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サバゲーってなんですか?   作者: やもり
採石場バトル編 伝説のランボーおじさんと鋼鉄のババア
15/16

帰宅……そして……

 

 

 長い間ご愛読ありがとうございました。

 


 車に全ての荷物を詰め込んだ私達4人は、帰りの挨拶を行うため山名さんの元へ足を運んだ。

 山名さんはセイフティーゾーンの仮設テントの下でゆっくりとタバコをふかせいるところだった。

 

 「本日のゲームはいかがでしたか?」


 タバコを灰皿に置いた山名さんが真剣な顔つきで聞いた。


 「今日は人数も多く、なかなか楽しいゲームでした」


 我々を代表してヨッシーさんがにこやかに笑みを返す。


 「それはよかった。楽しんでいただけてなにより」


 そこで言葉を切った山名さんはほっとした様子で胸をなでおろし、私と山田さんにゆっくりと視線を向けた。

 

 「そこのお二人は今日が初陣でしたよね? どうでしたか、サバイバルゲームは?」


 キラキラと子供のように目を輝かせ、山名さんが大きく身を乗り出した。私達はその巨躯に若干引き気味になりながらもしっかりした口調でその問いに答えた。


 「「最高でした」」


 私と山田さんの声が自然と重なった。

 それを聞いた山名さんは顔をほころばせて両手を私達2人に差し出した。


  「また遊びに来てください」


 私と山田さんはその手を強く握ると深く硬い握手を交わした。




   ◇     ◇    ◇



 山名さんに挨拶を済ませた我々は、早速帰宅すべく駐車場向かった。

 そしてそこで例のババアカップルとランボーおじさんたちのグループがなにやら話し合いをしているのを目撃した。


 もしや一色触発の状況なのでは? 


 全身に緊張が走ったが、よく見るとそんな緊張した雰囲気でないことが一瞬でわかった。ババアもランボーおじさんも心から楽しそうに笑みを浮かべて全員で談笑を行っていたのだ。

 

 『まあ肩身の狭い趣味やから仲良くしようってことや』


 脳内でランボーおじさんの一言が再生されておもわず頬を緩ませる。

 サバイバルゲームは、肩身の狭い趣味を持ったサバゲーマー達の至福の時間であり、彼らが羽を伸ばせる貴重な場所である。そんなところで互いにいがみ合い、悶々とした時間をすごすなんてやはりナンセンスだ。サバゲに限らずみんな仲良くが一番良いに決まっている。

 

 終わりよければ全てよし。


 どんな偉人がこの言葉を考えたのかは知らないが、まったくもってその通りだと共感する。 

 



 微笑を浮かべながらそんな彼らを見ていた私。

 途中、山田さんに『なんだこいつ、一人でニヤニヤしてやがる。キメェ……』というような目で見られたので一瞬で顔を引き締めた。


 私達4人は車に到着すると、荷物をトランクスに詰め込んだ。その後私は後部座席に倒れこむような方とで車に乗り込む。


 「ふへ~疲れた」


 普段から運動不足であった私にとってこの一日は『ハード』の一言に尽きる。おもちゃにしては重すぎる電動ガンを担いで山の中を半日走り回ったのだから体の疲労がピークに達していた。


 「こら、寝るな。奥につめろ」


 山田さんが私の尻を無理やり押して後部座席に乗り込んでくる。その後トイレを済ませたジャックさんがなぜか浮かない顔で助手席に座る。


 「ジャック、どうかしたか?」

 「ジャックさんおなかでも痛いんですか?」


 あまりにも青ざめた顔をしていたので、心配した私達2人がジャックさんに声をかけた。しかしジャックさんは俯いてうな垂れるだけで何も答えようとしない。体調が悪いというより何かにおびえている様子であった。


 いったいこの短時間に彼の身に何があったのか?

 紳士的で男前で、最高に優しいこのジャックさんをおびえさせる者とはいったい?


 車の外で激しい風が唸りを上げて、山々の木々が怒り狂うようにざわついた。


 我々の身に、何かよくない事が起ころうとしている。

 私の第六感がそう告げている。


 隣を見れば山田さんも唇を青紫に染めてガチガチと震え始めていた。


 そんな、山田さんまで!!

 いったい何が起こっているのか!?

 いったい何が!?




 バタンと車のドアが開き、運転席に最後の男が乗り込んだ。


 「さあ、ロックンロールの時間だぜ」


 ヨッシーさんの掛け声と共に、私の背筋に底知れぬ悪寒がよぎった。





    ◇     ◇    ◇




 道を間違い。サービスエリアで晩飯を済ませて。道を間違った。

 

 結局私が帰宅の戸に付いたのは夜の11時半を回ったころであった。簡単にシャワーを済ませてジャージに着替え速攻で布団に寝転がる。


 結果的に言えば私はサバゲで1ヒットも取ることが出来なかった。それでも、その日のサバゲが面白くなかったのか? と聞かれれば私は自信を持ってNOと答えることができる。


 確かに私は敵を一人も倒せなかった。

 しかしあの時感じたサバゲーの緊張感。即席で組まれたチームメンバー達との一体感は一生の思い出であり、生涯忘れることが出来ない貴重な体験であったと断言できる。


 飛び交う弾丸の中を走りぬけたときに感じたまるで戦争ゲームの主人公のような高揚感。林を挟んで敵と対峙したときの緊張感は、高校受験や会社の入社試験に匹敵するほど鼓動が高鳴った。


 日常では体験できない、非日常がサバイバルゲームには存在する。

 

 私はもう、そんな非違日常サバイバルゲームの虜だ。


 

 私は、ゆっくりと目を閉じた。

 明日は普通に仕事があり、朝6時に家を出なければならないのだ。

 明日から私の日常が再び始まる。


 目を閉じた瞬間、Skypeのチャット音が鳴り響き上半身を起こす。PCをシャットダウンし忘れていたことを含め、最後にチャットを確認しようと思った。くだらない内容であれば返信せずに寝るだけだ。


 

 ヨッシー:今日はどうだった?


