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「湾曲の勇士。どうした?俺に会いたいとは……」


 どうやら湾曲の勇士は小国の王女らしく、その名を使って会いたいと言われれば会わざるをえなかった。全く予想外のところから接点を作りに来て、正直ルーカスはとても困惑していた。


 万が一のことがあってもいいように、向こうが行動を起こしてきたらすぐさま魔法を撃つようにネストには言っておいた。


「もう、エマって呼んでよー?」


 馴れ馴れしい様子に困惑しておじいさまを見ると、おじいさまも困惑で顔を歪めていた。


「……エマ。要件を言ってくれ」


「分かってるでしょ?」


「まあそういうことだよな」


「少し会話してもいい?」


「……」


 おじいさまを見る。


『やめておいた方がいいと思うぞ』


「いいや、向かってくるなら早くしろ」


「せっかちだね。これだから男は!」


「論理の飛躍がすぎるぞ!」


 湾曲の勇士ことエマがナイフを投げて来たので避ける。予備動作が多く、とてもじゃないが上手いとは言えない投擲だ。挑発の意図で投げたのだろう。


『そうだったな、湾曲の勇士は男嫌いだった。忘れていたが……』


 エマはルーカスが見る限り、ずっとノアにべったりだったので、その情報は頭の外に追い出していたのだろう。おじいさまは顎を片手ですりながら、興味深そうにエマを見ている。


「どこ見てんの?」


「おじいさまを見ている」


「……は?」


 ルーカスが剣を腰から抜き、首元に向けて振るうが、何かにはばまれた。


「俺の祖父はまあ……俺にしか見えないんだ。人間じゃないからな」


「そうなんだ?」


「そうだ、俺の相談役だ。誰よりも信用できる」


 と言いながら、ルーカスは言わなくていいことを話してしまっていることに気がついた。さっさと移動した方が良さそうだ。窓を開き、そのまま枠に足をかけ飛び降りる。


「な、待って!」


 と言いながらエマが廊下を走っている音が聞こえる。どうやら彼女は窓から飛び降りる気はないらしい。そういうところはお姫様らしい……というか、単純に身体能力がそこまで高くないのかもしれない。


 殲滅の勇士を呼ぼうと思っていたが、この分だと簡単に逃げ切れそうだ。とりあえず屋敷が巻き込まれないように遠くに行く?いや、追憶の勇士を回収しに行こう、おそらく彼は湾曲の勇士と相性が良い、とルーカスは思っている。彼女の話を聞こうとした時点でダメだとするのなら、最初から話を聞く気のない者を当てればいい。女嫌いと男嫌いで勝手に殺しあってくれ、とルーカスは走りながら適当なことを考えた。


 湾曲の勇士は少し離れた別棟にいる。少しと言ってもそこそこの距離はあるが……まあ山を越えないのでこの領地だけで見れば少しの距離でいいだろう。


「領主様!どうしたんですかそんなに急いで」


 ああ、ルーカスはそこそこ顔が知られているのだった。こういう時にお忍びで町を散策しているのがアダになる。なるほど、だから貴族達は市中に出たがらないのだろう、なんて微妙に的外れなことを考えつつ、ルーカスは領民に向かってにこやかに手を振った。なんだかんだまだ余裕はある。


「なんだか分かりませんが頑張ってくださいねー!」


 領民の声を背に走っていく。なんだか視線を感じる気がするが、ルーカスはそういう感覚に自信がないので無視した。


 ナイフが飛んでくる。今回は正確な投擲だ。おじいさまが指を指しているのを見逃さなかったルーカスはかがんでそのナイフを避けた。


「……後ろに目でもついているのか?」


 そのままルーカスが後ろを振り返りつつ立ち上がると、黒ずくめの女が思わずといったように声を発した。


「お前は……リンだったか」


「……」


 ノアの仲間の1人だったはずだ。

 正直無視したいが、このまま振り切れるだろうか?


「……領民には優しいのだな」


「まあ……そうか?そうかもな」


「それを何故他の人に向けられないんだ?」


 リンの呆然としたような問いにルーカスは首を傾げる。何故今そんなことを聞くのか分からない。が、とりあえず答えることにした。


「……領民は俺の役に立つ。それ以外は知らないし、知りたいとも思わない。線引きが必要なんだ、人間ってやつには。いや俺には、か」


「なるほど、どうやら私は理解できない類の人物のようだ、な!」


 加速してそのまま蹴り上げてこようとするリンの足を手で止めて、そのまま回転させ頭を床に打ち付けた。打ちどころが悪かったのか起き上がってくる気配がない。

 追ってくる心配もなさそうなので、ルーカスはそのまま駆け出した。





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