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「貴族ってずっと領地に居ていいの?……その、舞踏会とか」
ルーカスはいつもと変わらず執務室で仕事をしていると、ロアに突然そんなことを言われた。
「舞踏会?……ああ、社交界や王城に行かなくていいのか?って話か。ここは重要な土地だし、何より遠すぎる。1年に1回くらい行けば大体問題ない」
あとは適当なことを言って断っても仕方ないという扱いになる。後ろ盾のランドット公とそのコミュニティは何度が接触する機会もある。
今年はノアの襲撃に巻き込まれたが、女王には挨拶できたので十分だろう。ついでに遊べた。
「年1?それなのに愛人?」
「まあ、そこにいないということは好きなことを言われ放題でもあるってことだな」
「えー……」
「はははは!」
笑い事ではないが、ルーカスは笑った。
こんな感じなので言われ放題になっている。人間嫌いの辺境伯というあだ名もあるのだが、あまり言われたことはない。アランが初対面で言及していたくらいだろうか。
「さて、魔物討伐に行くか」
「急」
「お前の強さを確認しておきたいと思ってな」
ついでに魔族でも勇士になれるのか確認したかった。魔族領は魔物が多いので、魔族は魔物を殺す機会が多い。それで勇士になれないのだから、無理なのだろうが、一応。
「勇士の数が減っているから狩り所はたくさんある」
治安はまだ悪化していないが、このまま魔物が増えれば商人達が撤退しかねない。ほどほどに数を減らしたいところだ。
「とりあえず境にある森に行くか」
▫
「ん」
ロアは思っていた通り強かった。
群れで襲ってきた狼達をその頑丈な鱗で受け止めて、一匹ずつ撲殺している。
ルーカスはそれを木の上から見ていた。人間得手不得手というものがある。
「剣は使わないのか?」
一応腰に剣は装着している。
「使ったら折れちゃうし」
「なるほど……」
剣を使うよりその強靭な肉体で戦った方が強いということだろう。近衛が頼もしくて嬉しい。
勇士になるか試すにはここから追い詰めなくてはいけないのだが、なかなか厳しそうだ。可能性の低そうなロアよりリンで試した方がいいだろうか、とルーカスは考える。
「よーしコレット、魔族じゃなくて悪いが、これも持っていってくれ」
「分かってるなら私にこんなことさせないでください!」
ルーカスの後ろに控えていたコレットが少し怒ったように言った。ルーカスは魔物の研究もしたいのだが、コレットはそうでもないので、今研究の方向性の違いで若干喧嘩中だ。それでも雇い主であるルーカスの意向を聞いて協力してくれるのでありがたい。
コレットが片手を討伐したオオカミに向けると、圧縮されたようにビー玉のような丸い玉ができた。実際は圧縮されていないので、持ち運びに便利なのだ。これで運ぶと保存状態もよく解剖が進めやすい。
「……コレットはなんの魔族?」
「さあ……精霊寄り?らしいですけど」
「へえそういうのもいるんだ」
魔族はドラゴニュートが分かりやすく強いので有名だが、その他にもいろいろな種族がいる。いや、他種族と言われている関係でも繁殖可能なので、正確には種族の違いではないのだが、あまり研究も進んでいないので、見た目で適当に分けられている。いわゆる人間側の価値観だとルーカスは思っていたが、どうやら魔族でもその区分は適用されているらしい。
……精霊が変成したものがコレットだとすると、人間と同一存在であると思われる魔族とは由来からして異なるものなのかもしれない。おじいさまを見る。
『あれのベースは人間だ。魔力による変成とお前達が言っている現象の結果精霊に近くなっているだけだ』
「なんだ。そうなんですか」
『変わらず異常者だから安心していいぞ』
「ですね!」
おじいさまの思惑通りだとルーカスは思いつつ、コレットが異常者であることに安心してしまう。やはり仲間を求めているのだろう。
「またひとりごと言ってる……」
コレットがおじいさまと話すルーカスを見て少し眉をしかめた。
ロアはどうでも良さそうだ。
「気を取り直して移動するか」
そんなコレットを横目にルーカスは帰ることを提言する。
「分かってますよ」
少し頬を膨らませてコレットはスカートを払い、帰りの支度をするのだった。




