掌編、日差し。
ただ、お前だけが笑ってくれるなら、何もいらないや。他には何にもいらないからさ。
ひざ枕されながら言う言葉じゃないなとは思うけれど、午後の暖かな陽気のせいか俺はこの沸き立つ心を押さえられなかった。
すると君は馬鹿だねぇと言って俺の頭を撫でた。まるで子供がじゃれ合うみたいに、コロコロと笑っている。犬かよと突っ込みを入れても、構わず撫で続ける。それが、嬉しくて振りほどけなかった。
…多くの人は気付いていないが、実は俺たちの手は二本しかなくて、どれだけ必死になっても、同時に3つ目の何かを拾い上げることはできない。両手に大切を抱えたまま、もう一つを諦めなきゃならない。しかも、どれだけ大切に握りしめていても、いつの間にか零れ落ちていくなんてこともあるらしい。
だから俺は怖くなるよ。
世界ってやつは意地悪で、不意にひょいと肩をぶつけてきて、俺たちが選んだ何よりも尊いものを落とさせようとしてくるんだ。そうしてご愁傷様って嗤うんだ。
ふざけんなって思うよ。
親も友達も大切も、諦めることに慣れた君が、ようやく隣に並んでくれるってのに、そんな理不尽で奪われてたまるか。
でも、だからこそ俺は、お前だけは絶対に離さないようにするよ。絶対に離さないからさ。そのためなら、例え他に大切なものが、何百、何千、何万と現れてもさ、君を選んでみせるからさ。なんて、言葉にはしないけどさ。
君の指が俺の髪を梳く。そのたびに、俺のちっぽけなプライドとか、悩みとかが溶かされていく。ほんと、敵わないな。
日が少し傾き、眩しい茜色が空を染め始める。
すると君は、太陽なんか目じゃないくらいに美しく、穏やかに、幸せに、でも少し泣きそうに。今二人で居られる奇跡を、いつか失うしかない結末を、確かめるように、笑って、言った。
ずっといっしょにいようね。
その温かい言葉に、俺の心はあっさり見抜かれていたんだ。少し泣きそうな君の涙が流れる前に拭ってやりたいと思った。
…ああ。うん。そうだよ。俺も、君と、ずっといっしょにいたいよ。
本当に、他には何にもいらないからさ。




