ランボーおじさん
隠密行動は慎重に!!
「皆、今からリーダーからの作戦説明がある!!」
ドイツ軍装備のサバゲーマーの一声により、その場にいた赤チームのメンバー全員がリーダーに注目した。
「今から作戦を伝える……ガンガンいこうぜ!!」
「「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」」
我々のチームはなんて単純なんだ。
どうも皆さん守宮です。今回は下拠点スタート、先ほどの試合で赤をボコボコに強した豪黄色チームは上拠点スタート。最初から高所を占領されていて地形的に最悪。今回のスタートダッシュでは味方はほぼ二手に分かれて進撃をする手はずだ。第一小隊は敵が先ほどの試合で使用した、左手岩地エリアの攻略が目標。第二小隊は中央森攻略を目指す。
私は第二小隊に配属、今回は森を目指す。第3試合目ということもあり、電動ガンの使い方はマスター(笑)したのでこの試合、7HITぐらい軽くできるでしょう(フラグ)。
「皆さんゴーグル装着!! 準備はいいですか?」
おそらく山名さんでしょう。拠点の備え付け無線から声が聞こえてきます。その後に続けて黄色チームからの無線がはいります。
「上チーム準備完了」
上チーム準備早っ!! 下はまだ、だらだらしているのに……。
「皆さんゴーグルお願いします!!」
リーダさんの号令で周囲のサバゲーマーさんが一斉にゴーグルを装着し始めました。中には銃を弄っている人もいたのですが、リーダーさんに、まずゴーグル優先でお願いしますと注意されていた。さすが安全第一スポーツ、安全面に関しては細かいところも徹底されているようだ。リーダーさんは周囲を確認して全員がゴーグルを装着しているのを確認し。
「こちら下チーム、準備完了」渋い声で返事をした。
「ではカウント始めます・・・5・4・」
無線でカウントが始まった。皆体を前倒しにして、スタートダッシュの準備をする。私も同じく走る準備をしたのですが。足元に何か違和感が……。足元を確認すると靴紐が絡まっているはないか!! まずい!! このままではスタートダッシュがっ!!。 皆に置いていかれてしまう!!!!。
「3・2・1・スタートー!!!!」
無線の声と同時に鳴り響くホイッスル音。
あっ……。
ここで靴について少し語らせていただきます。私はこの日、運動靴を履いていましたがとても苦労しました。
平地で行うサバゲーなら運動靴で問題無いかもしれませんが、山の中では泥まみれになるし足は痛いしで散々です。登山靴を履いて来ればよかったといまさらながら後悔しています。
(理想はアーミーブーツみたいですけど、代用できる靴はいくらでもあります。安いアーミーブーツもたくさんあるので迷彩服と同時に購入を考えてみてはいかがでしょう?ちなみに私は登山靴でサバゲーしています。初参加の方は靴にも注意しましょう)
靴の泥を叩き落とし、きれいに靴紐を結びなおします。完了!!周囲を見渡すと――――。
はい、そうです、誰もいません……。皆さんに置いて行かれるのは理解できる。
他人ですし、靴紐の管理が悪かったのは私ですから、しかし……。
友人3人組、なぜ私を置いていった!!!!。
くそう、寂しい。まさか新兵を戦場の中置き去りにするとは……。
私がウサギのように繊細な神経の持ち主だったら、どう責任を取るつもりだったのでしょう。サバゲーマーフィールドで孤独死!!なんともニュースが賑わいそうなタイトルです。まあ、私の神経はヤモリのように図太いですので平気ですけど。目からでる汗をふき取りながら、一人寂しく前線に向かった。
フィールドを前線に向かって歩くこと約3分。不思議です、味方も敵も見当たりません。今は入り組んだ森の中にいるのだが、銃声は聞こえるが両者とも姿が見えないのだ。
そのとき耳元で何かが弾ける音がして、私のすぐ横の葉っぱが消し飛んだ。
何なのでしょう? ハエでもぶつかりましたかね、森の中なのでかなり虫が多いので。
また何かが葉に当たる音がしました。まったく虫が多い。
そう思った瞬間。林の中からスローで私の顔面目掛けて何か白いものが飛んでくる。
ハエ? NO……。虫? NO……。BB弾? YES!!。
