第一話
その日の雪が蜂蜜のように甘かったのは、先生の悲しむ姿がみれたからだと思います。
先生はそんな私のことを軽蔑するのでしょうか。それとも雪が甘いなんてそんなバカなと顔を歪め、だからお前みたいな奴は少年院に行くのだと嘲笑うのでしょうか。まあどちらでも構いません。信じられないかもしれませんが、その日の雪は本当に甘かったのです。
白く、ちいさな真綿のような雪が舞い落ちる中、先生はあの丘で私に背を向け泣き崩れていました。だから気付かなかったのでしょう。私はあなたの震える背中をしばらくの間ぼんやりと眺めていましたが、頬に触れ溶けた雪を舌先で拭った時、気付いてしまったのです。先生の泣きわめく声が大きくなればなる程に、その雪の甘さが増していくことを。
私は、いつしか雪に夢中になっていました。少しでも多くの雪を私の中に取り込めるようにと顔をあげ、夜空に向かって舌を伸ばしていました。まるで魚のようでした。閉じ込められた水槽の中で、それでも酸素を求め必死に顔を出す、愚かで無様な魚のようでした。
先生は本当にひどい人でした。決して私をそう思わせたことがひどいと言ってるのではありません。先生の罪は他にあります。もっと残酷で耐え難い苦痛を伴うものです。それをご自身の中でしっかりと受け入れて頂きたくて、この手紙を書きました。私がそうしたように、先生にも再度受け入れて頂きたいのです。
あの日、私が佐伯穂乃香を階段から突き落としたのは、勿論私が事を起こしたのですから私のせいでもありますが先生のせいでもあります。この事実を皆は知りません。ええ、そうです。皆というのは私が去年までいたあのクラスのことで、この手紙を読みながら先生の頭には私たちひとりひとりの顔が思い浮かんだと思います。何故なら、先生は当時の私たちのクラスの担任だったからです。
封筒の中には三枚の紙切れが同封されているかと思いますが、必ず全てに目を通して下さい。一つ目であるこの紙には手紙を書いた経緯を、二つ目と三つ目には先生の犯した罪を書き記してあります。そして、これからお話することは全て事実であり、先生の罪の軌跡を辿るものであるということを先に述べておきます。
二年C組 東條明日美