表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミック・ドリフター 【♪毎日 お昼12時更新予定♪】  作者: naomikoryo
始まりの墓標(廃墟ユートピア "ウロボロス")

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第二話:異形の隣人

どれくらい歩いただろうか。

時間の感覚は、とうの昔に麻痺していた。

三つの月が入れ替わるように空を巡り、紫色の空は時に暗く、時にわずかに明るさを取り戻す。

だが、太陽と呼べるほどの強烈な光源はどこにもなく、世界は常に薄暮の支配下にあった。


陸は、ただあてもなく歩き続けていた。

瓦礫の山をいくつも越え、崩れた高速道路のような遺跡の下をくぐり抜けた。

目的はない。

いや、あるにはある。

「帰る方法を探す」。

だが、そのあまりにも漠然とした目標は、この広大すぎる墓標の前ではほとんど意味をなさなかった。

今はただ、この悪夢のような光景から一刻も早く逃れたい。

その一心だけが、彼の足を前へ進めていた。


足元は常に不安定だった。

錆びて劣化した鉄板は、彼の体重を支えきれず、時折、耳障りな音を立てて歪む。

砕けたコンクリートの破片は、まるで牙のように革靴のソールを削った。

空気中には、常に細かい粉塵が舞っている。

呼吸をするたびに、乾いた喉にざらりとした感触が残った。


「誰か……誰かいませんか……」


何度目になるか分からない呼びかけは、瓦礫の山に虚しく吸い込まれて消えた。

返事はない。

この星には、本当に自分一人しかいないのではないか。

そんな考えが頭をよぎり、背筋が凍る。

しかし、その考えはすぐに、別の形で裏切られることになった。


巨大なタービンの残骸を回り込んだ、その時だった。

視界の端で、何かが動いた気がした。


陸は反射的に身を隠す。

錆びついた鉄骨の陰から、息を殺してその方向を窺った。

そこにいたのは、「人」と呼ぶべきか迷うような存在だった。


背中を丸め、地面に散らばる何かを漁っている。

そのシルエットは、確かに人間に近かった。

だが、左腕は肘から先が鈍い銀色に輝く機械の義手へと置換されていた。

背中からは蛇の尾のようなケーブルが数本伸び、地面を引きずるように蠢いている。

そいつは時折、何かを見つけては、その機械の指で器用に拾い上げ、口元へと運んでいた。


陸は息を呑んだ。

サイボーグ。

映画やアニメの中でしか見たことのない存在が、今、目の前にいる。

ここが異世界であるという事実は、すでに嫌というほど理解していた。

だが、その世界の「住人」を目の当たりにした衝撃は、また別種の衝撃となって彼を襲った。


安堵が、ほんのわずかに胸をよぎる。

自分以外の、知性を持つ存在がいた。

その事実に、一筋の光明を見出したのだ。

しかし、その光は次の瞬間には、より深い闇に塗り替えられた。


陸の存在に気づいたのか、人影がゆっくりとこちらを振り向いた。

その顔を見て、陸は凍りついた。

顔の右半分もまた皮膚が剥がれ、金属の骨格と、赤い光を点滅させるカメラアイが覗いていた。

人間だった部分の目は、感情の読めない昏い光を宿している。


目が合った。


その瞬間、陸の全身を見えない鎖で縛られたような圧迫感が襲った。

相手の目に宿るのは、好奇心でも驚きでもない。

もっと冷たく、値踏みをするような無機質な光。

まるで、道端に転がる石ころか、あるいは利用価値のあるゴミかを見定めるような、そんな視線だった。


陸は動けなかった。

声をかけるべきか。

何を。

「こんにちは」?

「ここはどこですか」?

そんな、平和な世界で交わされる言葉が、この場所で、この相手に通じる保証はどこにもない。

むしろ、不用意な接触は死を招くかもしれない。


相手はしばらく陸を観察していたが、やがて興味を失ったように、再び地面のガラクタ漁りに戻っていった。

その無関心が、陸には何より雄弁に、この世界における自分の立ち位置を物語っているように思えた。

彼は歓迎されざる客であり、理解されることのない異物なのだ。


それからというもの、陸は頻繁に彼ら――この星の住人たち――の姿を見かけるようになった。


瓦礫の陰で、獣のように四つん這いで移動する毛むくじゃらの人影。

背中に昆虫の羽のような機械を生やし、低空を滑空していく者。

複数の腕を持ち、器用に瓦礫の山を解体している者。


彼らは陸を認識しても、ほとんどの場合、何もしてこなかった。

ただ、遠巻きに眺めるだけ。

その視線には、警戒、侮蔑、あるいはほんのわずかな好奇の色が混じっていたが、決して友好的なものではなかった。

彼らはこの過酷な環境に適応し、独自の生態系を築き上げている。

そこに迷い込んだ、何の力も持たない、綺麗な格好をした異邦人。

それが、空星陸だった。


コミュニケーションの完全な断絶。

それは物理的な孤独よりも遥かに深く、冷たく、陸の心を蝕んでいった。

彼らと同じ「人間」という種族に属しているはずなのに、その間には、決して越えることのできない透明な壁が存在していた。


言葉を交わす相手がいない。

助けを求めることも、自分の状況を説明することもできない。

ただ、異形の隣人たちの感情の読めない視線に晒されながら、終わりの見えない彷徨を続けるだけ。


夕暮れ時、陸は比較的風の当たらない、巨大なコンクリートブロックの陰に座り込んだ。

空には、三つの月が妖しい光を放っている。

どこからか、獣の遠吠えのような、あるいは機械の駆動音のような、不気味な音が聞こえてくる。


陸は、ぎゅっと自分の両腕を抱きしめた。

ブレザーの、少しざらついた生地の感触だけが、彼がまだ「空星陸」であることの、唯一の証明のように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