反射神経は限界を突破した。全ての力を顔面に注ぎこみ、頭の位置をずらす。私の頭の横3ミリをBB弾が通過した。それと同時に本能的に地面にうつぶせになる。
狙撃されている!! そう理解したのは伏せてから数秒した後のことだ。
◇ ◇ ◇
これが狙撃のプレッシャーなのか……。
私はくぼ地に伏せながらそのようなことを考えていた。
敵がこちらに放った弾はおそらく3発、しかし銃声がまったく聞こえない。
(どういうことだ……)
サバイバルゲームといえば電動ガン、しかし電動ガンを撃てばその発射音から敵の位置が特定できるはず。しかし敵は無音で狙撃をしてきた。頭の中が混乱する。敵は新型の無音電動ガンでも使用しているのか?。
そんなことを考えながらくぼ地で反撃の機会を窺う私。自然に銃を持つ手にも力が入る。
頭を上げ周囲を確認しようと、大きくジャマな電動ガンゆっくりと地面に置き、体勢の変更を行います。そしてくぼ地から頭を半分出して弾が飛んできたと思われる方向を観察。
サッ、ササッ。
頭をハヤブサのごとくすばやく動かし、弾が当たらないように工夫してみる。
「やめとき、そんなに頭動かしたらバレバレやで兄ちゃん」
突然真後ろから声をかけられ慌てて銃を拾い上げたが、相手は手のひらをこちらに見せて味方であることを示してきた。声をかけてきたのはバンダナを頭に巻いたランボーファッションなおじさん。
「兄ちゃんからしたら弾当たるの怖くて頭必死に動してるけど、人間の目は動いてる物はよく見えるようにできてるんや、しかもフルオートで撃たれたらそれ意味無いから」
「そうですか……」
少ししょんぼりする私に、おじさんは手招きをして私をこちらに呼び寄せる。地面を這いずりながらおじさんの元にたどり着くと、おじさんは迂回道を指差した。
「スナイパーと我慢比べしても意味ない、向こうは時間まで旗守ったら勝ちやからな。どや? わしら2人で裏どり狙うか? ワシが先導するから」
これは……英雄になるチャンスでは!! 成功すればばあの3人をギャフンと言わせられるではありませんか!!
「やっ、やります!! ぜひお供させてください!!」
弾けるような私の声にランボーおじさんは、にやりと口端を釣り上げた。
「新人やのになかなかの勇気やな、よし行くか」
こうしてランボー風おじさんと新人サバゲーマーの奇妙な共闘作戦が開始されることとなる。
日本の野山はどうしてこんなにも棘の生えた植物が多いのか――――私は姿勢を低くしながらそのようなことを考えながら雑木林を進む。ほんとに長袖長ズボンでなければ即死でした。皆さんもサバイバルゲームには長い袖の服をお勧めします。
「敵なし」
おじさんの低い声がそう呟くと、一人先に進み周囲を確認。
おじさんが手を振ると私の出番。おじさんと同じルートを見よう見まねで進むと周囲を見渡し、手を振りかえして合図。
この作業の繰り返しで、安全を確認しながら少しずつ前に進んでゆく。索敵と呼ばれる行動だそうだ。
今いる場所は先ほどの狙撃地点からは80メートルほど前進した地点だろうか、初参加で地理に疎い私にはおじさんだけが頼りなのだ。
「止まるんや」
ゆっくりですが順調に歩みを進めていた矢先、おじさんが小さく唸る。
私たちの行く手を遮ったのは大勢の敵……ではなく坂……いやほぼ崖。
高さは10メートルぐらいで、坂には何本もタイヤ痕が残っています。おそらくオフロードバイクで駆けあがった痕だろう。2人で顔を見合わせると、素早く同時に坂の下まで移動。目を凝らしながら周囲を警戒。おじさんは手に持った長い銃(後に聞いたがM14と言う名前らしい)を背中に担ぐと、腰から拳銃を引き抜く。
「ワシが先に上って安全を確認する。わしが合図したら上ってきてくれ。その間わしの尻を守ってくれ」
「そんな……尻を……」(迫真)
おじさんは私の渾身のギャグを無視すると、急斜面にとりつき、おじさんとはとうてい思えない、スパイダーマンのような動きで坂を上ってゆく。とても普通のおっさんの動きではない。
「おじさん」
私は小声で声をかけた。
「関西人のくせにネタをスルーするのマジ勘弁してください」
ケタケタとおじさんが笑った。
◇ ◇ ◇
ニヤー
ゲーマーたちがあふれる戦場に、猫の声がこだまする。
ニャー
私は坂の下で、周囲の茂みにFN SCARを構えながらおじさんからの合図を待っている。
ニャー ニャー
