5
「俺はお前たちに同行することになった。どうせ目的地は同じだからいいだろう?」
ルーカスは国から出て行くノアにそう言った。
「……お前はそう来るのか……」
「使える物は使うし役に立つ物は大事にする。それが俺で、役に立たない物はそれ相応の扱いをするのもまた俺だ」
ルーカスは、ノアとそれなりに友好的な関係を築いておきたかった。
嘘はつかない方がいいだろう。これは彼自身の少ない対人関係における教訓の1つだった。
おじいさまもそれでいいとうなずいている。
「さて、お前の仲間たちはどこだ?」
「はあ……ほら皆」
ノアが呼びかけると確かに全員出てきた。
「条件があるんだけどいいかな?」
ノアが続けて言う。
「言ってみろ」
……。
「それくらいならいいぞ」
▫
「しかしよく分からない条件だな。俺にヒラヒラのワンピースを着てほしいとは」
「本当に着るとは思わなかったよ。ただの苦し紛れの罰ゲームみたいなものだったのに……」
「?俺は着るものにはこだわらないぞ」
「それにしたって限度があると思わないかい?」
ルーカスは白いワンピースを着ていた。
スカートのように広がっているものではないため、一応男でも着れる。
そしてそれがノアの提示した条件だった。1週間この姿で過ごす。
髪をほどいた彼は美しい少女にしか見えなかった。
「ああ、そうだ。……口調もこうした方がよろしいですか?」
「……。い、いや。いい、そのままで」
「そうか。よく分からないな。ま、これくらいで同行できるなら安いものだ」
「勇士はこんなのばっかだ……」
ノアは頭が痛いとでも言いたげな素振りでため息をついた。
「追憶の勇士は会ったことあるが、彼はこういう、不一致の行動は大嫌いだったと思うぞ」
真面目……というよりは狂気を感じるほどであった。
ルーカスは彼の前でそういう言動を控えるだけの良識があった。
「そうなんだ……そういうことじゃない」
「俺は使える人間には寛大だからな。なんだってしてやろう。そうだな、靴を舐めるくらいならいいぞ」
「いやいらな……え!?いや、本当にいらないけど」
ノアが顔を顰めた。どうやら不愉快に思ったらしい。おじいさま曰く、性格を歪めさせてまで女を周りに侍らせているというから聞いてみたのだがな、とルーカスは思った。
「それならそれでいい。そうだな、金銭バックアップをするくらいならできるかもな」
ルーカスは機嫌が良かった。
そうでなければあんなことは言わない。
しかし表情にはおくびにも出していなかった。
「なんだ……おまえ、そういう趣味だったのか?」
「しゅみ?……いや、俺は何かを感じたりはしない。しかし人間は好きなんだろう?こういうことが」
「……。そういうことか」
ノアが何か考え込むような素振りをした。
「おまえに何らかの事情があるのはわかった。だけど僕はおまえのことを許さない。おまえが覚えていなくてもな」
「それでいい」
『……』
「彼は何が分かったのでしょうか?」
『他人に体を売っていたとでも思われたのだろう。お前の言い方が悪い』
「そうですか。まあ……支障はありませんかね」
▫
「……?なんだこいつら」
ルーカスは物言わぬ死体の山を見ながら言った。
「盗賊団ですよ。貴方が倒してしまいましたが」
湾曲の勇士が昏い顔で言う。
「ノア様の見せ場を奪いましたね?」
「……俺には勝てないぞ。勇士を含めても対人戦で俺に勝てるやつはいない」
湾曲の勇士の能力は知らないルーカスであるが、それは断言ができた。
勇士は今までに倒してきた魔物の数で決定する。そしてその間に行った行動が勇士の能力となる。
ルーカスは魔族……人型の魔物をかなりの数切ったため勇士になった。
つまり人型特攻の切断能力。それが彼だけの能力であった。
ルーカスにとってはその副次品である底なしの体力の方が得がたいものであったようだ。
湾曲の勇士が札を取り出した。それをルーカスに投げつける。
「【湾曲】」
「……。【切断】」
ルーカスが言葉を発する必要はなかったが、湾曲に対応するように呟いた。
ただ札を切っただけだ。
能力を見てから切るべきであったか一瞬考えたあと、何が起こるか全く分からない以上やはりこれで正解だったと思い直す。
「あはは!高速の勇士にでも名前を変えたらどうだい?」
湾曲の勇士がいきなり雰囲気の変わった様子で、それでいておかしくて仕方がないといった様子で声をあげる。甲高い声だ。
「面白い冗談だな。俺は勇士になる前からずっとこの速さだ」
「……勇士になる者は最初からそれ相応の強さを持ってなくてはいけませんからね」
湾曲の勇士がまた突然落ち着気を取り戻し、元通りの調子でそう言った。
「そういうことだ」
ルーカスは頷いた。