 ヨッシーさんからのチャットであった。一瞬そのまま寝ようか迷ったが一応返信することにした。

 

 やもり:最高

 ヨッシー:それはよかった

 ヨッシー:自分の銃がほしくなっただろ?

 やもり:おう

 やもり:おまえ、たくさん持ってるから一つくれよw

 ヨッシー:5万で売ったるわ

 やもり:新しいの買うわ

 ヨッシー:www


 私は微笑を浮かべながら、旧友とのくだらない会話を少しだけ楽しんだ。



 やもり:明日仕事だから寝るわ

 ヨッシー:おっと、最後に一つ

 やもり:?

 ヨッシー:来月の25日、関西で結構大きいサバイバルゲーム開かれるやけどお前も来るか?


 私は迷うことなく、すばやく返事を入力した。

 

 やもり:もちろん

 ヨッシー:よかった。面子は今回と同じ4人で、ジャックはすでに参加表明してるから後は山田に確認とっておくわ


 やもり:了解。集合場所は今回と同じ?

 ヨッシー:おう、7時に俺の家集合。遅れたら5千円の罰金

 やもり:www。じゃあ寝るわ、それじゃあ25日の朝

 ヨッシー:おやすみ、絶対に遅れるなよ


 私はPCの電源を落とすと、文字通り布団に倒れこんだ。鉛のように重いまぶたがゆっくりと閉まっていく。


 25日か、もう一度あの戦場に……。


 ほぼ無意識に呟いた私は一瞬で眠りに落ちた。

 その夜私は、自分がランボーになりきった素晴らしい夢を見た。

 



     ◇     ◇     ◇



  

  私は、『小説家になろう』の新規小説作成に『サバゲーってなんですか?』に最後の一文字を書き込み上書き保存のボタンを押した。


 右下に緑色のバーが表示され上書きがちゃんと行われたことを示す。


 PCの横に置かれた缶コーヒーを飲み干し、グイと背筋を伸ばした。頭上では円形の蛍光灯がチラチラと点滅している。近々交換しなければならないだろう。


 

 Skypeの約束の後、我々4人が集まることは無かった。

 

 ヨッシーさんの急な海外転勤が決まったのだ。

  



 約束の月の15日。

 ヨッシーさんは東南アジアの支社に技術協力員として旅立った。13日には友人総出で『お別れ会《笑い》』というイベントを行い大いに盛り上がった。向こうに付いたらバナナを送ってくれると言っていたがどうやら嘘だったようだ。


 ジャックさんは満員だと言われ続け、入居を拒否され続けていた大学の寮に偶然空きが出来て、2つ隣の県へ引っ越すことがこれまた急に決まった。ジャックさんが引っ越があるのは24日で。25日には部屋の整理があるため参加できないと連絡が来た。


 山田さんは――――サバゲーをやめた。

 世間体を気にした両親がサバゲーを許してくれなかったらしい。通販で電動ガンを購入したところ、親と喧嘩になり、結局電動ガンを捨てられてしまったと友人からの又聞きで耳にした。


 参加できずに申し訳ないとのメールが18日の夜に送られてきた。


 その結果、25日のサバイバルゲームは私一人で行くことになった。

 しかし私も急に仕事が入り、結局参加することが出来なかった。




 私はPCの横に置かれたカレンダーを眺めながら大きくため息を漏らす。

 私達4人がバラバラになって、すでに2年が過ぎようとしていた。

 

 私は洋服タンスの横に並べられた電動ガンたちをゆっくりと眺める。

 3丁の電動ガンに1丁のガスハンドガン。多数のマガジンにバッテリー。無線機。タンカラーのチェストリグ。この2年で私が揃えたサバゲー装備の数々である。


 もうこの場所には、レンタル銃を担いだあの貧弱なパーカー戦士の姿はもう無い。

 私はこの2年遊び続けてきたのだ。ジャックさんとは密に連絡を取り合い、稀にではあるが共に戦場を駆けた。今のこの立派な装備と、サバゲーマーとして成長した私をみればヨッシーさんだって笑わないはずだ。


 私は再び視線をPCに戻す。

 この作品を執筆するたびに、あの日の事を鮮明に思い出す。


 初めて握った電動ガンの重み。

 BB弾が手に当たったときの痛さ。

 膝パッドの大切さ。


 あの日の出来事がまるで昨日のことのようだ。

 私は『投稿小説履歴』から『サバゲーってなんですか?』を選択して、次話投稿の文字に矢印を合わせる。


 ああ、ヨッシーさん。

 いつか貴方と同じ戦場フィールドに立てることを夢見て。


 やもりは小さく力をこめて、マウスの左ボタンをクリックした。







              サバゲーってなんですか? 《終わり》






 


 ご意見、ご感想などあればメール、感想欄にご記入ください。

 今後の作品の参考にさせていただきます!!

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