また猫の声――――。
いい加減うっとおしいと思う。
ニャーニャーニャー
耐えきれなくなった私は、目線を照準から外すと猫を探した。迷子の子猫が親を探しているのかもしれない。ならば保護してもらわなければ。
「はよ気付や」
「おっさん!!」
突然の崖上からの声に、私は表情をゆがめた。
「今の猫おじさんの声ですか!!」
「そうや、合図する言うたやんけ。何回やらす気やねん、おかげで喉カラカラや」
「上手すぎでしょう、『ニャーニャー』とか気が付くわけ無いです。もっとわかりやすい鳴き声にしてくださいよ」
おじさんは眉をひそめた。
「ならどんな鳴き声ならよかったんや?」
どんな鳴き声と聞かれましても……。
無論敵に気が付かれにくく、わかりやすい鳴き声……そうだあれだ!!
「『ゆうこりん❤ゆうこりん』とか」
「さて、前進、前進」
マジすいませんでした。
さて、気を取り直して坂にとりつく私。私はハンドガンなんて高級品持ってないので、銃を背中に担ぐと完全に攻撃ができなくなります。しかし手を使わずに上れるほどあまい坂ではないので、結局おじさんに下を見てもらいながら上ることに。木の根や岩を掴んで必死に上にあがります。気分は簡易ロッククライミング気分。
こんな時に限って背中の銃がとても重く感じます。まあ実際に重いんですけど。
「よっこらせ」
完全におっさん口調で坂の頂上から頭を出した私。眼前に広がるのは、おっさんと覆い茂る木々。そして遠目には黄色のカラーコーン。
「あれが敵本陣ですか!?」
私は少し興奮した様子でカラーコーンを指差しました。おじさんはゆっくり頷きます。
「旗じゃなくて三角コーンじゃないですか!!」
「まあ遊びやし、あるもんで代用してるねん。お前らだって缶蹴りで缶無かったらペットボトルで代用するやろ?」
「いえ、ローソンに缶ジュース買いに行きます」
「お前どんだけ心曲がってるねん。大切にしようや純粋な心。しかも自販機でええやん」
みなさんも缶蹴りは缶でしたいですよね?まあその話は後日。
何と坂を上るとそこは敵本陣でした。(川端康成の「雪国」風)
これはチャンス!!しかもコーンの周囲には敵が一人もいないではないですか。ラッキー!! みなぎる闘志をむき出しに、コーンに向かってレッツゴーしようとした時。襟首を誰かに掴まれます。
「何する気や?」
誰かってもちろんおじさんさんなんですけど、そんな襟首を掴んだおじさんは鋭い声が私の耳に残りました。
「何って、見てくださいよ、がら空きです!!ゲットのチャンスですよ」
「全く、サバゲーを全然理解してないな。いいか、フラッグの手前からが本当の戦いや」
「本当の……戦い?」
「せや、覚えとき。どこのフィールドに行っても旗の真ん前で旗守ってるような奴一人もおらへん、防衛は全員巧妙に姿を隠してるんや。本陣の旗の周辺には最低でも4人は防衛がいる気分でおらなあかん」
おじさんは銃を構えると周囲を鋭いまなざしで一蹴した。
「俺たち攻撃は、その罠を掻い潜らなあかん。耳をすまして気配を感じとれ。集中するんや」
ごくりと唾を飲み込み、SCARのカーキ色のストックに頬を寄せる。腋をしめて、銃を固定する。ためしに照門を覗いてみると、緊張のためか銃がゆっくり揺れているのが分かった。
おじさんが腰を低くして、ゆっくり前に進む。私は左後ろ2メートルほどの間隔をあけてそれに追従する。
映画のワンシーンのような優越感と、戦場の緊張感に酔いしれながら私は進む速度を少し上げた。
しかしこれが裏目に出た。
パチン―――パチパチパチ。
私は自分に酔っていました。だからこのような結果を招いてしまった。
私は小さな小石を蹴り飛ばしてしまったのだ。あろうことか小石は崖の方角に転がってゆき、パチパチと音を立てながら鋭い崖を転がり落ちていった。
おじさんが慌てた顔をしてこちらを向いた。しかし私はそのまま前方を指差していた。
「敵です」
グリーンの服で統一されたサバゲーマーがこちらに電動ガンを構えているのが見えたのだ。おじさんは右の茂みに潜り込み、私は左の岩に体を隠した。同時にBB弾の嵐が2人を襲った。前の茂み、木の影、岩陰、木陰、さまざまなな場所から銃声が響き、こちらに弾を撃ってくる。
私は大きく舌を叩きました。こんなに大勢どこに隠れていたんだ――――!!
