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 アランは生まれた時から体が弱かった。


 母親はミルクすらマトモに飲めない赤子をなんとか歩けるようになるまで育てたが、とうとう耐えきれなくなってその子供を教会に預けた。


 アランはよく励み、学んだ。成長したアランは勤勉で清廉で、それからとても見目の良い青年となった。

 教会からほとんど出ないため手には傷一つなく、肌は白い。落ち着いた物言いもあって女によくモテた。アランの元には若い女がよく訪ねてくるようになった。懺悔しに来たりなど手段は様々だった。真面目なアランはそれに全て対応した。その結果女は全く信仰心がないのだと知った。アランを堕落させようとしてくる者しかいない。救済しなければと思ったこともあったような気がする。


 だんだんとアランは自身が何をやっているのかと思うようになった。自分はこのままでいいのか?と。意味の無いことを繰り返し、声を聞かない、聞こうともしない者に話しかけたところで世界は少しもよくならないではないか、と思った。若かった。


 そしてアランはルールブックという魔法を発明した。日々勉学に励む中、また、人に言葉を届けようとする中、どうすればより効果的かを常々考えていた。その結果生み出されたものだった。アランの人生全てをかけた技術と言えた。

 このルールブックにより、アランはある日、教会に侵入しようとした盗賊を捕まえた。


 その奇跡とも呼べる所業はたちまち町中に広がり、アランは頼られるようになった。

 アランの住む場所は魔族領に接しておらず、魔物もほとんどいない平和な土地だった。

 逆に言ってしまえば魔物に対処できる術を持たなかった。


 そんな町は、ある日ゴブリン、妖精の1種らしい、の群れに襲われることとなる。当然人語を解すわけのないそれに、アランのルールブックは“使えて”しまった。言葉を届けるために作られたそれは言葉なんて関係なく相手に物事を強制する。アランは自分の失敗を悟った。


 ゴブリンの群れをたった1人で撃退したアランの噂はたちまちのうちに国中に広まった。アランはどこか自身の失敗に対する絶望を抱えたまま、国中の魔物、時には魔族を撃退した。一度も殺したことはない。だからアランには勇士の資格はないはずだった。それでも人々はアランに感謝し、彼は間違いなく英雄と呼べる人物だった。


 ある時、アランの住む教会より大分遠いところにある村に行く際中だった。馬車から降りて休憩をしようとした際、アランは倒れた。もともと体が弱かったのを、無理して国中を飛び回っていたのだからいずれ起こっていたことなのだろう。

 アランはそれから著しく体調を崩し、なかなか回復しなかった。起き上がることすらできなくなったアランに、人々はその功績を讃え、やはり感謝の言葉を述べた。しかし、やはりそれは過去のことだった。現在のアランはベッドから出ることすらできないただの病人だった。


 死を待つだけになった頃、アランは追憶の勇士となった。なれるはずがない、しかしアランは人々にとって英雄だった。きっとそれを女神様は知り、祝福してくださったのだろうと人々は言った。アランはかつてのようにルールブックを用い魔物を撃退し、人々を危険から遠ざけた。また人々はアランに感謝を述べ、褒めたたえる。


 まるで健康だった時間に戻ったみたいに。その記憶を追体験するみたいに。追憶。



 しかし、こうしてまたアランは起き上がることなくベッドに寝かされている。


 しかし場所は異なっている。異国の宗派の違う教会にアランはいる。

 ベッドの周りにはアランの弟子達がいて、涙ぐみながら食事を持ってきたり世話をしている。

 部屋の中にはここに来てからそれなりに仲良くなった神父が心配そうに見守っている。


 窓の外には、アランが体調を崩し、この教会に来てから教え導いてきた信徒達が祈っている。


 アランはあの国から、いやあの教会から出ることすらできず、生涯を終えるはずだった。

 それが今や、国の外に出て、そこの住民達に慕われている。きっと追憶しなければ得ることのなかった光景。


 アランは満足そうに微笑みながらそのまま息を引き取った。







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