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「これでも結局ダメか」
アランの話から瀕死状態になることがキーなのかと思ったが、リンは勇士になっていなかった。そもそも強さとかそういうものが足りないのかもしれなかい。
「……ルーカスはどういう状況だった?」
ロアが目だけを動かして聞く。
「ん?……ああ、勇士になった時、か」
叔父がルーカスのことを殺そうと、刺客を送って来たのが始まりだった。生まれながらの絶対強者であったルーカスは刺客を返り討ちにしたのだが、それを見ていた叔父が半狂乱になってその場にいた兵士達全員に、ルーカスを殺すよう命令を下した。
父親はその場におらず、祖母も叔父側についていて味方は誰もいない状況。当然そこにいた兵士達も皆叔父が手懐けており、命令を聞きルーカスを殺そうとしてきた。その全てを殺害し、脱出した先でも叔父の計画を聞いており、返り血を浴びたルーカスを見て失敗を悟った叔父の味方の兵士達がルーカスに対し次々と襲撃してくる。その兵士達を斬り伏せ……ルーカスは体力の限界を迎えた。元々体が弱く、長い間体を動かすことに耐えられなかったのだ。持っていた剣が折れ、ルーカスが膝をつきかけたその時、彼は切断の勇士になった。
折れた剣はその切れ味を取り戻し、ルーカスは酷い咳も治まり嘘みたいに健康になった。そのままの勢いで襲撃をしかけてきた兵士達を全て始末し、そして叔父の息のかかった残りの兵士、文官、使用人達も全てルーカス自身が始末した。……親友も。
「俺は大人数に襲撃されたって感じだったか。人材の無駄だから再現はしたくないな」
「なるほど。その時なんか考えた?」
「む。うーん。……なんで私がこんな目に遭わなくてはいけないのか、と思っていたような気がするな。病に伏せる父親に代わって領地を立て直そうとしただけなのに、って。今思うと手順とか後ろ盾とか色々と隙がありすぎだろと言わざるを得ない」
ルーカスは言いながら、関係ないな、と思った。というか情けなさすぎて、それが勇士になる条件なんて思いたくない。
「理不尽に抗おうとするって勇士っぽい」
「……その言い方だとそんな気もしてくるな」
ルーカスの境遇なんて、暗殺される貴族の子供、と言ってしまえばよくあることだ。
「まあでも試す価値はあるか。とりあえず訓練と評して素振り1億回させよう」
「……ノアがあなたに恨みを持つ理由が分かった気がする」
ルーカスはハッとして無表情になった。どうやら悪癖が出ていたらしい。というかずっとそうだったような気もしたが、気にしないことにした。ロアは別にルーカスを咎めるつもりで言ったわけでもないらしく、表情を見てもいつも通りだった。
「病み上がりには良くないだろうか?」
「……そこ気にするんだ。別にいいと思う」
ロアの表情は特に変わらない。
「お前もやるか?……一旦魔族は辞めてもらうことになるが」
「……?」
「気が向いたら声をかけてくれ」
勇士を2人増やせたら魔王討伐に行かせてもいいかもしれないな、とルーカスは考えた。もちろんネストも向かわせる。ルーカスはそもそも向いていないので、現状維持で良いだろう。
エマのこともそろそろどうするか考えた方が良い。幸いエマの国から何か言われているわけでもない。
「……1回エマの国に行くか」
「分かった」
ただ呟いただけだったが、ロアはその言葉に賛同した。
思い至ったら行ける距離では無いので、同意されても困るのだが、とルーカスは思った。
「大丈夫。私が飛べば3日で着く」
「そうなのか」
確かにどれだけの速さで飛べるのかを聞いたことはなかった。
「普通の人なら振り落としそうだけど、マスターなら行ける。この前ので確信した」
コイツも大概良い性格をしてるな、とルーカスは思った。