おじさんが言っていたことは本当だったのだ。今私が相手をしているのは少なくても5人以上である。敵はかなり本部の防衛に人をまわしていた様子だった。すぐ私の横の地面を、縫い目の様に弾痕が走る。
「反撃や!!」
おじさんが叫んだ。いまさら隠密行動なんて意味がない。おじさんが隠れる茂みにも、数十発のBB弾が撃ちこまれていたが、おじさんは怯む様子もなく、片手フルオート電動ガンにハンドガンを取り出し、相手の勢いに負けんとばかりに反撃している。 私は岩陰から銃口だけを見せると、カチカチと数回引き金を引いたが、深い茂みに阻まれて相手に当たらない。
「何してるんや!! セミオートで弾節約してる場合か!!フルや!! 今こそフルオートで弾をばら撒くんや」
おじさんが私に向けて声を張り上げた。慌てて銃の側面にあるレバーを切り替えようとSACRを操作した。
パチパチ――――。
身に着けたゴーグルからプラスチックの弾ける音がした。被弾した。ヒットだ。私は両腕を空高く広げ大声で叫んだ。
「ヒット!!!! ヒット!!!!」
立ち上がった私にさらに数発のBB弾が撃ち込まれ、「ヒット」と叫び続ける。そのあと敵から「すまん!!」という叫び声が聞こえた。正直痛かった。
その数秒後に、数百発のBB弾に押し切られたおじさんがヒットコールを宣言して。2人で仲良く自分の陣地に帰ることになった。
「すいませんでした」
味方の陣地に帰る途中。私はおじさんに頭を下げた。心からの謝罪である。初心者の私が足を引っ張って。結果的に戦力となるベテランを『ヒット』させてしまったのだから謝らないわけにはいかなかった。
「なにがや?」
しかしおじさんはキョトンと私の顔を覗いた。
「いや、単純なミスでまきこんでしまって」
「おお、そうかい今度からきおつけてな」
素っ気ない返事だった。
「怒らないんですか?」
この質問におじさんは大声で笑った。
「なんで怒るんや、こんなん遊びやで。わしや軍人ちゃうのにミスなんか毎回や。お互い様やんけ」
おじさんは煙草をくわえて火を求めたが、当時未成年だった私はライターなる万能着火器具を持ち合わせていなかった。おじさんはさびしそうに煙草を箱に戻すと。静かに語り始めた。
「サバゲーなんかに当たり判定を撃たれた当人が決めるんやで、おかしな遊びやろ?こんな遊びさっきのお前の行動でキレるような短気ができるかいや。しかもそれでキレたら第一にそいつ何様やって話やろ」
「はあ……」
私はあいまいな返事をした。どう反応していいか分からなかったからだ。少し頭の中でさっきの話を考えていると、おじさんが肩をポンと叩いた。
「まあ肩身の狭い趣味やから仲良くしようってことや、何事も社交的に紳士的に大人の対応をする。なにせ大人のスポーツやからな。だからわしがミスしても怒らんといてな」
おじさんはニッと黄色い歯を見せた。それにつられて私も笑う。
『大人のスポーツ』
おじさんの言ったその言葉が、セイフティーエリアに帰還する僕の心の中で何度かこだました。
長い間更新しなくて本当にすいませんでした。
このオス豚とののしってください ハアハア……(美人の女性に限定します)




