和菓子屋と親友
月曜日、ちょうど自分の部屋を出たところで春人に会った。
「おはよう」朝からバイトなのか。
「いや、違うんだなそれが・・・・・・」
「え?」
聞き返すと春人はニヤニヤ笑った。正直気持ち悪い。
「なんと!花見屋の店員になったんだよ!」
「花見屋って・・・・・・商店街の和菓子屋?」
花見屋は老舗の和菓子屋。和菓子ならほぼそろっていて、評判もいい。たしか60ぐらいのおじいさんとおばあさんの夫婦で営んでいるはずだ。
「なんであんたが?」
「失礼しちゃうな・・・・・・。実はあの店の息子と同級生でね、そこそこ仲がよくて紹介してもらったんだ。なんでもおじいさんがぎっくり腰になって力仕事ができないらしい。息子のほうはもう会社に勤めているから、手伝えないし・・・・・・ってなわけだ」
へえ・・・・・・こんな寝ぐせのついたもやしみたいなヤツを雇うなんて、おじいさんも変わってるなと思ったけどそんな理由があるなら仕方ないね。
「寝ぐせのついたもやしって・・・・・・」とても悲しそうな顔をする春人。
「あ、そういえばこの前ミス研の後輩から出された推理問題、いつ報告するの?」
「うーん・・・・・・たぶん次の土曜日ぐらいになるかな・・・・・・。まあ僕はもうOBであって在校生ではないしね。でも僕がいたミス研は部員が少ないから、きっと後輩たちは僕がこれからはあまり来られなくなると言えば悲しむだろうね」
こういうのを自意識過剰って言うんだっけな。だいたい、今までどのくらいのペースで母校に通っていたのだろうか。
「あ、ごめん、もう行くから」春人はそう言って商店街のほうへ歩いていった。まずい。私も急がないと。
学校に着いたときは遅刻ギリギリだった。春人め・・・・・・。
ちなみに、私がアパートの大家をやっていることは誰にも言っていない。べつに校則でアルバイトはだめ、なんてあるわけではないのだが、(そもそもアルバイトではない気がする)これが両親との約束なのだ。泥棒に狙われでもしたら大変だから、と言っていた。そんな、高校生で他人の家に忍び込むようなまねをする人がいるとは考えにくいし、家賃も安いからお金が大家にそこまで入ってくるわけではないのだが。
「亜樹、遅かったね」
声をかけられて振り向くと、奈津乃が立っていた。奈津乃は高校に入ってからできた、一番の友人だ。私の通っていた中学校からは誰もこの高校に上がらなかった。つまり、一人ぼっち・・・・・・ではなかった。同じ境遇だったのが、奈津乃だったのだ。
「ね、寝坊したんだ」笑いながらごまかす。
ショートヘアの私と違って奈津乃の髪は背中の半分くらいまである。ふわっとしていて可愛らしい。それでいて背も高く、なんだかお姉さんみたい。私の成長期はどこに行ってしまったんだろう・・・・・・。
毎度のことで遅くなりました・・・・・・ごめんなさい!