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ルーカスは女王の警備をすることになった。
ノアが女王に謁見した時にいた近衛兵は全て殺されたというのだから、当然の話ではあった。
ルーカスにとってはこれだけでもかなりの痛手だ。
「防護の勇士に裁判が行われることになったわ。罪状は貴方が言った通り聖職者にも関わらず子供を汚したことね」
「やけにあっさり受け入れたな……」
「それだけ自分の無実に自信があるのね。私の名誉にも関わるのだから真剣にやりなさい」
「もちろん」
▫
証拠は言うまでもなく揃っている。
そうでなければルーカスは行動を起こさない。
「この裁判で勝つためには……教会の援助を剥がさないとな」
女王の権威は教会にまでは届かない。
ルーカスは考える。
教会に防護の勇士は守る価値がないと思わせる必要がある。
「サリバン様!」
近衛兵がルーカスの名を呼ぶ。
「帰路の勇士を捕らえました!」
「すぐ向かう」
「私もついて行くわ。……その方が安全だもの」
▫
ノアは1人で捕まっていた。
「……俺はお前が何を考えているのかさっぱり分からない。分からないが、お前に利用価値があることは分かる」
ルーカスはそう言った。
捕まっているノアを利用するべきだと彼は思っていた。
「もう一度チャンスをやろう。俺と協力する気はないか?」
ルーカスは牢に向かって手をさしだした。
「ないね。そもそも君はそこの女王陛下とどうやって親密になったんだ。ろくな手段じゃないだろ」
「いいや。俺は女王陛下、エリーと親友だからな。ついでに幼なじみだ。俺は貴族なんだから何もおかしいことはない」
「ええ。私とルークはとても仲がいいの」
女王もそれに賛同した。
「勇士っていうのはどいつもこいつも権力者ばかりだ」
ノアが顔を歪めながら言う。
どうやら気に食わないらしい。
「俺と防護のやつはそうだろうが、それ以外にいるのか?」
「……」
ルーカスは貴族だ。女王と親友でなくとも権力者である。
女王と親友なのは、単純に親友が女王になったからだ。もちろんルーカスが手を貸しはした。しかしそれだけでこの地位に立っているわけではない。彼女が自分で王になったのだ。
そうして彼女はこの国で初めてとなる女の王だった。
「まあいい。ここでお前を殺すのももったいないし、牢を頑丈にでもしておくか」
「いえ、解放しようと思うわ」
「そうか?」
「ええ。国外追放が妥当ね。勇士を殺すには少し罪状が足りない。近衛兵を殺したのも女の方だもの」
「ああ、そういうことか」
ルーカスは女王の方をちらりと見るが、様子がおかしくなった感じはしない。
つまり、次に来た時は女を死刑にしてやるから二度とこの国に踏み入るなとそういうことだ。
帰路の勇士は手足すら生やせると聞いて殺しきれる自信が無くなったのかもしれないし、帰路の勇士の仲間を捕らえきる前に自分が殺されてしまうと考えたのかもしれない。
どちらにしろ、妥当な判断だ。
ルーカスは頷いた。彼が女王と親友である理由の一端はそこであった。
「少しもったいないが仕方ないな。裁判は別の方法を考えるか」
「……は?」
ノアは現状を把握できていないようだった。
「二度とこの国に“来訪”するな」
▫
「私は考えた」
女王は考える。夜はズボンを履く。何故か。羨望。卑屈。劣等感。それだけ?彼女にしか分からないことだ。そして彼女は無表情の青年を見やる。
「はい」
青年は無言で女王の足元に跪く。慣れた様子だ。実際何度も繰り返していることだった。
「都市街王国レイヴンに被害者の1人を国籍変更してもらって国民投票すればいいんじゃないか?」
女王はそんな彼の頭を見ながら、自身の考えを述べた。
「……」
「裁判場所は被害者側になる。理由はレイヴンが自立都市だから。教国とは同格だ。それもあってか防護の勇士はレイヴン街民には手を出していないみたいだが、被害者の1人にいいのがいる。これが数の暴力……だろ?」
女王は青年の頭から目を離し、問いかけるように手を挙げた。
「しかしあの国の死刑は逃亡が認められています」
「だが恨まれていたら家の戸に釘が打たれる徹底ぶりだ。実に民衆政治的で私は嫌いじゃない」
「そうですね。実を言うと私もそれを考えました。考えました、が」
「どうした?」
「……」
青年……もはや少女にしか見えないそれは、汚れたことのないような真っ白い肌をほんのり赤く染めた。
「いえ……なんでもありません」