表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

色仕掛け

 新田組の報告を受けると、意外にも米軍と日本政府は砂澤愉李子の引き渡しを諦めた。新田組が愉李子を米軍に引き渡す理由も義理も無いからだ。元々は米兵による日本女性への性暴力が発端だ。新田組はその弱みにつけこむ事も出来るし、国民感情として米軍の言いなりになるのは面白くない。米軍側も女一人でこれ以上、時間と労力を使うつもりもなかった。


 愉李子は一度アパートに戻って荷物をまとめると桐風村に連れて行かれた。澤木の住む敷地のはなれの一つに住むことになった。


 番場信自と吉田寅次は妻と再会すると、安堵の溜息を吐いた。信自と妻の美陽には二歳になる息子の周自がおり、寅次と操には生まれたばかりの娘の静子しずこがいる。


 操が静子をあやしながら、

「本当に彼女が犯人なの?」

「ああ」 

 寅次が短く答えた。操のかたわらにいた美陽は周自の手をつなぎながら、心配そうに愉李子のいるはなれを見つめている。信自が、

「美陽ちゃん、熊じゃないから大丈夫だよ」

 川口銀慈と夢村優二は澤木に呼ばれて母屋に入った。


 澤木が居間の奥に座ると、銀慈と優二にも座らせた。二人が座ると澤木は青白い顔で、

「坂本親分が色仕掛けで砂澤を調教しろとおっしゃっている」

 銀慈は息を飲み、

「親分がやるのですか」

 澤木は首を掻きながら、

「足蹴りにしたり薬漬けにしたりすれば知能も腕もにぶるからな」

 銀慈は、

「アレはサツやアカよりヤバい奴ですよ」

 澤木は俯いて腕を組む。優二が、

「親分がお嫌でしたら俺が何とかしてみます」

 澤木が弾かれたように頭を上げた。銀慈も鳩が豆鉄砲を食らったような顔で振り向く。優二は暗い声で、

「全く自信は有りませんが」

 澤木の目が泳ぐ。銀慈が冷や汗をかく。澤木が、

「確かに俺はあんな女を口説いたり抱いたりしたくはないが、それはお前も同じだろ」

 優二は冷静な声で、

「けれども坂本親分から命じられてますよね」

 澤木が腕を解いて両手を膝に置き、

「まあ。女を色仕掛けで調教すれば簡単に駒になるからな」

「俺にやらせてくれませんか」

 澤木はじっと優二を見つめた。優二も無表情で澤木を見返している。銀慈は困った顔で二人を見比べている。澤木は低い声で、

「分かった。やってみろ」

 優二はゆっくり立ち上がると頭を深く下げた。きびすを返して立ち去る。銀慈も慌てて立ち上がり、澤木に頭を下げると優二の後に続く。


 銀慈が、

「そういうの、嫌じゃありませんでしたか?」

「仕方ないだろう」

 優二は無表情で返答した。寅次と信自、操と美陽が振り向くと、銀慈は先程の件を話した。信自は顔を青ざめ、美陽と操は心配そうな顔をし、寅次は固唾を飲んだ。優二が苦笑いしながら、

「俺は苦手だけど、色仕掛けなんてヤクザでは珍しくも何ともない」

 と、言い残して愉李子のいるはなれに入っていった。五人は暫くはなれを見つめていたが、数分経つと何となく解散した。


 何もする事は無く、疲れが溜まっていたので愉李子は折り畳みベッドの上で寝ていた。呼び鈴が鳴ったので起き上がって出てみると優二が立っていた。愉李子が呆然としていると優二は中に入り、ベッドの隣の椅子に足を組んで座った。愉李子が優二の前に立って、

「私をどうするつもり?」

「上からあんたを調教するように言われた」

 優二が平然と答えると愉李子は身構えた。優二は苦笑いしながら、

「今更怖がるのか?」

「調教ってどんな拷問なの?気色悪い」

 愉李子が一歩下がる。優二は肩をすくめて、

「安心しろ。薬漬けにしたり足蹴りにしたりすれば知能と腕が鈍って使い物にならなくなるからな」

 愉李子は不思議そうに、

「どうするの?」

「色仕掛け。俺は色男でも何でもないけどな」

 優二が首を傾げながら言った。愉李子はまた一歩下がる。足と背中が棚に当たる。優二がゆっくり立ち上がり、無表情で、

「アレだけの事をしておいて男に抱かれるのが怖いのか?」

 愉李子はドアの方へ逃げようとしたが優二が肩を掴む。愉李子は優二を突き飛ばそうとするが優二は動じない。愉李子が足払いしようとしても膝で腹を蹴っても動じない。優二が、

「確か俺と同じ歳だろ。処女じゃないんだろ。抱かれるぐらい何だよ」

 愉李子は攻撃を止めたが、身体が震える。優二が、

「どうした?まさか処女か?」

 愉李子が俯く。優二は愉李子を抱き寄せる。愉李子の身体はまだ震えており、強張っている。優二はしっかりと抱きながらも力を加減した。愉李子は暗い声で、

「上からの命令で嫌々抱いて虚しくならないの?」

 優二は腕を緩めて愉李子の顎を右手で掴んで目を合わせた。しかしすぐに愉李子は目をそらす。優二は唇に唇を合わせた。愉李子の身体がビリビリと震え、熱くなって汗が出てきた。優二はそのまま右手で愉李子の顔を押さえ、左手で抱き締めた。


 一分も経たなかったが、優二は愉李子を離す。気が付くと自分も熱っぽく、心拍数が上がっているのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