女達の親睦
絢子が中学三年生、静子が高校二年生。周自は結局、大阪府内のとある大学に通うことになった。桐風村を出て、大学近くのアパートを借りてアルバイトをしながら暮らすのだ。
最近、絢子の両親である愉李子と優二が外出することが多くなった。一週間の半分も桐風村にいない事もある。家に居る時はその穴埋めをするように進路について話し合ったり勉強を観たりする。家事もやる。
絢子は両親がまた誰かを殺傷しているのではないかと疑ったが、両親は農作業以外の仕事について語らない。顔を合わせれば笑いかける。数年前の悲壮な顔は見かけない。絢子も疑うのを止めて勉強に専念した。農作業の手伝いをしなくて良いと大人達から断られるようになった。
離れ離れになった周自とはSNSで連絡を取り合うようになった。周自はアルバイト先の女性に淡い恋心を抱いているようだ。静子と一緒に苦笑いする。
新田組では組織内外の抗争が有ったが、優二は絢子にはなるべく知られないように努めた。優二自身が移動中に襲われる事も有ったが、全て返り討ちにしていた。逆に優二の方から仕掛ける事はなかった。拉致された仲間を見つけ出して助け出す事もあった。
愉李子は操と美陽と一緒に出かけていた。優二はなるべく敵対組織に襲われない為にも桐風村から出ないように愉李子達に命じたが、新田組の妻達の親睦会だと弁明されて強く止められなかった。仕方なく、優二は拳銃やナイフを渡す。愉李子は桐風村にいた時から拳銃やナイフの使い方、護身術を優二達から教わっていた。美陽も操もここ数ヶ月、訓練を受けている。
優二は愉李子の行方をスマホや子分で確かめていた。確かに新田組の極道の妻達と会っている。彼女達に婦人用の薬を売ったり差し入れたりしているようだ。邪魔する理由は無かったので、優二は放置していた。
愉李子は極道達に文句を言うようになった。家庭内暴力をしたり、妻を経済的に搾取したり、不倫の挙げ句に不倫相手の子の面倒を観させたりする者が少なくない。愉李子達は時折、そんな男達を呼んでは説教して改めさせている。しかし、直参等の上の立場の者には何も手が出ない。
それを聴いた優二は、
「余計な事をするなよ」
確かに最近、それを裏付ける様な話を聴く。優二よりも同じか上の立場の者達は、
「お前、砂澤を調教したんじゃなかったのかよ」
と、嫌な顔をするし、優二よりも下の立場の者達は、
「砂澤姐さんに丸くなっていただきたいのですが」
と、嫌味を言われる。愉李子が直参の妻達をそそのかしているのだ。
組員の子ども同士の政略結婚にも、愉李子達は文句を言う。泣いて嫌がる極道の娘の肩を持つのだ。
澤木と優二は幹部会で叱責される。
「女共に出しゃばられると俺達は終わりなんだよ!」
「夢村!澤木。砂澤を落ち着かせろ!」
澤木と優二は頭を何度も下げては謝った。だが、川倉組長は苦笑いしながら幹部達を宥め、
「まあ、女同士まとまるのも悪い話じゃない。何かに使えそうだ」
幹部達が不思議そうな顔をすると川倉は、
「澤木、夢村。女達は本気で俺達に反発しているわけじゃないんだろ。組への忠誠が有るならかまわない」
澤木は、
「ええ。彼女達は謀反を起こすほどアホではないはずです」
幹部達は不安そうな顔をする。川倉は、
「まあ、女達のガス抜きだよ。特に砂澤が別の所で暴発するよりは良いだろう」
「では、お咎めなしでよろしいのですか」
山田が確かめると川倉は、
「いや、各自自分達の妻に組への忠誠を誓わせろ。あと、女をぞんざいに扱い過ぎるな」
幹部達は釈然としなかったが、川倉に従った。
帰宅した後の朝、優二は愉李子に、
「俺と澤木親分は皆から油を搾られた。本当に良い加減にしてくれ」
愉李子が不服そうな顔をすると優二は、
「お前は駒。組に忠誠を誓え。姐さん達や女達を煽るな」
「組に忠誠を誓っているからこそ仲間を助けたまで」
愉李子が言い返すと優二は深い溜息を吐き、
「俺達は男を売る為にあらゆる事をしてきたんだ。女達に水を差されたくはない」
愉李子は目をそらす。優二は、
「それとも俺に何か不満が有るのか?」
愉李子は視線を優二に戻し、
「貴方には無いけれどね」
「だったら余計な事をするなよ」
優二はまた溜息を吐くと寝室に行った。




