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純愛ラブコメに挑戦

男子を振りまくっている委員長が俺の昔の仲のいい友人だった。その事を彼女は忘れているが、親友の勧めで俺は告白することに。思い出してくれると好いな、だって俺の初恋の娘だもの。でもNTRだけは勘弁して

 校舎裏で斎藤春美(はるみ)が男子から告白を受けていた。

 春美は俺の片想い中の可愛らしい女子だ。

 2C組の委員長をしている才色兼備を備えた娘。


「僕の名前は田中。斎藤さんっ、一目見たときから好きです、付き合ってください!」


「田中君、告白してくれて嬉しい。でも、ごめんなさい」


 相手の男子は俺の親友の田中(とおる)だった。


 片想い中ゆえ田中が成功すると俺は失恋であり、失敗してもあからさまに喜ぶのは辛い。

 複雑な心境で遠目から見守っていた。


「好きな男子っているのかい?」


「はい。います。だから、ごめんなさい」


「その男子と付き合っているのかい?」


「いいえ。私の片想いかな……」


「正直に教えてくれてありがとう。君を好きになって良かったよ」


 田中が肩を落として帰ってきた。駄目そうだな……。


「田中、お帰り、頑張ったな」と声を掛ける。


「ああ、しっかりと断られたよ」


 俺は西城雅樹(まさき)。普通の男子だ。性格だけは良いと言われている。


・・・・・


「本気だったのに、ツラ~」


 机にバタンキューと伏せる田中。慰めようがなくて放置している。


「だから失敗した後の事も考えろって、告白前にも言ったろ。覚悟して告白したんなら、そう落ち込むなって」


 春美とは小さい頃に仲良しだったが今は疎遠。

 父親が転勤になって中学一年生の頃に引越ししてしまい、高校で戻ってきて春美を見かけたが、彼女は俺の事を覚えていなかった。俺はバッチリ覚えていた。


「なぁ雅樹、お前もあの子に告白しろよ。一緒に砕けようぜ」


「だけどなぁ、あの娘は俺の事、覚えてもいないんだぜ。最初から可能性はゼロだろう。少しでも好きという感情があったら覚えてるだろうし、ちょっとキツいなぁ」


 田中には春美の事を話していた。

 昔、仲良しだったこと。

 引越しで会えなくなったけど忘れられなかった事。

 高校で一緒になったものの春美が委員長で美人で優しくて人気者になっていて、眩しくて近寄れなくなってしまったこと。


 彼女が俺の事を思い出してくれれば、もう一度、仲良くなれると期待している事。


「雅樹、どうでもいいが彼女に告白した時な、好きな人がいるからって断られたんだよ。好きな人って誰なんだろうな。お前……だったら向こうから声を掛けてくれるか、ごめん。雅樹も告白して相手を聞き出してくれないか? 気になる。あ、すまん、今言ったこと忘れてくれ」


「おい」


 田中はニヤリと俺の顔を見た。

 そんなことを聞かされたら俺の心も惑うしかないだろ。やめてくれ。


・・・・・


 彼女と廊下ですれ違った。


 目が合う時もあるが、全く知らない男子を見る目で通り過ぎるばかり。

 彼女はニコリともしない。

 はぁ、片想いって思い詰めると辛いんだな……。


 自宅に帰った俺は制服を着替えることもせず、ベットの上に寝転がった。


(春美に好きな男子が居るだとぉ……)


 なんてこったい。

 失恋した田中には同情するが、俺だって失恋したようなものだろう。

 中学一年の引越しまでは仲良しだったんだ。


 あれから四年経っているとはいえ、忘れるにしては微妙な期間だ。


 俺の当時は、もやしみたいな体格だった。

 確かに今はあの頃より運動などをして体格は良くなったし、髪型も違う。

 でも見分けがつかないほどではないと思う。


(俺が思っていたより春美は人情が薄いのかなぁ。俺、何か悪いことでも気づかずに仕出かしてしまったのだろうか?)


(いや、たくさんの男子に告白されて、男子たちの顔を覚えきれないほどになっているのかも。しかも俺は2A組。一緒のクラスじゃないと難しいのかもしれないな)


 もやもやしているが、ふと思い起こしてスマホに保存していた画像を開く。

 昔、一緒に撮影した写真たちだった。何度見たことだろう。夏祭り、花火大会、遊園地、川遊び、水族館……。四葉のクローバー探し。手も繋いだことがある。風呂には一緒に入ったことはないが、仲良しだったはずだ。


 春美の笑顔が可愛くて、俺の方を見て、目を見つめ合っている光景。仲が良く、楽しげだ。


 親と共にこの地元に戻ってきた時、持ち家だったのでご近所付き合いは大切だと、両親は少し遠めの春美の自宅にも挨拶に行っていたらしい。彼女の両親も歓迎してくれたそうだ。


 今から思えば俺も一緒に行っておけば良かった。


 せっかくの機会を損失していたことに後になって後悔するとは。だって春美があんなにも人気があるだなんて想像すらしていなかった。それで尻込んでしまったんだ。

 気軽に『久しぶり』って挨拶して仲良しの関係が復活すると勝手に思っていたんだ。


(俺も田中の勧めだという理由で告白してみっかな)


 何もない関係からスタートする。一から改めてリスタートだ。

 元々、仲が良かったんだ。すぐに又仲良くなれるさ……。


(あ、意外とこの考え方って好いな)


・・・・・


 即断即決、田中に俺も告白してみると宣言し、匿名の手紙で春美を校舎裏に呼び出した。

 靴箱に手紙を入れる時だけ、異様に緊張するものなんだな。

 田中もそうだったんだろうと意外と頼もしく思えた。

 こういう時、仲間がいると頼もしいことを学んだ。勇気づけられた。砕け散ることに対して。


 校舎裏で早めに行って待つこと十分ほど。緊張が継続していた。


(緊張するな、そうだ、昔馴染みの友達に会うと思えば気も楽になる筈……)


「おまたせー」


「ぬぉっ!」


 緊張が加速してしまった。背中に風が走る。


「あ、来てくれてありがとう。いきなりだけど好きです付き合ってください」


 ダメダメだった。


「あ、あの……、ごめんなさい。そ、それと……、手紙に名前を書いてなかったし、あと告白する際は、もう少しちゃんと理由とか、今告白する切っ掛けとか、色々と教えてくれてから告白するものだと思いますよ」


 ダメ出しのアドバイスをされてしまった。


「ごめん、ありがとう。すみませんでした」


 頭を下げて謝ってしまった。情けない俺。


「あの、好きな男子っているのかな?」


「内緒。それじゃ、さよなら」


「うん、ごめんな」


 一瞬の流れ作業みたいな感じに思えた。だが失恋は思った以上にショックだった。


(あとで田中に慰めて貰おう。俺も失恋仲間になったぞ)


・・・・・


 あれから春美と廊下ですれ違う時に目が合うと会釈をしてくれるようになった。

 その暖かい笑顔は優しそうで可愛らしくて、益々好きになってしまった。

 彼女の高い人気はこの優しさにあるという。


 男子が何か用事があると女子に声を掛ける際、多くは「何?」という冷たい塩対応である。

 しかし春美は笑顔を持って優しく対応する。ゆえに男子がやられてしまい、告白をしてしまうのだ。


 鈍感系主人公が流行りとしても、たったそれだけでドキドキしてしまい、

 春美の髪の毛の香りを嗅いだその男子は敏感系主人公となり

『彼女は僕の事が好きな筈だ。あの笑顔、きっとそうに違いない』

 と見抜いた気になり勢い余って告白してしまうのである。恐るべし春美スマイル。

 もちろん、俺もそれに嵌まってしまった。

(俺は勘違いとは違うと言い聞かせるけどな!)


 ある日、2Cの教室の外の廊下から、中で座る春美を眺めていた。

 彼女は女子や男子と笑顔で会話を楽しんでいた。

 その笑顔は俺とすれ違う時にしていた笑顔だった。


(やはり俺に向けての笑顔は特別ではなく、その他大勢に向けての笑顔だったんだな)


 思えばいきなり知らない男子から告白されるんだ。仕方がない。

 振ってしまえば悔恨を残すだろうから、優しく会釈と笑顔をくれるだけ……。


 はぁ、これでもセミ幼馴染と言えない事もないんだけどな。

 彼女が思い出してくれるという方法はないものだろうか?

