表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミック・ドリフター 【♪毎日 お昼12時更新予定♪】  作者: naomikoryo
始まりの墓標(廃墟ユートピア "ウロボロス")

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第五話:死神の閃光

死を覚悟し、陸が固く目を閉じた、その刹那。


世界から、音が消えた。


――いや、正確には、音が「変化した」のだ。

男が振り下ろした鉄パイプの風切り音も、げびた笑い声も、遠くで鳴り響いていた金属の軋みも。

すべてが水の底に沈んだように、くぐもって遠ざかっていく。

代わりに、キィン、と耳の奥で高周波のような音が鳴り続けた。


予期していた衝撃は、いつまで経っても訪れない。

恐る恐る、陸は片目を開けた。

そして、信じられない光景を目撃する。


振り下ろされる寸前だった鉄パイプが、宙で静止している。

鉄パイプを握る男の、醜く歪んだ顔も。

驚愕に見開かれた相方の目も。

すべてが、まるで時が止まったかのように、ぴたりと動きを止めていた。

舞い上がった砂塵ですら、空気中に縫い付けられたように静止している。


何だ、これは。


陸がそう思う間もなく、静止していた世界が再び動き出した。

ただし、それは常軌を逸した形で。


陸にとどめを刺そうとしていた男が、まるで背後から巨大な何かに突き飛ばされたかのように、ありえない角度で「く」の字に折れ曲がった。

悲鳴を上げる間もなく、男は後方へと吹き飛んでいく。

身体は瓦礫の山に叩きつけられ、ぐしゃり、と熟れた果実が潰れるような鈍い音がした。

それきり、動かなくなる。


「な……!?」


残ったもう一人が、何が起きたのか理解できず、素っ頓狂な声を上げた。

陸も同じだった。

目の前で起きた、物理法則を無視した現象に、思考が完全に停止している。


その時、二人の視線の先に、一つの人影が現れた。

よろよろと、今にも倒れそうな足取りで、瓦礫の陰から歩み出てくる。

ぼろぼろで色の抜け落ちたローブを深く被り、顔は窺えない。

ただ、その手には、小さな古びた金属片が握られていた。

三つの月の光を鈍く反射し、淡い光を放っているように見える。


「てめぇ……何しやがった……!」

残された男が、恐怖と怒りで顔を引きつらせ、鉄パイプを構え直して叫んだ。


人影は答えない。

ただ静かに、金属片を握りしめた右手を、ゆっくりと男へ向けただけだった。


「舐めるなあああっ!」


男は恐怖を振り払うように絶叫し、老人と思しきその人影へ突進する。

鉄パイプがローブの頭上へと振り下ろされた。


――閃光。


陸には、そうとしか認識できなかった。

老人が、わずかに指を動かしたように見えた。

その瞬間、握られた金属片から、一条の光が放たれたのだ。

それはレーザーのように細く鋭く、そして雷光のように速かった。


閃光は一直線に、突進してきた男の胸の中心を貫いた。


男の動きが、再び、ぴたりと止まる。

胸には、拳ほどの大きさの焼け焦げた穴が空いていた。

男は信じられないという表情で、自らの胸と、遠くに立つ老人を、二、三度、交互に見やる。

そして、言葉にならない空気の塊を吐き出すと、前のめりに、ゆっくりと倒れていった。

どさり、とただの肉塊が地面に転がる、生々しい音が響いた。


静寂が、再び訪れた。

後には、二つの死体と、呆然と座り込む陸。

そして、静かに佇むローブの老人だけが残された。


陸は、まだ目の前の出来事を理解できずにいた。

質の悪いSF映画のワンシーンを見ているようで、現実感がない。

だが、鼻を突く肉の焦げ臭さと、地面に広がり始めた血の鉄錆びた匂いが。

これが紛れもない現実であることを、五感に叩きつけてくる。


暴力への恐怖は、どこかへ消えていた。

いや、それ以上に、もっと根源的で圧倒的な感情が、陸の心を支配していた。


畏怖。


人知を超えた不可解な力に対する、絶対的な畏怖。

先ほどまで陸を虫けらのように嬲っていた男たちが、あまりにもあっけなく殺された。

あの老人が手にしていた、小さな金属片。

あれが、この世界の「力」なのだ。

暴力や数や体格といった、陸がこれまで信じてきた物理的な優劣を、児戯のように無に帰す。

絶対的な力の象徴。


陸は震える視線を、ゆっくりと老人へ向けた。

助かった。

その安堵より先に、理解不能な現象を目の当たりにした純粋な混乱が、思考を埋め尽くしていく。

自分は、一体、何に助けられたのか。

そして、あの老人は、一体、何者なのか。


ローブの奥から、乾いた咳の音が二つ、三つ聞こえた。

そしてその人影は、まるで糸が切れた人形のように、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