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『おい、もっと優しく扱え』
「……どうやって?」
おじいさまが自分を祀る祠のようなものが欲しいと言うから、ため息をつきながらルーカスは工作をしていた。体力も筋力もないので勘弁してほしい。
『大丈夫だ。お主は我の自慢の孫息子なのだからな!』
「はあ……」
おじいさまはルーカスが生まれた時から、ずっとそこにいた。姿はルーカスにしか見えず、声も同様だ。
曰く、地の底に落とされた自身の本体を回収してほしいとか。
頭が良かったルーカスは赤子の頃の記憶もしっかり残っていたが、それでも物心がつくのはしばらく時間がかかった。
それを待っていたかのように、いややっぱりルーカスが大人になるのを待ちきれなかったのだろう。おじいさまは人間にはありえない様子で目を輝かせ、契約を持ちかけた。
『お前が人間として生きている間は、我は奴隷のように振舞ってやろう。だが、お前が来るべき時、人間としての死を迎えた時には、お前が我の奴隷となるのだ。言うことを聞いてもらうぞ、ふふん』
生きる意味もなく、ただ屋敷に閉じ込められているだけだったルーカスは、深く考えず、その言葉に頷いてしまう。そして契約は成立してしまった。今でも後悔している。なまじ頭が良くて、しっかり覚えている分、知らないフリをして反故にもできない。
『お主は人間としてもよくできているな、我の力をそれほど受け継いでおきながら、よく人の形を保てているものだ』
「と言うと?」
『む。我は説明するのが苦手だと言っておろうが。変に小賢しくなったな……』
「一応私は、おじいさまを奴隷のように扱う権利、あるはずですよね?」
ルーカスがなんでもないことのようにそう言うと、おじいさまは少しバツが悪そうな顔をした。
『……。お主は強すぎるのだ。神の力を継ぎすぎた。咳が止まらぬだろう?それはお主がこの場所に合っておらんのだ。強すぎて、下界に拒絶されている』
「はあ」
『その顔は、また訳の分からないことを言ってるなこのじじい、とでも言いたいのだな!だから言っているだろう、我は説明が苦手だと!そもそも我は寡黙な支配者でだな。言葉を発するのは配下のすることで……』
「思っていませんよ……」
▫
そうだ。これは発光しているわけじゃない。身体が崩壊しかけているのだ。
道理で痛みを感じないはずだ。
「やっぱり俺は生まれるべきじゃなかったのかもな……」
ルーカスは空を見上げる。いつも通りの青空だ。特筆すべきところもない。こんな時くらい綺麗だと思わせてほしかった。
指をノアに向ける。今のルーカスの状態もあってか、さすがに怯えた顔をしている。今ルーカスはどんな見た目をしているのだろう。
ノアは、ロアに大量殺人犯だと聞いているが、まあやむにやまれぬ事情があったのだろう。まともだとは言えないが普通のやつではあった。普通に笑うし普通に怒るし普通に怯える。
しかし、女王を洗脳しようとする頭のおかしいやつだし、今だってルーカスを殺そうとしているだろう。ルーカスがこのまま力を使って、消しきっても良かった。存在ごと消失させればいかに女神の加護があっても回帰……ループはもはやできないはずだ。
ルーカスは手を下ろした。ノアを殺す理由が見当たらなかったからだ。そんなことに時間を使っていられない、と思った。
そのまま指を鳴らし、ルーカスはあることを行った。もうルーカスはきっとこの場所に手を加えられない。だからこそそれはルーカスにとって最大の賭けだった。だって彼女にはそれをする理由がない。
「頼んだぞリン」
奇跡とも言える事象をたった今成し遂げたルーカスは、そうと悟らせない適当な笑みで、瞳のみをそちらに向けて、それだけ言った。
「え、なんで……」
どこか異国風の顔立ちの、黒髪でまだ幼さを残した華奢な少女は、呆然としながら何もいなくなった場所を見つめた。




