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ドス黒い情報

 極道の情報網に当たると、様々な悲劇に触れる。恐喝・詐欺・傷害・殺人・拉致・監禁。それ以外にも残酷な犯罪がある。極道達が起こしているだけではなく、逆に極道が外国勢力や新興勢力から被害を受けたり、堅気や民間人が暴発したりする事も多々ある。


 無論、三次団体の組長である優二の耳にも入ってくる。上からの命令とはいえ、優二自身も何人も人を殺傷した。内心、胸糞が悪くなっても冷静に受け止めている。事件そのものへの興味より、自分達への影響を冷徹に分析する。自分達に被害が及びそうならば先手を打つ。協力しそうな組織に根回しするか取引をする。自分達と関係が無さそうならば深入りはしない。


 優二は子分達には報せるが、愉李子や絢子には隠していた。絢子はまだ中学生だし、愉李子の耳に入れば暴発する。愉李子は女の尊厳を踏み潰す男を許さない。知れば躊躇いもなく男達を殺そうとするだろう。愉李子には効能の有る薬品と解毒剤を開発して生産してもらった方が新田組の為にもなる。事件や抗争に首を突っ込んで問題を複雑化させたくはない。


 年々、愉李子はテレビよりもネットで情報収集している。優二と絢子と一緒にテレビを視て一喜一憂することはなくなった。女が無惨に殺される様な事件を視れば露骨に険しい顔をしていたが、今では独りでスマホやパソコンを眺めている。愉李子が何を観てどう思っているのか優二には分かりづらくなっている。


「胸糞悪くなったら、俺に話してみろ」

 優二は何度も傾聴の姿勢をとった。愉李子は苦笑いしながら、ネットで女に罵詈雑言を浴びせる男達を茶化した、

「アイツラは甘ったれてるだけね」

「他に気になっている事は無いか?」

 優二が念を押すと愉李子は嘲笑し、

「リベンジポルノが気になるけれど、警察は後手後手ね」

 女を脅して裸にしてそれを撮影してネットにばら撒く。実に卑劣な行為であるが、なかなか取り締まりは難しい。優二は、

「妙に思い詰めるなよ。お前、そういうバカ男共を消したいみたいだけどな」

 愉李子はニッコリと笑い、

「心配しないで」


 愉李子は薬学の知識は豊富だが、情報技術はそれほどでもなかった。ハッキングが出来るわけでもない。


 愉李子は、

「でもね、どうして女が男を殺しちゃいけないのか、私には全然わからない」

「は?やっぱり何か企んでいるのか?」

 優二が詰問すると愉李子は、

「今は特に何も考えてない。でも、女を遊び半分で殺すクズ野郎が多すぎるでしょう」

「だからお前が男達を殺すのか?馬鹿げている」

 優二が呆れると愉李子はつまらなそうに溜息を吐く。優二は、

「お前は女の代表者ではない。無茶して得られるものなんか無い」

「貴方達はどうなの?」

 愉李子が暗い声で尋ねる。優二は眉をひそめて、

「俺達はヤクザだ。テロリストじゃないんだ」

 愉李子は目をそらして窓を見やる。優二は、

「バカは放っておけ。厄介事に深入りするな。ネット閲覧もほどほどにしろ」

 愉李子は釈然としないながらも、

「そうね」


 今日もまた、日本のどこかで女が殺されたり傷付いたりしている。少女も若い大人の女も、老女も。不快ではあるが、それを耳にしても優二は聞き流す。


 犯罪の被害に遭っているのは女だけではなかった。少年も外国人も障害者も貧乏人も被害に遭う。子どもに同情する者は多いが、愉李子は少女や女に同情する。


 一方、絢子は暗い事件に興味はなく、SNSで級友と談笑したり動物の動画を眺めたりしているようだ。危険薬物のおぞましさは愉李子からさんざん聴かされているので、巻き込まれる心配は少ないだろう。絢子の方が情報と上手く付き合っている。


 井上種香はこの秋に彼氏と無事に婚約した。優二が井上について語ったとしても愉李子は何とも思わないはずだ。むしろ愛人であっても女を使い捨てにする態度を優二がとれば、愉李子は愛人を妬むどころか憐れみ、優二を軽蔑するだろう。


 優二は愉李子の部屋から自室に戻ると、SNSで寅次から陰鬱な事件の話を聴かされた。東京にある新田組系列の組織の縄張りで、三下が嫉妬に狂ってキャバ嬢を包丁で何度も刺して殺害した。三下は極道ではなかったが、すぐに警察に捕まった。監禁して拷問して殺すよりはマシだが、残酷なのには変わりない。愉李子の耳に入れたくない話だ。


 優二が深呼吸をすると、二次団体の組長になった汪から連絡が来た。汪はかつて愉李子の薬で助けられ、毒の楓の壊滅に活躍したので時観組とも関わりが深い。


「兄弟。砂澤から口止めされていたけれど、頼まれていた事が有った。勿論、断った」

 先日、愉李子は汪に性犯罪者や女を殺した男達の素性や住所を調べて欲しいと頼んでいたのだ。汪には情報技術が有るし、ハッキングも出来る。情報と引き換えに愉李子は汪の望む薬品を開発して製造しようかと取引をしようとしたが、汪はキッパリと断った。


 優二は頭を二回叩くと返信した、

「大変、申し訳ありませんでした。砂澤には十分に叱っておきます」

 暫く経つと汪から、

「砂澤には世話になっているので怒らないで欲しい」

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