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「帰ってきましたよ」


「武器はありがたいが……」


 カイ・キーストンは異例とも言えるスピードでルーカスの元に帰ってきたのだった。それも多数の馬車を率いて。ルーカスは武器を売ってくれる想定ではあったが、カイまで来るとは思っていなかった。また同じことになったらどうするんだ。


「なんでここに商人たちが集まってくるのか分かりましたよ。魔族領に近いのに治安は随分良くて、しかも他の国2つと距離も遠くない。魔族領由来の貴重な素材も手に入るうえ、力試しに来た名高い騎士とも知り合える……いや、いい土地ですね。ほんと」


 明け透けな物言いにルーカスは閉口する。やはりルーカスが出るべきではなかった。あの面の皮が厚く口が回るメイドに任せれば良かったかな、と現実逃避のように思った。

 口が上手い人間と有能な人間はイコールでは無い。商売人はそこがイコールになることが体感多いイメージなのだが、目の前の男はそういうわけでもないらしい。


「まあまあ、ほらサリバン様が欲しいかと思って、手に入れてきましたよ、殴打の勇士の手記」


「なっ」


 カイが古ぼけた本を片手に持ってひらひらと揺らす。


「聞いていますよ?勇士を増やそうとしてるんですって?」


 必要な物を必要な時に用意できるのがこの男の強みなのだと理解した。ついでにルーカスが不機嫌なこともお見通しのようだ。

 ……商人として有能なのは分かるが、トップとしてはどうなんだろうな、とルーカスは思った。この調子の良さは好き嫌いが別れそうだ。


「どこから聞いたんだか……。それでお前につけた兵士は勇士になったか?」


「わ、そう急かさないでくださいよ。私は違いがよく分かりませんけど、おそらくなっていませんよ。というか勇士って魔物の殺傷数で決まるのでは?」


「それだったらこの領地から勇士がたくさん出ているはずだろうが」


「確かに」


 カイが声をあげて笑う。


「その手記の代金は?」


「これは私からサリバン様へのお礼の気持ちです。今後ともご贔屓に」


「はいはい……」


 ルーカスは殴打の勇士の手記を受け取って、そのままページをペラペラとめくる。気分が悪くなってきて手記を閉じる。


「しばらく滞在を許可する」


「ありがとうございます」


 ため息をつきながらルーカスが報酬として滞在の許可を出すと、カイは本当に嬉しそうな笑顔でお礼を言った。ルーカスは再びため息をついた。



 ▫



「俺あいつ嫌いだ」


 カイに護衛をつけて見送った後、廊下を歩いていると、ネストに遭遇して突然そんなことを言われた。

 とても不機嫌そうだが、魔法を放つのは我慢してくれているようで、それはありがたい。


「俺もそんなに好きではないが……」


 調子の良さで誤魔化されそうになるが、小狡い上に行動の影響がいちいち大きい。そもそも幼少の頃とはいえ、放火したようなやつだ。会話するだけで面倒くさい。どう動くかが読めなさすぎて、使える使えないを判断する段階にない。それは目の前のネストにも言えるがリターンが大きいので問題ないとルーカスは考えていた。


 ……それに、殴打の勇士の手記は、きっとあの男も読んだのであろう。あれを手に入れられることも、それを平然と渡せるというのもルーカスには信じがたいことだった。


「アイツ、人が不幸を嘆く様を見て、自分が普通みたいな顔しながら、嘆いているところだけに反応してうるさいな、なんて言うタイプだ」


「……なるほど?」


 いまいち要領を得ない言葉だ。こういうところがネストが相手にナメられる原因の1つなのだが、ルーカスはひとまず彼の言葉を自分の中で整理することにした。

 原因を見ず、行動だけで判断し、感情論で評価を下し、自分を正義だと思っている。1つなら気にならないが、カイはその全てを満たしているから嫌いってことだろうか。確かに彼の妹に対する言動を見るとその通りかもしれない。


「視野が狭いやつは嫌いだ」


 分かりにくかったと思ったのかネストが言い直した。


「まあ、嫌いなものはしょうがない。人間そういうこともある」


 ルーカスは面倒くさくなったので、そんな適当なことを言った。

 ルーカスには嫌いな人間という概念は理解できなかったし、なんなら好きな人間もいない。別にそれでいい。おじいさまもそう言っている。


「話しかけられたのか?」


「ああ」


「……俺がいる時は俺が話す」


「助かる」





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