46
「……ふむ」
杖をついて歩いている男が考え込んでいる。
「ミスターキーストン。まずは座ってくれ」
ルーカスはとりあえずそれだけ言った。
目の前にいる男はカイ・キーストン。複数の国に支部を持つ大商会のトップにして、そう、刺突の勇士の兄だった。
「その前に1つだけよろしいですか?」
「もちろん」
「刺突の勇士の死の場面に貴方もいたとお聞きしたのですが、真実ですか?」
「……」
さすがの情報網だった。
「真実だ。俺はこの目で見た」
ということで、ルーカスは嘘をつかず、しかし真実も言わないことにした。
「ふふっ」
「?」
「あははは!はーははっは。そうですか!あの女は死にましたか!」
「……ええ」
「それは良かったです。貴方程の人が言うんですから間違いありませんね」
カイは本当に清々しいと言った様子で笑い、落ち着いてから杖を置いて椅子に座った。
「いや、ね。私はあの女の兄ですから棺だって見ましたよ。ですが、本当にあの悪夢のような女は死んだのか?信じきれずにいた。だから聞いたんです。困らせてしまいましたよね?ごめんなさい」
「いえ……」
どことなく物言いが妹に似てるな、なんて思いながらルーカスはカイを見つめた。
ここに来る途中通りすがったネストがイラついた顔をしていたのが印象的だった。
「ははは、本当にあの妹には苦労させられましてね!ここだけの話ですが、私は足が不自由なもので、妹が後継者候補になっていた時期もあったんですよ?なんでもやってもらえる王ならいいですけど、体力と精神力が必要な商人に女が、ねえ」
「女の商売人はよく見るが」
女王を侮辱されたと受け取れる発言に、反応しないわけにもいかない。ルーカスは面倒だと思いつつ指摘した。
「そうですね!女が、じゃなくて妹が、でした」
「……」
これで女商人は女じゃないから、と言おうものなら追い出していたところだが、それなら許してもいいか……?とルーカスは悩む。ただ煽られただけのような気もした。
「妹は父を刺して我が家から絶縁されたんですよ」
「……は?」
「だから安心してくださいね」
どうやらルーカスが彼女にとどめを刺した、ということまで知っているらしかった。これは脅しか?あまり賢い選択には思えなかったが、とりあえず話だけは聞いてみることにした。
「今日は商談があって来たんです」
「だろうな。内容は?」
真面目に付き合ってやる気も薄れたので、話を催促する。
ルーカス自ら応対したのは失敗したかもしれない。
「胡椒です」
「……はあ。値段は?」
「相場の9割で」
「……舐めてるのか?」
胡椒なんて、何もしなくても商売人が集まってくるこの場所では貴重でもなんでもない。大量に仕入れてくれる商会のとコネクションもある。その商会からの信用を捨てて9割?馬鹿なんじゃないのか?ルーカスは頭に血が上りそうなのを抑えてよく考える。
この男が連れてきたのは小さい馬車1つ分。つまり量は荷台一台分。大商会のトップだから大規模だと思っていたが、そこまででもない?いや胡椒荷台一台分は高い価値を持つがそれはそれとして。
今ルーカスに売り出すなら鎧や武器の方がいいはずだ。国際指名手配犯である帰路の勇士に襲撃された直後なのだ。不安は高まっている。この辺りでは鉄が取れないのもあって、普通に売って欲しい。
「……。もしかして帰れなくなったのか?」
「……」
付き人がいないのは気にかかっていた。まるで行商人のようだ。どこかではぐれたのかもしれない。足が悪いのもあって、カイはよく目立つ。素性を隠して他の馬車に帯同させてもらうのも難しいのかもしれない。今手持ちのお金がなくて、護衛を雇えないとしたら?詰んでいる。
「それならそうと言ってくれ!」
「そうとは言ってませんよ!?別に私1人でもここまで来れましたし……」
やはりなんらかのアクシデントがあって1人になったのだろう。その状況で馬車も持って来れるとは思えないので、もしかしてあの荷台は一から増やしたものなのかもしれない。まだ若いが才覚はあるようだ。
「はあ。全く。護衛はつける。代金は武器を融通してくれればいいから」
「……武器、ですか?」
「ああ。……知らないのか」
なるほど、どうやら情報収集もままならない状況らしい。これも目立つから仕方のないことか。
「ここは辺境。魔族の支配地との境。戦うための武器はあればあるほど良い……勇士も仲間割れで殺し合ってる現状皺寄せが来るのはやはりここだ」
「分かりました。私を本部まで届けてくださいね」
「もちろん。ウチでも腕利きの兵士をつける」
そして握手をした。




