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変化

 愉李子と優二が三十歳になった冬の始まり。愉李子は女の子を出産した。絢子あやこと名付けた。


 操は安堵し、

「無事に生まれて良かった」

 美陽も嬉しそうに、

「おめでとう」

 二人は言葉だけではなく、陰に陽に愉李子を支えた。愉李子は何度も礼を言って感謝した。美陽の息子の周自は四歳、操の娘の静子は二歳。二人共、珍しそうに絢子を見つめている。六人は雨の日にはどちらかの家に集まって遊ぶようになった。


 銀慈は遠目でそれを見ながら呟いた、

「人って変わるもんだな」

 愉李子は様々な薬品を開発していくが、危険薬物を創ろうとはしなかった。薬学の知識をひけらかす時が有るが、普段は操と美陽と談笑するぐらいで、大人しい。攻撃的な態度は滅多にとらない。米軍を挑発したテロリストには見えないのだ。


 優二との仲も意外と悪くなかった。愉李子は澤木のはなれから優二の住んでいる家に移っている。喧嘩らしい喧嘩はせず、二人はよく淡々と会話している。


 番場信自と美陽は露骨に仲の良さを見せつけているが、優二と愉李子も寅次と操も落ち着いている。寅次は操を尊重しているが操は寅次に控えめだ。操は寅次を呼び捨てにしない。愉李子は逆に優二に心持ち強気だ。どんな時も優二を呼び捨てで呼ぶ。桐風村の人々は苦笑いしている。銀慈は、

「砂澤さん。俺達の親分を呼び捨てにしないでくれ」

 と、何度も注意する。愉李子は仕方ないので思い出した様に優二を、

「夢村さん」

 と、呼ぶ。愉李子と優二は婚姻届を出しており、姓を夢村に統一しているが、多くの者は愉李子を「砂澤」と呼んでいる。美陽と操だけ、「愉李子さん」と呼んでいる。


 優二は時間の許す限り絢子を可愛がった。


「まさか子どもを生むとは思っていなかった」

 絢子をあやしている優二を見ながら、愉李子がしみじみと言った。優二は絢子の頭を撫でながら、

「俺も少し驚いている」


 このまま大きな変化がなく、絢子が無事に育てば良い。愉李子も優二も漠然と願った。絢子の首がすわり腰がすわり歩けるようになってもうじき一歳になる頃。


 九月十一日にアメリカで同時多発テロ事件が起きた。大手報道陣は大々的に伝えた。扇情的な報道に対して、日本の視聴者はある意味、熱風にあてられた。この時、愉李子は満面の笑みでテレビを眺めていた。それに気付いた優二は、

「絢子が困る様な事をするなよ」

 と、諭した。愉李子は苦笑いした。

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