 二人で撮影したツーショットとか見せるかなぁ。


 いくら考えても思いつかなかった。


・・・・・


 ある日の放課後。俺は下駄箱に向かって廊下を歩いていた。

 ポンと背中を叩かれ、振り返るとそこには春美がいた。


「あ、あのね、マサ、背中に貼られていたよ。これ」


 彼女が手渡ししてくれたのは『バカちん』と掛かれたノートの切れ端だった。

 粘着性のいいセロハンテープで貼られていたみたいだ。


(あ、田中だな、きっと)


「もしかして貴方、イジめられてるの?」


 春美は心配そうに顔を覗き込んでくる。


「いや、そんなことはないよ。これは只の悪戯だと思う」

(後で田中に仕返ししてやる)


 俺の平気な顔を見たせいか、春美は笑顔になって『良かった』と呟いた。

 相変わらず可愛い顔だった。


「ねぇ、貴方。あなたの告白の時を覚えている?」


「ん、覚えているぞ」


「名前何て言うの?」


「えっ」


 そ、そうか……。名前すらテンパって伝えていなかったのか。

 そういえば手紙にも記名せずに匿名だったな。

 ああ……、そうだ、告白時にも名前を言っていなかったな。


「ご、ごめん、名乗りもせず、自己紹介もせず、悪かった……」


 軽く頭を下げて、彼女の方を向きなおす。彼女は笑顔だった。


「うん、いいよ」


「俺の名前は西城雅樹(マサキ)。マサキって気軽に呼んでくれ。よろしくな」


「うん、よくできました。西城君、じゃね」


 そう言って彼女は胸の前で小さく手を振り、クラスの下駄箱に向かって去って行った。


(名前では読んでくれなかったけど、なんだか友好的だったな、春美)


 しまった、幼馴染という事を伝えれば良かった。

 少なくとも中学時代は仲が良かった事、よく遊んだ事、思い出して欲しいとか、

 はぁ~、なんて間が悪いというか、センスがないというか、配慮無しの俺。


(高校になって再会できて嬉しいよとか、少しぐらい気の利いた話をすれば良かったな)


 下駄箱に向かう廊下の所で早々『マサ』と呼ばれていたことに気づかなかった雅樹。鈍感系主人公とも少し違うが、春美はそれを自覚していた。バレなくて良かったと胸を撫で下ろしていたことは内緒である。


・・・・・


 下駄箱で靴に履き替え、先ほどの春美との遭遇と背中に張られた悪戯を思い出していた。


 正直、俺の性格なのか悪戯自体は気にならなかったが、クラスメイトの殆どが背中に張られた『バカちん』を教えてくれもせずスルーして春美が気付くまで放置とは如何なものか。みんなに明日は説教してやると色々と頭に思い浮かべていた時だった。


 正門の所に先に行っていた春美が(もた)れ掛かっていた。

 男子たちがカラオケ行かない? カフェ行かない? などと彼女に声を掛けている。


(相変わらずモテているなぁ)


 正門に辿り着くと春美が俺の方を向いて笑顔で手を振る。

 そして走って近づいてきた。何ごとかと声を掛けていた男子たちも俺を見る。


「マサ! カフェにでも行こ」


 あ、そうだ……。昔、春美が俺のことマサって呼んでいたなぁ。

 思い出してくれたのかな? 懐かしい。


 春美は俺の左腕を取り、あろうことか身体をくっつけてきた。


(こ、これは……)


・・・・・


 私はずっとマサの事に気づいていた。好きで好きで、好き過ぎて大変だった。

 廊下ですれ違う時すら顔が赤くなると困ると思って目を逸らしていた。

 他人の振りをするしかなかったの。でも、マサは私に気づきもしない。


 数多くの男子から告白を受けてきた。でも、マサの事が忘れられないから断った。

 マサとまた一緒に居たかった。彼は私の事を忘れているみたい。悲しかった。

 地元に戻ってこられたマサのご両親は私の家まで挨拶に来てくれた。

 わたしはマサが帰ってきたんだと喜んで玄関に行ったのにご両親しか居なくて、マサは来ていなかった。


 どうして? どうしてマサは会いに来てくれないの? ねぇ、ねーねー。

 ねぇマサ、私の事を思い出して。また一緒に遊びに行こうよ。写真を撮ろうよ。


 私から行動することは出来なかった。廊下から彼のクラスの中を見て姿を探すぐらい。

 恥ずかしくて、もう一歩が踏み出せなかった。実は私って恥ずかしがり屋なの。


 そんな時、マサから告白を受けた。


 私は飛び上がって喜んだ。幸せで、どうにかなりそうだった。

 あまりにも嬉しくて飛びついてしまいそうだった。

 だめ、ここは学校。私は品行方正な委員長だもの。でも、マサに抱き締められたい。手を繋いで頭をナデコして貰いたい。子供の頃のように可愛いって言われたい。


 スマホを取りだして二人のツーショットを鑑賞する。


 だ、ダメよ春美! 妄想しちゃダメ。私は自制心で何とか平静を保つ。

 でも無理、嬉しいんだもん。もうアワアワして校舎裏から逃げ帰るしかなかった。


 その夜、ベットの上で枕を抱き締めて『マサくん、マサ君、マサ……好き、好き』とジタバタしてしまい、お母さんから『春美、何やってるのよ』と叱られてしまった。


 だって、大好きなマサから告白されたんだよ! この日ぐらい好いじゃない、あー、マサ、愛してる~~~~~~~。スキーーーー!


 それから彼とすれ違う時だけは笑顔にしようと頑張った。ニコっと笑えた。

 進歩しているよ春美、と自分を慰めていた。ふふふ……。これだけで凄く満足。


 ある時、私は気づいてしまいました。


 あ、そういえば、告白の時に緊張しすぎて、つい、ついウッカリ、いつものように他の男子にするようゴメンナサイしちゃったんだ。あの愛しいマサくんに! あー私のバカバカ! 何やってるのよ。

 連絡先すら交換してないじゃない!


 そこで起死回生として、作戦を練った。


 そうよ! 背中にノートの切れ端が付いていたよと声を掛けて、剥がしたフリでもう一度会話しよう! 私の事を思い出してもらうんだ。私が恋心を持っていたのに彼は忘れちゃってマサのバカちん!


 そしてカフェに誘って、その帰りに手を繋いで、そうよ、恋人繋ぎだわ。ふふふ……、マサが可愛く恥ずかしがる様子が楽しみ。でも、その後で抱き締められたらどうしよう。私から抱き着いちゃうかも。ああ、ダメよ、ダメだわ、私駄目になっちゃう。


 キスするのって早いかな? うん、恋人繋ぎから自宅で別れる際にキスしちゃいたい。初めてだもの、恥ずかしくて死んでしまいそう。いや、いやん、私ったら何を考えているのかしら。ファースト・キスはチュッとして離して目を見つめ合って、またチュッとして見つめ合うを繰り返すの。


 あーイヤだわーー恥ずかしーーい。照れすぎて困っちゃう。


 そ、そうだわ、もう明日に実行よ!

 作戦名は、貴方の背中にどっきり愛の印がついちゃってゴメンナサイ!


・・・・・


 俺の隣で春美が歩いている。いつものように澄ました顔だ。


(マジか、いいのか? 一緒に帰っていいのか? 男子に殺されない俺?)


「ねぇマサ、こうやって歩くのって懐かしいね」


「そうだな、本当に久しぶりだな」


「いつ地元に帰ってきたの? 高校に入ってからでしょ」

(何も知らないフリよ。あとで驚かしちゃおう。ふふ、私ってバカよね)


「高校に転入したんだよ。春美と出会っても声が掛けられなくてな」


「え~~~~~」


「春美だって分かっても、ほら、凄く可愛くなって人気者になってたしさ」


「じゃぁ、罰として手を繋ぎましょう。はい恋人繋ぎ」


「え……」


「ふふふ……」


 春美はニコニコである。そうだ、俺が聞きたいことがまだあった。


「なぁ、あのさ、は、春美の好きな男子がいるって聞いたけど」

(これ聞いて先輩の誰それさんってなったら即座に春美との関係が切れないか?)


「えっ、えっ、えっ」


 春美の超テンパりが始まり、恥ずかしさなのか顔が真っ赤になっていた。もちろん耳もだ。全身からラブラブビームがほとばしっていた。さっきとは全く違う雰囲気になった。


「な、ないしょ~~~~~」


 ぶんぶんと腕を振る。

 俺の左手は彼女の腕と同期して激しさを増していった。どうした春美?

 あの冷静沈着な優等生の代表、委員長の肩書そのものの春美が取り乱していた。


「だ、誰でも好いでしょ、そんなこと。いつか教えてあげるからっ」


(いやーーーっ、私、テンパっちゃう。ダメよ、落ち着かないわ、マサが大好きだって顔を見て言えない、ダメなの、そんなに私をいじめちゃ嫌、マサくんの、雅くんのバカぁ)


