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春風戦争 外伝 ~皇后裁判~  作者: ゆうはん


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1話 4節

一人目の裁判を終えたカエデは、応接室でゆっくりと

紅茶を嗜んでいた。

最高級の茶葉で喉を潤す皇后は

見た者に優雅さを感じさせたが、

彼女の口から出る言葉には優雅の欠片もなかった。


「はぁ~。

くだらない。

貴族ってのは、こうも下等な輩ばっかりだったのか・・・・・・。」


悪態をつく皇后の元へ、ロギンナはショートケーキを

持ってきた。


「あら、皇后さま。

私めも伯爵夫人でございましたのですよ。

ばっかりだったとは心外でございます。」


ニコニコと笑うロギンナの言葉に、

カエデは罰の悪そうな顔をした。


「あぁ、そうでしたね。

あのような価値観の者たちと会話するのは疲れませんか?

私は頭が痛い。」


「慣れでございますよ。慣れ。

慣れてくれば、彼らの価値観、思想、考え方は

とても判りやすく、付き合いやすいものでございます。

彼らの中には、自尊心しかございませんから。」


ロギンナはサラッと笑顔を絶やさず言ってのける。

一切の表情を崩さない姿勢にカエデは、彼女の息子を思い出した。


「ゲイリは、あなたに似たのですね。

旦那さんであるブレイク伯爵とも会った事がありますが、

あの父親の息子なのか?と息子さんに初めて会った時には

驚いたものです。

ですが、あなたの息子だと聞けば納得できる。」


「あら、私の子どもはセリア姫だけでございますよ。

皇帝陛下もゲイリも、何を考えているのやら?

私にもさっぱり理解できませんでしたから。」


ロギンナは、皇帝ウルスとその妹である皇女セリアの

育ての親である。

実の息子はゲイリであったが、ウルスとセリアから見ても

ロギンナは母親同然の存在であり、

3人は兄妹同然に育った。

特にセリアはロギンナに懐いており、王妃であった母と同じぐらいに

ロギンナを慕っていた。

しかし、実の息子であるゲイリと、ゲイリと同じ歳のウルスは

ロギンナとは少し距離を置いていた。

それは、王国の実力者たるメイザー公爵といずれ対決する事を

決意していたからだと後世の歴史家たちは分析している。

もし仮に、ウルスがメイザー公爵に敗れる事があったとして、

ロギンナに害が及ばないように距離を置いていた。というのが

その理由であったが、真実はどうかわからない。

事実は闇の中であったが、メイザー公爵を打倒したのちに

皇宮内の中宮・後宮の責任者としてロギンナが抜擢された事は

ウルスがロギンナの事を軽視していなかった理由の一つとして挙げられる。

特に皇后カエデは貴族出身者ではなく、庶民の出であったため、

皇后となった彼女の補佐役は責任の重い役職であり、

誰でもが務まる訳ではなかった。

そこにロギンナが配置された事は、教育者として

ウルスはロギンナを高く評価していた事を物語っている。

だが、この考えは一つの矛盾を含む。


皇后として選ばれたカエデは、

ロギンナとは正反対であるという事だった。


要は、ウルスはロギンナを高く評価しているが、

皇后に選ばれたのはカエデのようなタイプという矛盾である。

ロギンナを高く評価しているのであれば、

彼女のような淑女を皇后に選べば良かったのではないか?

そうすれば、わざわざ教育する必要もないであろう。

しかし、この話をロギンナは一蹴した。


「カエデさまが皇后に選ばれたという事は、

それはつまり、皇后にはカエデさまのような女性がふさわしいと

陛下はお考えなのでしょう。

ご存じですか?

ワルクワ王国との同盟交渉の際、

ワルクワ王ドメトス6世陛下の一人娘、カーナ姫と

陛下の縁談話があったそうでございます。

ドメトス陛下には男子の王族はおらず、

カーナ姫との結婚が決まれば、

陛下はスノートールの王位継承権を、

妻はワルクワの王位継承権を持つ事になり、

二人の子どもは、2国の王を名乗る事も出来たと言われております。」


カエデは少しムッ!とした。

旦那の恋話を好き好んで聞く妻はいない。


「ああ、知っている。

縁談は破談になったそうだが、スノートールとワルクワの王位を

併合する事になれば、琥珀銀河を統一したも同然。

おいしい話だと私でもわかる。

だけど情報屋でも、破談になった理由がわからなかったんだ。

平和的な統一を考えるならば、最良の選択の一つだったはずなのに。」


「そうです。

ですが、陛下は縁談を断られた。

ドメトス陛下の御機嫌を損ねれば、同盟の話も

立ち消えになる可能性があったのに。です。

なぜ、陛下が縁談をお断りになられたか?

皇后さまはわかりますか?

私はセリア姫に聞いてみました。

あの子は、陛下ともゲイリとも近しい存在でしたので。」


ロギンナの話に、カエデは俄然興味が湧いてきた。

ワルクワとの縁談を断った事は、

一般の国民では知り得ない情報であり、

情報収集能力の長けたピュッセル団の頭目として

カエデはこの事実を知っているだけである。

そのピュッセル団の力をもってしても、

破談になった理由は分からなかった。

本人に直接聞く事も出来たが、カエデはウルスの妻である。

妻が、自分と出会う前の、

夫のお見合いが破談になった理由なんてものを聞くのは野暮な話である。

と、カエデは考えてしまい、聞く事はなかったのである。

しかし、カエデは興味を失っていたわけではなく、

知り得るものであれば、知りたいと思っていた案件であった。


「あくまで、姫の予想の範囲ではございますが・・・・・・。」


と頭に置いた上で、ロギンナはスノートールとワルクワの

政略結婚が成立しなかった理由を語りだすのであった。


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