表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/45

試薬

 砂澤愉李子は薬学部に入って勉強に専念した。サークル活動もアルバイトもせず、大学図書館や教授のいる研究室に足繁く通った。月経痛や更年期障害に効く薬を開発したい。既に婦人用の薬は有ったものの、相性が悪かったり副作用が有ったり扱いが難しかったりした。


 教授達も愉李子の真摯な態度を認めて参考文献を教えたり実験や調剤に参加させたりした。愉李子は勧められた文献を片っ端から読んだり先輩達と混ざって実験を手伝った。


 大学でも成績は良く、愉李子を見下す者はいなかった。しかし親しい同輩は殆どいなかった。皆、何となくサークル仲間やアルバイト仲間で固まっていた。挨拶や報連相は出来ているが、それ以上の事は無かった。愉李子は排除されなかったが、腹を割って話し合える親友もいなかった。


 三回生の時に試作が出来た。月経痛の薬と更年期障害の薬と性交痛の薬。実験用のマウスで試したら副作用は無く、むしろ服用後のマウスは以前より元気になった。これを自分で試してみたかったが、愉李子は元々、月経は軽いし性交の機会もないし更年期には早い。世話になった教授達や先輩達が更に治験に協力してくれた。


 効果は確かにあった。偽薬でも思い込みで回復する場合が有るが、結果はそれ以上であった。毎月、頭痛や吐気や高熱で悩む女学生も、更年期で精神的に弱っていた女性教授も、婚約者との性交で悩んでいた先輩女性も皆、愉李子の腕を認めた。副作用らしい副作用も無かった。


 愉李子は大学の許可を得て高校の時に世話になった川原母娘にも試薬を勧めた。二人にも確実に効果が有った。


 愉李子は自信がついた。六回生になるまで精進して改良したり他の薬を開発したりした。悪阻つわりを軽くするような妊婦でも飲める薬を試行錯誤した。胎児にも妊婦にも効果が有って副作用の無い薬。しかし、妊婦への治験は非常に危険が伴うので実用化には至らなかった。愉李子が試作した妊婦用の薬を男性や妊娠してない女性に飲ませても副作用は無く、心身が安定した事が証明はされた。しかし、大学は最後まで妊婦に薬を飲ませなかった。一流の製薬会社ですら妊婦への服用を避けているからだ。


 愉李子は悔しがったが、大学の判断に従った。妊婦はこの世で最も保護されなければならないのに、悪阻を軽くし胎児を健やかにする薬がなかなか認められていない。妊婦の定期検診も妊婦に負担がかかる方法をわざわざとっている。妊婦でなくても産婦人科の診察は敷居が高い。膣を直接、医師が診るので患者にとっては勇気が必要ようとされる。


 か弱い女性が何となくぞんざいに扱われている気が愉李子にはした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