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「ほら」
「……」
「オークの群れに突っ込むんだ。お前なら行ける」
ルーカスは、リンに向かって笑いかけた。
「ほら、勇士になりたいんだろ?速く行け」
「なんでそれでそうなる……!」
「殴打の勇士が勇士になった時の条件と限りなく近いからだが」
ルーカスは殴打の勇士の日記を開きながら何食わぬ顔でそう言った。
ここには、家族から煙たがられて、居場所がなく、村の人間にいいように使われていたレイクが、体格が良く強いからと、接近していたオークの群れに1人で対処させられたという話が書いてある。その最中に殴打の勇士になったようだ。
……1人に託すより傭兵とか他の戦力を雇えば良かったのでは?とルーカスは思った。その方が勝率は高い。
『こうして魔物退治を計画的に行っているから、勇士が出現しないのかもしれないとは、ままならぬものだな』
「追い詰められただけじゃ条件を満たさないようですからね。単独で立ち向かわないといけないのかもしれません」
何に?
「1人でブツブツ呟くなァ!」
「おっと。すまんすまん」
ルーカスは軽快に笑う。
どうやらレイクがそこまで酷い扱いを受けていたのは、父親がそもそも誰か分からない、とか、体格の大きいレイクを産んだことが遠因で母親が亡くなったとか、そういうことが関係しているらしい。まあ、最大の理由は別にあると思うが。
「お前は男になりたいと思ったことはあるか?」
「はあ?……ないとは言わんが、それがどうした?」
「まあそんなもんだよな。ありがとう。はあ……」
女王を思い出す。自分が女であることに強い後ろめたさを抱えている女。しかし、女であることを上手く使える強かさもある。
「で、勇士になりたくないのか?」
「なりたい」
「だろ?」
「……分かった。どうせお前に助けられなければ落としていた命だ」
森へと向かっていくリンに、ルーカスはヒラヒラと手を振った。
失敗したらルーカスが退治しに行けばいいだろう。魔物相手は不得手だが、オークは魔物にしては知能が高いし、何よりおじいさまが付いている。
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「心配なら助けに行っていいぞ」
ルーカスは隣に立つロアを見ながら言った。
「……いや、いい」
「そうか?」
「私が行ったからってどうにかなる問題?」
「それはそうだな」
お前のために勇士を増やそうとしているんだぞ、という言葉は飲み込むことにした。彼女も分かっているのだろう。
「はあ……はあ……」
満身創痍のリンがで出てきた。
「勇士には……なれてなさそうだな」
思ったより強かったらしい。
満身創痍とは言え1人で帰って来れるのだからそりゃそうか。
勇士の条件は殴打の勇士をなぞればいいというわけでもなさそうだ。
無料でオークの群れを消せたので、ルーカスとしてはそれでも構わない。討伐代が浮いた。
「……ロア」
「分かってる。私に捕まって。リンは……」
「置いていくしかないか」
「……」
そして羽だけだして飛んでいるロアに運んでもらうルーカスだった。
すぐ下で爆風が吹き荒れる。どうやらオークの群れの噂を聞きつけて、ネストが魔法を撃ったらしかった。
人がいないかきちんと確認しろと言いたい。こうやって魔族と、あと多分……を殺してきたんだろうな、とルーカスは遠い目をしながら思った。
「戻るか」
「……ろくでなし」
「ははは!否定できない!」
そもそもルーカスならあの時点であっても、走れば爆破に巻き込まれないところまで退避できたのだ。
「っと」
合図を出して飛び降りる。ルーカスは勇士になって耐久力が上がっているので、このくらいなら大したことがないのだ。
「リンー!生きてるかー!」
走って捜索する。
「いた」
ロアが上空からルーカスに声をかける。
その方向に向かって走る。
本当にギリギリといった様子のリンが横たわっている。どうにかして爆風の直撃を逃れたのだろう。しかし瀕死だ。
ルーカスは怪我を無くす、その方向で魔法を使っていく。全ては無理だが、致命的になりかねないものを消していく。ルーカスが人体構造に詳しいからこそできる芸当だ。
「さて、屋敷まで運んでくれるか?」
「はあ……いいけど」




