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時観組

 1992年に暴対法が始まった。暴力団の活動を著しく制限する法律である。暴力団には外国の犯罪組織も含まれることが有るが、主な対象は日本の極道達である。


 それでも夢村優二と同居人三人は迷っていた。吉田寅次は大学を卒業して大阪にある会社で働き始めているが、仕事に身が入らない。細かい失敗をすれば上司や先輩から怒鳴られるし時には殴られる。成功しても全く誉められない。


 優二は澤木達への恩が有るので桐風村に戻って澤木達の手伝いをしようと考えている。しかし澤木達は優二にカタギとして就職活動をして欲しいと望んでいる。


 川口銀慈は両親に内緒で父方の叔父に桐風村での事を打ち明けていた。銀慈の両親は雑貨店を営んでいたが、叔父は極道になっていた。父親と叔父は疎遠だが、叔父は時々銀慈とこっそり会って可愛がっていた。叔父からは桐風村の澤木が西日本最大の極道組織である新田組にったぐみの三次団体の組長だと知らされていた。叔父の所属している組は新田組とは距離を置き、抗争も避けている。叔父は否定も肯定もせず、

「どれだけお前が覚悟しているかにもよるぞ」

 と、銀慈に低い声で言った。


 番場信自は迷っていた。大学を無事に卒業して大企業の会社に採用されて死に物狂いで働けば確かに母と兄の苦労は報われる。しかし、多くの会社は慈善事業ではないし、異端には厳しい。桐風村の者達は異端者を馬鹿にしない。信自は非常に体格が良くて筋力が有ったが、男からも女からも恐れられて距離を置かれていた。心置きなく暮らせたのは優二達と澤木達ぐらいだ。それを母と兄に打ち明けると兄は呆れ、母は泣いた。


 また夏に四人は桐風村に行く。


 「やはり、こちらで働かせてくれませんか」

 寅次が澤木に頼んだ。澤木がにらむと隣にいた銀慈も、

「俺もこちらで働きたいのです」

 澤木は倉庫の隅にある椅子に腰を下ろして足を組んだ。優二が寅次と銀慈の前に出て、

「俺はこちらに恩が有ります」

 澤木は溜息を吐いて、

「畑仕事をしたければ他の農村に行けば良いだろ」

 信自が三人の後ろから、

「他の農村は異端に厳しいです」

 澤木は困った顔をして右手で首をいた。四人は澤木を黙って見返している。澤木は冷徹な声で、

「お前らはヤクザを勘違いしているからそんな事が言えるんだ。失敗したら指も詰めるし殺されたりもするんだぞ」

 優二は無表情で、

「知っているつもりです」

 澤木は優二に振り向き、

「あんな地獄をまた味わいたいのか?」

「貴方達には恩が有ります」

 澤木は寅次と銀慈と信自を順に見やり、

「お前達は元からカタギの子どもだろ」

 寅次は澤木を見つめたまま、

「カタギだからといって正義とは限りません」

 銀慈も澤木を見つめながらうなづき、

「在日朝鮮人はカタギでも異端者扱いされます」

 信自は、

「俺は貴方達を本当に尊敬しているんです」

 澤木は立ち上がり、近くにあった電話をかけた。四人が様子をうかがっていると、澤木は気まずそうに非常に腰の低い態度で相手に話しかけている。


 電話が終わると澤木は、

仁州組じんしゅうぐみの坂本親分が条件付きでお前達を入れる事をお決めになった」

 坂本とは以前に優二を引き取った親分であり、澤木の直属の親分でもある。四人は息を飲んだ。澤木は、

「お前達、仲が良いみたいだが、序列をつけろ。そして四人で組を作ってみろ」

「分かりました」

 優二が即答した。


 四人は話し合った。誰が組長になり、順番をどうするのか。何となく寅次と銀慈と信自は優二を組長にすべきだと考えた。単に優二の父親が極道で経歴が悲惨なだけではなく、責任感と忍耐が四人の中で一番だからだ。常日頃、家事を文句言わずにやっている上に、極道になる事に一切迷いが無かった。優二本人は驚いたが三人が強く勧めるので受け入れた。


 二番目は寅次になった。寅次が単に最年長であるだけではなく、英語を使いこなす上に落ち着いている。優二の次に極道になりたがっていた。


 三番目は銀慈。社会の闇を肌で感じている。極道の叔父がいて、極道についても少し明るい。


 最後は信自だが文句は言わなかった。喧嘩や抗争に必要不可欠な筋力や体力は四人の中で最も有ったが、極道になるかどうかは直前まで迷っていた。


 組の名前は少し揉めたが時観組じかんぐみ。四人の名前の最後が偶然にも「じ」なので「じ」が頭文字になる言葉を考えた。「自由」や「自信」だと信自の組になるし極道らしくない。時に対する見方を考える。意外と極道にとって大事な要素でもある。


 それを聴いた澤木はいぶかしんだが受け入れた。四人は大学や会社を辞めて極道になった。


 時観組は澤木率いる桐風組の下部団体になった。新田組の四次団体でも仁州組の三次団体でもある。四人は曖昧だった関係を改めた。三人は優二に敬語を使い、優二に服従の態度を示した。優二も堂々とした態度で三人を指揮するようになった。

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