「なぁ春美、俺は告白したけど、もし好きな男子が居るのなら身を引くよ。だから俺の事は気にしないでな。距離を取られたって春美の幸せを考えれば率先して協力するからさ」


「だーーーめーーーー、距離なんか取っちゃ、ダーーーメーーーーっ」


「は、春美……、春美……?」


「マサくん、距離なんか取らなくても大丈夫よ」

 恋人繋ぎをにぎにぎする春美。



「お~い、雅樹ぃ~~」


 二人で歩いていたら友人の田中が追いついてきて声を掛けてきた。


「雅樹に……斎藤(春美)さん……、こ、これはいったい?」


 マズい場面を見られて言葉を発することが出来ない俺と春美。

 田中は先日、春美に告白してフラれたばかりだ。気まずさも半端ではなかった。

 我に返った俺は恋人繋ぎを外そうとしたが、春美が放してくれない。


(春美、手、手……)ボソリ


 春美は俺を無視してそっぽを向きながら手をがっちり繋いでいた。


「……ああ、田中、今帰りか?」

(ごめん、許せ田中)


「……」

(先日の田中くんだ……)


「そういえば田中、お前、俺の背中に『バカちん』って紙をセロハンで貼り付けただろ?」


「あ、ごめんなさい、それ……それね……」モジモジする春美


 お前か……


「いやいや雅樹、それはそうと斎藤(春美)さんの好きな男子ってお前だったのか」


「そうとは決まってないぞ」


「えっ!」


 春美は恋人繋ぎを外して左腕を取って身体をくっつけてきた。もうピッタリだ。頬っぺたは思いっきり膨れていた。なんだ、この可愛すぎる生き物は。


「もう分かった。二人とも幸せにな。俺は応援するぜ。じゃな」


「ああ、明日な」


「……」

(田中くん、ごめんなさい)


 こうして自他ともに公認となった二人。高校を代表するカップルになった。


・・・・・


「これで終わり?」


 原稿を読み終えてアシスタントの女子大生:早乙女(れん)(20)が俺(39)に向かって言った。

 また目のハイライトが消えていた。怖い。


「だ、だめだったかな?」


「クライマックスがないわ。田中君が追いついてきたのがクライマックスなの?」


「いや、その……」


「普通の恋愛小説なら、春美ちゃんが雅樹くんの事を知らずに無視したり失礼しちゃったりして、幼馴染が雅樹だと知ったら、ごめんなさい悪かったわ、と後悔するのよ。そういう場面が入っていないわ」


「そんな展開が要るのか?」


「うん。そしてキスも欲しいところね。しそうになったタイミングで友人が声を掛けてきて阻止されるの。そのままキスしたらダメだかんね?」


「じれじれ……キスして押し倒したら駄目なのか」


「具体的に書いたらR18ノクターン逝きだからね。気をつけてね」


「お、おう……」


「それにタイトル、これ何? 死ぬほど長いんですけど」


「いや、長い方が良いんだと聞いて……創作論にも書いてあったしさ……」


「長くすればいいってものじゃないでしょ」


「それでも工夫してみたんだよー」


「一作目はシリアスで評価もまずまずだったけど教訓がなかったよね、二作目はタイトルと中身が違いすぎ、純な恋愛がしたいってのに元のNTR小説になっちゃってたし、三作目がコレでは四作目は恋愛ものなんて書けないわ。これの続編が必要よ」


「う~ん、続編が必要なのか? これ以上は他の男子、例えば田中君と恋人繋ぎでラブホに入るしかなくない?」


「そうねぇ……例えばどうなるの?」


「春美ちゃんを雅樹が押し倒すだろ、そして愛を育む描写を入れて、次に部活の先輩が春美にチョッカイを出してくる。その先輩はスポーツマンでイケメンなんだ。雅樹が目を離した隙に先輩が強引に春美の唇を奪おうとした時、なんと田中が春美を助けるんだよ。そうして三角関係が生まれて『はいはい』気づいたら田中と春美が恋人繋ぎでラブホに向かっているのを雅樹が目撃し『はいストップ!』」


「あなた、異世界ものに戻りなさい。途中で止まってるのがあるでしょ?」


「い、一応、完結してるし、ええ……純愛物が書きたい……」


「無理よ」


(しゅん)


 NTR小説ばかりで恋愛ものが書けなくなった作家。彼の苦悩はつづく……


↓ 今回の主役:委員長の春美と雅樹のイメージ

挿絵(By みてみん)


夏祭り、花火大会、プール、海、水族館、ショッピングモール、映画館……。ネタは多い。


つづけるのか、コレ……

★意外と面白かった、意表を突かれた、タイトル何とかしろよ等と思われた場合、閉じられる前に一つでも☆をつけて下さると「努力が報われた」、「書いて良かった」と作者は大喜びしますので、どうぞよろしくお願いいたします。


前半までの方がちゃんとラブコメしていた説ありでしたね。

第四弾も作っています。どぞ~

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