川原照子
母親の強い勧めで砂澤愉李子は中学校に進んでも勉強を頑張った。勉強だけが人生ではないけれど、可能性は広がる。特に英語と理数系の科目が出来れば就職にも進学にも有利になる。一方、父親は適度に身体を動かして他人に優しくするように愉李子を諭した。
愉李子は陸上部に入った。ある程度の個人主義が認められるので気楽だ。特に中距離や長距離は自分との戦いだ。放課後は一所懸命に走り、雨の時は筋トレをした。夕方は部活で疲れるので勉強は朝早く起きてこなした。家事は両親が分担している。時折、愉李子の宿題や予習にも両親が付き合って分からない所を教えてやる。その甲斐があって愉李子の成績は良かった。部活動もそこそこ充実していた。
高校進学も無事に第一志望校に合格した。進学校なので最初から授業や宿題が難しく、愉李子は鬱になりかけた。けれども担任の川原照子が励ましたおかげで立ち直った。川原には愉李子と同じ歳の娘がいた。川原は娘を愉李子に紹介し、遊ばせたり勉強を競い合わせたりした。
川原母娘は穏健で物腰が柔らかく、他人を癒やす力が有った。愉李子が勉強に限界を感じた時は無理強いをせずに遊びに付き合った。カードゲームやテレビゲーム以外にも雑談もした。川原母娘は沖縄県出身者で、沖縄の歴史や昔話を語る。愉李子は授業では語られない話も聴いた。母親の照子は化学が専門だったが、歴史の教師よりも歴史に詳しかった。娘の真海は英語が得意だった。
一年生の秋の時に愉李子は川原母娘に自分がアイヌである事を告白して良いか母親に相談した。母親は迷ったが、渋々承知した。愉李子はすぐに川原母娘に打ち明けた。母娘は愉李子の母親を尊重して周りには黙っていた。
川原母娘の影響で愉李子は化学と英語が得意になった。また、両親の勧めで数学にも力を入れた。数学は様々な職場で重宝されるからだ。部活動は陸上部に所属していたが、周りと競うことはせず、ほどほどにした。朝は勉強で放課後は部活動か真海との友達付き合い。愉李子には真海以外に友人らしい友人はいなかったが、おっとりとした真海は男子からも女子からも好かれて友人が多かった。時々、真海が友人を紹介する。
愉李子は女子達の話を聴いているうちに月経痛の悩みを知るようになった。愉李子自身は月経痛が軽いが、真海も他の友人も何人か月経で悩んでいる。また、その親達も更年期障害で悩んでいる。愉李子は婦人用の良薬がどこに有るのか考え始めた。
照子にそれを相談すると照子は喜び、
「薬剤師になってはどうかしら?貴方が開発すれば良い」
途方も無い夢の様に思われたが、夢は無いより良い。むしろ叶え難い夢の方が自分を底上げ出来る。周りからの期待も有って愉李子は薬剤師になると決めた。
川原照子は愉李子が二年生三年生と担任から外れても愉李子から慕われた。照子はなるべく依怙贔屓せずに他の生徒達にも気を配ったが、自分を慕い、夢に向かって頑張る生徒はやはり可愛い。愉李子は頑張った甲斐があって学校の成績が上がっていった。担任の教師からは医師になることを勧められたが、愉李子は薬剤師になると決めている。