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前話よりちょっと前の話です。
「めちゃくちゃ好みです。付き合ってください」
「は?……ごめんなさい」
ルーカスはロアに対してとりあえず交際の申し込みをしてみたが、普通に断られた。頭上のおじいさまはニコニコでサムズアップすらしている。
「……さて、お前に会わせたい人がいる」
「ん?うん」
ショックを受けつつ話を変えるとそのまま流された。
「着いてきてくれ」
▫
地下室に着く。ロアは黙ってルーカスに着いてきていた。
「ここが魔族を解剖していた部屋だ」
「……なぜ私をここに?」
「会わせたい人がいる。ああ、安心しろ。今は解剖は行っていないから」
領地付近に魔族がほとんど来なくなったからだ。勇士のおかげなのだろう。単騎でどれだけの力を持つのか。ルーカスは魔物に対してはそこまで強くないが、きっと今まで見てきた勇士達は魔物にだって強いはずだ。そういう意味では感謝している。
……勇士の数は減った。魔物の脅威は今よりも増すのだろう。
奥から背の高い女性が歩いてくる。
「あなたが新しく仲間になった魔族ですか?……もしかして私情で入れました?」
「いや、うん。まあそれは置いといてだな」
ロアを目に入れた途端なにかに気づいたのかルーカスを見ながらジト目で聞く。そういうわけではないが、さっき告白したため嘘と言いきれなくなっており、ルーカスは目を逸らした。
「ああ、解いていませんでしたね。えいっ」
そうやって女性……コレットが少しの動作を行うと、体が透けてきた。
「ん?」
「あれ?分かりずらかったかな……こういうことです。私、魔族なんですよ。えへへ」
「そ、う」
ロアが動揺したようになんとか声を出した。
どうやら魔族であるロアから見てもコレットの擬態は完璧だったらしい。
ルーカスもコレットに魔族領の中で魔族のフリをさせてもらったことがあるので、一応試したことはあるのだが、外から見るのは初めてだ。
「いや、俺も子供の時はたまに魔族領へ遊びに行っていたんだがな、中が開いてある死体をよく見るようになって、で、コイツに辿り着いたってわけだ。まあ俺の家は研究者が本分だからな。コイツを雇って今がある」
解体解剖が趣味の魔族くらいならなんとか雇えるんじゃないか?ルーカスはそう思って、使用人扱いで雇うことにしたのだった。好都合なことにコレットは人への擬態を可能としていたので、魔族が敵対しているかもしれない魔族を研究として解剖しているという建前が破綻するよく分からないことにならずにすんだ。
「コレットから人への擬態の仕方を教えてもらうといい。一応魔法技術なんだよな?それ」
「そうですよー」
「俺のところに長居するつもりはないかもしれないが、きっと役に立つぞ」
「……分かった」
▫
「……」
人に擬態したロアは、ルーカスの好みそのものだった。
そもそもルーカスは体格の良い者が好きだ。別にそれは男でも女でもいいが、実のところ女の方が好きだった。
肩幅や筋肉がしっかりあるものの女性らしいしなやかさを失わない体つき。絶対強者であるドラゴニュートだからこそ成立する奇跡。
背はそれほど高くないが、ルーカスよりは大きいのでそれほど気にすることでもない。
「俺と付き合う気は……」
「ない」
「うん。冗談はさておき、習得まで早かったな?」
「そう?ありがとう」
ルーカスの驚きの言葉をロアはただのお世辞だと受け止めたようだ。
2時間もかからなかった。皆このくらい簡単に習得してしまうと、今頃この国には人間に擬態した魔族まみれになっている気がする。実際はそんなことはない。ドラゴニュートというだけで魔族の中でも十分強者なのだが、種族関係ない本人の資質も相当なものかもしれない。
「あ、言ってなかったけど、私の完全竜化?はノアありき。私単体だと使えない」
「ああそうなのか。まあ構わん」
期待していなかったと言えば嘘になるが、人として振る舞えるドラゴニュートというだけで十分雇う価値はある。
「近衛扱いでいいか」
「見張りも兼ねてってこと?いいよ」
「ん?うん」
どうやらルーカスがロアを警戒していると思っているらしい。考えてみれば当然のことだった。ルーカスはもうそういうことでいいか、と思いながらロアの言葉に頷いた。




