拒絶
翌日、周自は信自に学校に連れて行かれた。周自の席は教室の真中近くに有ったが、他の席から不自然に離れている。周自は気になったが何も言わずに荷物を机の鈎にかけた。担任が来るまでに誰かに話しかけようと思ったが、皆、周自から離れた所で喋ったり遊んだりしている。周自に話しかける者はいない。
担任の花崎が来ると皆一斉に着席した。花崎は歪になっている席に気付いて生徒達を見回したが、何も言わずに授業を始めた。周自は席を立つ。
「番場君、座りなさい」
花崎が注意しても周自は無視して荷物をまとめる。花崎は再度、
「座りなさい!」
と、大声で叱責したが、周自はそのまま教室を出て行った。花崎は携帯電話で他の教職員に報せ、周自を追いかけずに他の生徒の為に授業を始めた。
周自が校舎を出るところで、四十代の男性教師が、
「そのまま家に帰るのか?無茶だぞ」
と、引き留めた。周自は下駄箱の脇に座った。教師は、
「弱虫になりたくなければ戻れ」
「あんな所で勉強したくない」
周自が拒んだ。教師が周自を羽交い締めにすると、周自は手脚をバタバタ動かして、教師の足を踏んだ。教師が痛がって離すと周自は一目散に校舎を出て行った。駐車場に駆けて行く。
一時間後には報せを受けた美陽が呆れた顔して迎えに来た。周自が訴えた、
「皆、俺の事を避けているんだ。先生も!」
美陽が詳しく尋ねると、生徒達の露骨な態度と教師の冷たい態度にまた呆れた。美陽は周自の背中を押して校舎に入った。迷いながらも職員室を探してそちらに向かう。
美陽が周自を連れ、扉を叩いて入ると、教頭がいた。教頭は見るからに面倒臭そうな顔をした。美陽は冷静に周自が孤立してそれを苦に逃げだした事を説明した。授業中なので他に教職員はいなかった。教頭は校長室に案内した。
教頭や花崎から話を聴いていた校長の沖山は冷淡に、
「昨日、入学式なのに周自君は暴れました。暫くは我慢すべきですね」
美陽は冷静に、
「それは申し訳有りませんが、無闇に親子を引き離そうとした村長にも問題が有ります」
沖山は腕を組む。美陽は、
「それに子ども達にイジメの正当化をさせないで下さい。イジメは犯罪です」
「何ですって!子ども達は怖がっただけですよ!」
沖山は怒った。美陽は周自に振り返りながら、
「確かに子ども達の前で周自は謝るべきですが、排除を正当化しないで下さい」
「排除?聞き捨てならない!」
沖山は怒鳴った。美陽は沖山に顔を戻し、落ち着いた声で、
「私達は確かにヤクザですが貴方達の行動や信仰を邪魔してません。貴方達も周自を受け入れて下さい」
「粗暴では受け入れようもありませんね」
沖山が蔑むと美陽は冷たい声で、
「そうですか。では、試験の時にだけ登校させます」
周自と沖山が驚いて息を飲む。美陽は周自に振り向き、
「これからは自分で勉強して、静かに試験を受けなさい」
「身勝手!」
沖山が怒ると美陽は、
「では周自を受け入れるように子ども達を説得して下さい」
と、言うと立ち上がる。周自もつられて立ち上がる。美陽が深々と頭を下げ、踵を返しても、沖山は何も言わなかった。美陽と周自は校長室を後にした。
美陽は事の顛末を携帯電話で信自に説明する。信自は電話口で心配そうに、
「美陽ちゃん。本当にそれで良いのか?」
「暫くは私が勉強を教える」
美陽が答えると信自は、
「美陽ちゃんに皺寄せが来てしまったな。俺も教えるのを頑張るよ」
「よろしく」
と、頼むと美陽は電話を切った。周自を車に乗せて桐風村に戻って行った。