表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミック・ドリフター①始まりの墓標(廃墟ユートピア "ウロボロス")  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

第九話:暴走する星

契約は、「暴走」という形で履行された。


陸の最後の叫びを合図にしたかのように、右腕に埋め込まれたスキルチップが、その本性を現す。

それは、もはや単なる光の明滅ではなかった。

青白い稲妻がチップを中心に迸り、陸の皮膚の下を、まるで生き物のように駆け巡ったのだ。


「ぐ……ああ……あああああっ!」


声にならない絶叫が、再び陸の喉を裂く。

今度の感覚は、先ほどの拒絶反応とは次元が違っていた。

全身の神経細胞一本一本が、未知のエネルギーに乗っ取られ、強制的に書き換えられていくような冒涜的な侵食。

体中の血液が沸騰し、骨が内側から軋むような、絶対的な激痛。


見ると、右腕の皮膚の上に、光で描かれた幾何学模様がタトゥーのように浮かび上がっていた。

それはチップから肘、肩へと伸び、やがて全身へと広がっていく。

まるで、青白い光の回路が「空星陸」という人間を、新たな器として作り変えているかのようだった。


彼の意思とはまったく無関係に、その膨大なエネルギーは行き場を求めて暴れ回る。

陸の身体から、青白いオーラのような光が立ち上り、周囲の空気をびりびりと震わせた。

地面の小石が、カタカタと音を立てて浮かび上がる。


「な、なんだ、ありゃあ!?」

「ひっ……!」


包囲していたスカベンジャーたちは、恐怖に顔を引きつらせ、後ずさった。

卑しい欲望は、理解不能な現象を前にした純粋な恐怖へと塗り替えられていく。

彼らがこれまで経験してきたどんな暴力とも、どんなスキルとも、目の前の現象は明らかに異質だった。


陸自身にも、何が起きているのか分からない。

ただ、自分の身体が、もはや自分のものではなくなっていく――その確かな感覚だけがあった。

制御不能。

巨大な力の奔流に木の葉のように翻弄される、ちっぽけな意識。

それが、今の彼だった。


やがて、エネルギーの暴走は臨界点に達する。

陸の身体を中心に、周囲の空間が、ぐにゃり、と陽炎のように歪み始めたのだ。

瓦礫の山が、背景の空が、そして驚愕の表情で立ち尽くすスカベンジャーたちの姿が。

まるで水面に落とした絵の具のように、溶け合い、混じり合っていく。


(死ぬ)


そう、直感した。

だがその感覚は、これまで感じてきた死の恐怖とはどこか違っていた。

それは殴り殺されるような物理的な終焉ではない。

もっと根源的な、存在そのものがこの次元から消滅してしまうような、静かで、絶対的な喪失感。


助かる、という感覚とも違う。

これは、どこかへ「行く」のだ。

自分の意思とは関係なく、この暴走した力が、自分をどこか――まったく別の場所へと運ぼうとしている。


陸の身体が、ゆっくりと宙に浮き上がる。

彼の指先から、身体が青白い光の粒子となって、さらさらと崩れ始めていた。

ブレザーの袖が、肌が、肉が、骨が。

その構造を失い、純粋なエネルギーの集合体へと分解されていく。

痛みは、もはや感じなかった。

ただ意識だけが、急速に希薄になっていく。


最後に見たのは、恐怖と驚愕に歪んだスカベンジャーたちの顔だった。

彼らの目に映る自分の姿は、もはや人間の形を留めてはいなかっただろう。

ただの、青白い人型の光。


そして次の瞬間。

ぱん、と、静かにシャボン玉が弾けるような音を最後に。

空星陸という存在は、その場所から跡形もなく完全に消失していた。


後には、呆然と立ち尽くすスカベンジャーたちと、三つの死体。

そして、地面にわずかに残された青白い光の残滓だけが。

まるで何もかもが幻だったかのように、静かに揺らめいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