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魔王の拠点は、城とも呼べない古くて今にも崩れそうな大きな建物だった。
「ネスト、撃ち込めるか」
「えっ」
ロアが驚愕の声を上げる。フラフラしながらついてきているロアの叔父がめんどくさそうにため息をついている。本当に忠誠心がないのか、こちらの隙をつこうと機会をうかがっているのかいまいち判断はつかない。そういう所含めてロアによく似ている。見た目もロアをそのまま男にしたような感じだ。
「もちろん準備万端だ」
言い切る前にさっき使っていた魔法をそのまま古い建物に撃ち込んだ。
紙が擦れるような音が響く。
ジジジという音とともにデカイ蝿が飛び出てきた。
「あれが魔王か?」
「うん」
ロアが頷いたのでそうなのだろう。ルーカスは魔王に向き直った。
「効いてはいる、か」
魔王が顎をカチカチ鳴らすと、大量の虫が飛んでくるのが見えた。
「気をつけて、しばらくすると魔物、魔族、それから死霊も来る」
見たことがあるのか、ロアが詳しい説明をする。
「へえ。従えてるのか?」
クールタイム中のネストが気の抜けたような声で聞いた。
「かも。死霊なんてどこから連れてきているのか検討もつかないけど」
こういうネタがある程度割れている攻撃は、追憶の勇士がいると楽だったんだけどな……とルーカスはぼんやり思った。
やはり人類側の戦力を削っているノアは人類の敵だと言えるのかもしれない。
「俺がヘイトを稼ぎながら回避しつつ、ネストにつなぐ感じか?」
近くに飛んできたデカイバッタを切りながらルーカスが言う。
「ヒーラーがヘイトタンクは色々間違ってるだろ」
「俺はヒーラーじゃないが」
ロアの叔父が急に話しかけてきたので、ルーカスはつい強い口調で否定した。
「聖騎士はそういう戦い方をすると聞いたことがあるぞ。ルーカスには関係ないが」
ネストがフォローなのかよく分からないことを言いながら杖で虫を撲殺している。あまり器用じゃないから近接戦闘はできないと宣っていたが、逃げ足の速さから分かる通り、いやもう見た目からしてネストは身体能力が高かった。
「俺が盾になる。回復してくれ」
「……」
ロアの叔父が名乗りを上げてきた。
「方法だけ教えるから自分で回復してくれ」
単体で竜になれるならできるんじゃないか?ということで教えておく。
「……確かにできそうだ」
そのまま本当にタンクになってくれている。
彼は魔族の中でも強い方なのだろうが、この強さの魔族が複数人いるとすれば、本来人類側に勝ち目なんてないのかもしれない、そんな強さだ。硬さはもちろんだが、虫を次々に引きちぎっていくその腕力にも目を見張るものがある。
「連射できるぞ!」
「じゃあ初発頼む」
「ああ!」
ネストが自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、そのまま大規模魔法を放つ。
魔王討伐はネストにかかっている。自信なんていくらでも持ってて欲しい。
「……ルールブック?だったか。それを使って威力を上げられないか?」
ルーカスはそれを見て1つのことに気がつく。アランの能力は弱者が強くなるための能力だった。イメージを具現化する理不尽で奇天烈なそれは、強者であるネストをより強くできるのではないかと考えたのだ。
「?……いや、そういうことか」
ネストは何かに気がついたように手を掲げる。
「『最強のこの俺が呪文を使うのだからその魔法はミスリルをも砕く』」
そしてその魔法はさっきまでほとんどダメージを受けていなかった魔王の羽に損傷を与えた。
魔王は焦りでも感じたのか、つんざくような叫び声を上げる。なんらかの状態異常を撒き散らすものかもしれない。リンが失禁して倒れた。が、他はルーカス含めて影響を受けている様子はない。
その調子でネストは魔法を撃ち、3番目……魔族が来る前に、なんとか倒しきれてしまったのだった。
思ったより簡単に倒せたことにルーカスは驚いた。我々人類は魔王を脅威であると勝手にその力を大きく見積もりすぎていたのかもしれない。
そこまで考えて、ルーカスは、ネストが単独で国一つを滅ぼせるほど強くなっている、ということに気がついた。そこまで強くしたのは誰か?もちろんルーカスにも責任はあるだろう。少し恐ろしくなったが、ルーカスは自分には関係のないことだ、と首を振ってその考えを打ち消した。




