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突然の離別

 残暑の続く初秋。夏休みが終わり、絢子が登校を再開した。そんなある日の午前、愉李子と優二は束の間の性生活を送っていた。二人共、もう四十六歳だ。互いに身体の劣化を見つけても無視していた。


 性交後、愉李子はクスクス笑った。愉李子の脇に寝転がると優二は、

「どうした?」

「まさかこの歳になっても私を抱くとは思わなかった」

 愉李子が答える。優二は、

「お前も随分楽しそうだった」


 優二はぼんやりと天井を眺めた。思えば愉李子以外の女を抱いた事はなかった。しかし、愉李子を唯一愛している女だとは思っていない。愉李子は男を殺す事を何とも思っていない。愉李子自身もそれを自覚しており、場合によっては娘の絢子をも突き放す。愉李子より若くて美人で家庭的で心根の優しい女は沢山いる。それでも他の女達を抱く事も、恋慕する事もない。


 愉李子が笑顔で優二の顔を覗き込む。心底、愉李子は楽しそうだ。何故か優二の胸が疼く。殺意と恋慕が入り混じった複雑な気持ちだ。愉李子が真顔になり、

「どうしたの、そんな怖い顔をして」

「なんでもない」

 優二は起き上がると風呂場に行って身体を洗った。


 愉李子が他の男と密通していたら、怒るだろうか。優二はぼんやり考えた。愉李子は決して男好きではないし、優二を溺愛しているわけでもない。


 二人は昼食を食べた後、いつもの仕事を再開した。


 数日後の夜。京都市に行っていた優二が襲われた。澤木の桐風組の事務所に向かう途中、トラックに追突された。車は横転したものの、優二と同乗していた寅次は外へ逃げ出した。その直後に車は炎上。トラックの荷台から二十人ほどの男達がゾロゾロと武器を持って出てきた。優二と寅次が人気の無い所に駆け出すと、男達も追って来た。


 ドンドンドン。発砲音が響く。優二と寅次は怯まずに男達を返り討ちにする。狭い裏道での戦闘。男達は二列に並んで順番に戦うしかなかった。優二と寅次は冷徹に急所を狙っていく。男達はどんどん倒れていく。しかし優二と寅次の弾丸は半分仕留めたところで底をついた。優二と寅次は懐刀で抵抗した。俊敏に動いて敵が狙いを定めないようにする。それでも身体に当たっていく。


 斜め前にいた寅次が力尽きて倒れた。優二も満身創痍だが、それでも残りの男達を刺していった。最後の一人も斬り伏せる。優二は寅次に振り返って駆け寄る。脈をとったが絶命しているのが分かった。


 グサリ。後ろから背中を思い切り刺された。優二は振り向きざまに懐刀を振って男の右腕を切断した。その時に傷口が思い切り広がる。出血多量で息絶えた。


 二人と敵達の遺体は追突現場を見た目撃者が通報して、すぐに警察が駆け付けて発見された。優二を殺害した犯人も捕まり、警察病院に搬送された。


 寅次には十発、優二には十二発、防弾チョッキが無い状態で着弾していた。鑑識達は青白い顔をした。


 夜が明け、愉李子の元に報せが来た。愉李子は操と静子と絢子を乗せて警察署まで身元の確認に急いだ。到着したのは昼過ぎ。


 確かに優二と寅次である。皆、青白い顔。愉李子はいやに落ち着いた声で傍らにいた警察官に尋ねた、

「指揮したのは誰です?」

 警察官は答えなかった。後から来た信自と銀慈が、目を見開く。銀慈が低い声で、

「仇を取ってやる」

「止めて下さい」

 絢子が制した。皆が振り向く。絢子は暗い声で、

「父も沢山、人を殺しました」

 信自が涙を流しながら、

「どうせ殺すなら俺で良かったのに」

 絢子は静子に振り向き、

「静子ちゃん。ごめんね」

「何言ってるの」

 静子が驚くと絢子は、

「オトンのせいで⋯⋯」

「アホ!そんな事を言わないで!侮辱だよ」

 静子が否定した。絢子は俯く。静子は穏やかな声で、

「絢子。泣いて良いんだよ」

 絢子は涙を流した。つられて操と静子も泣いた。愉李子だけが無表情で優二と寅次の遺体を見つめている。


 優二と寅次は無念だっただろうか。それとも覚悟していたのだろうか。愉李子はぼんやり考える。

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