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接触

 新田組本家から報せが届いた。盆休みの終わりに沖縄県に有る米軍基地三箇所が同時多発的に爆発する事故が起きた。その事件自体は既に皆、知っていた。しかし大手報道陣はそれを深く追及せず、どうでも良い醜聞で掻き消していた。


 ある個人や団体による意図的な犯行であり、事故ではないと、本家が下部組織へ報せた。米軍も日本政府も情報の統制を試みており、詳しい事は本家も分からない。本家に対して警察から異様な取り調べがなされたので、本家は何者かのテロを疑っており、本家も米軍や日本政府に一時期疑われていた。


 新田組組長やその幹部達は警察から怪しい車の番号や、怪しい女の画像を見せられた。心当たりが無い。しかし、下部組織にも見せて怪しい女を見つけ次第、警察や米軍に差し出すことにした。取引だ。引き換えに極道達の活動を大目に見てもらえたり、カネを数千万円から数億円いただく。報道機関や民間人には知られないように極道達の独自のネットワークで怪しい女を捕まえるのだ。


 西日本最大の新田組だけでなく、東日本の阿部会あべかい咲見会さきみかい、北九州の九堂会きゅうどうかいにも米軍や日本政府は情報の一部を提示している。


 米軍基地に爆弾を仕掛けて更に毒ガスを撒いた者を表に晒して公式に裁くより、なるべく誰にも知られないまま秘密裏に始末する方を米軍は選んだようだ。要するに無関係だった極道が直接、手を汚すのだ。


「直接仕掛けたのは女なんだってな」

 新田組組長の片腕である高橋堅たかはしけんは呟いた。米軍は既に怪しい女の素顔も割り当てている。日本全国各地にある監視カメラや電波の情報を掻き集めて分析するのは米軍にとっては簡単な事である。日本政府や警察や自衛隊に少し圧力をかければ良いのだから。


 「この女が単独でやったわけではないんだろ」

 電話口で咲見会会長の藤倉悟ふじくらさとるが言った。高橋は、

「そうだろうよ。まあ、捕まえれば分かるさ」


 怪しい女の顔写真を見せられて、夢村優二は息を飲んだ。震災の復興支援で番場信自を手当てした女だ。三年経っても忘れない。優二は澤木に、

「この女は砂澤愉李子かもしれません⋯⋯」

 説明した。三年前に会った事、茨城県の製薬会社で働いている事。

「⋯⋯しかし、動機が分かりません」

 優二が自信なさそうに言った。ボランティアに積極的に参加する女がテロに加担するとは思え無い。極道に物怖じしなかったが、親切であった。澤木は、

「まあ、近付く価値は有るな」


 澤木は坂本親分と連絡を取り、優二が砂澤愉李子と接触する旨を伝えた。坂本は本家の高橋にその許可を取り、高橋は東日本の咲見会の藤倉にそれを伝えた。この回りくどい伝言は小気味よくなされ、一時間もしないうちに優二は子分と一緒に茨城県に行く手はずを進めた。


 咲見会の三次団体である影代組かげしろぐみが既に砂澤愉李子を監視していた。けれども他に怪しい人物との接触をしていないので泳がせていた。


 初秋。夜の八時頃。優二は砂澤愉李子のアパート近くの駐車場に車を停めさせた。運転していた番場信自と一緒に降りる。銀慈と寅次は車内で待機している。車は何処にでも有るような六人乗りの車で、四人共、くたびれた夏用のスーツを着ていた。貧乏な会社員にしか見えない。信自は紙袋に野菜と果物を持っていた。作物の販売を装って接触する為だ。優二は上着の下に短刀を持っていたが表向きは手ぶらだ。二人は階段の前で待っていた。


 間もなく砂澤愉李子が帰ってきた。優二が微笑みながら、

「お忙しい中、すいません」

「何でしょうか」

 愉李子が険しい顔で優二を睨む。優二は微笑みながら信自に振り返り、

「覚えてませんか?三年前の復興支援でこの番場の手当てをしてくれましたよね」

 愉李子が不思議そうに信自を見つめる。非常に体格が良いけれど何だか憎めない感じ。優二が続けた、

「俺達が新田組の人間だと知っても貴方は分け隔てなく接してくれました」

 愉李子は思い出した。確かに極道を手当てした記憶は有る。優二は、

「お礼をしたかったのですが却って迷惑かと思って何も返さずに今まできてしまいました」

 信自が紙袋を渡す。愉李子は受け取らない。優二は、

「ただの野菜と果物です。またお会いして話したい事が有るのですが、よろしいですか」

「何の話ですか?」

 愉李子が不安そうに優二と信自を見比べる。優二は笑顔のまま冷たい声で、

「この間、沖縄県で起きた米軍基地での爆弾事件について」

 愉李子は目を大きくして驚いた。優二はやけに穏やかな声で、

「都合のつく日を教えて下さい」

「今度の日曜日なら」

 愉李子が呟くと優二は、

「では、迎えに来ますね」

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