろうとしている」

と1人の青年が舞台で声を上げる。

「私たちは、1人でありながら実際は一部である。」

と1人の少女が言う。

舞台のわきから老人が現れる。

「君たちは、どうして苦しむのかい?」

2人の若者は迷わず、

「どうしていいのかわからないから。」

と声を合わせる。

老人は、そのセリフを待っていたと言わんばかりの表情をして、こう言った。

「君たちは、ずっと苦しみ続けるかもしれないね。」

3人は、声を合わせ、悲しみを含みながら、しかしどこか歓喜の表情をして

ある歌を歌い始めた。



日常に生きる人には、日常の大きな変化には気づかない。

日本が、世界が、依然と何か違うことを感じ取る、少数派がこの世界には、いた。



そも、依然とは何かしらの過去があって、成立する概念だが、その過去というものを日常に生きていれば、感じることは不可能と思われる。

比べる対象がなかれば、どうしようもない。

つまり、変更前の記憶を持った新しい存在がこの世界には、いた。





「そういえば、こんな言葉があった。。『テレビというメディアは非常に低俗なものであり、テレビばかり見ていると、人間の想像力や思考力を低下させてしまう』ってね。」

とある男が口を開く。

彼の名は政岡輝樹まさおかてるき。元内務省職員であったが、実質的な解体により今は、ある民間企業の経営部に所属している。内務省という存在はあったが、さまざまな部門の強制的独立化により、形骸化していた。

そして、それを行ったのは、もうひとつの日本の政府、第三課といわれる組織であった。

政岡に話題を振られたもう一人の男がいた。

彼の名は、冬坂鳴海ふゆさかなるみ。冬坂はこう言った。

「大宅壮一の言葉ですね。白痴。つまり全てにおいて、介助が必要な状態であると言いたいのですか?」

政岡は冬坂の顔を一瞬見て、

「確かに早い話、そういった見方もできるが、なにも早合点する必要なんてないよ。ただ気付けば、我々、現代人はまるで「白痴」の肉体と本能だけになってしまっていないか?

そもそも現代の高機能な社会を成立させるには、まず我々が部品として成立しなければいけない。そして、部位を選ぶことができるのは、極一部の優秀な人間だけだ。

そして、それ以外の部品は、自分自身がその仕事だけを効率よくこなせる様に考えるだけだ。

部品であれ人である限り、基本的な感情があるわけで、部品として生き続けるには、何であれ、欲を満たす必要が出てくる。低俗でも何でもそれは、構わない。

結果的に人は肉体と本能だけになった。違うかい?」

冬坂と政岡はイスに腰掛けている。

冬坂は、床を見て、少しの間黙っていたが、

「生命は、あまりにも受け身すぎますよ。」

政岡は徐々に言葉のトーンを下げていった。


1967年のある日本。

事は確実に動いている。

方向性を欠いた流動に人は、恐怖する。







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