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「なるほど……とうとう来たか」
門番を勤めている男から、帰路の勇士らしき男がルーカスの領地に入ってきたという報告があった。今この領地には勇士は3人いるので、必然の行動だろう。
しかし、一応国際指名手配されている身であるのに変装もしていないらしい。随分強気なことだ。本人がまず目立つ容姿をしているというのもそうだが、複数の女連れというのもまた目立つ。その女の中には魔族もいるので余計に。
「殲滅の勇士が生きているということを知らないのは大きい」
大きいが、隠し玉としての使い勝手はすごく悪そうだ。隠し玉にしなくても火力は高いし、一撃打てれば御の字かな、とルーカスは考える。
「そうですね。あと、話半分に聞いて欲しいんですが、ゴツイ男も仲間にいました。俺的には今行方不明の殴打の勇士じゃないかと思ってるんですが、どう思います?」
「ふむ」
そういえば殴打の勇士は仲間達と旅をしていると言っていた。もしこの門番の言葉が真実であればルーカスは敵である勇士3人とかなり近い距離で接近していたということになる。最悪タコ殴りにされかねなかった。運が良かったな……とルーカスは遠い目になった。
「特徴をもう少し掘り下げてくれ」
「紫色の髪で身長は2mくらいでしょうか」
特徴は一致している。確かに殴打の勇士かもしれない。
「なるほどな。助かった。報酬は何がいい?できるだけ望みは叶えよう」
「え?報酬もらえるんですか」
「当たり前だろ。……俺はそんなにケチに見えるのか?」
「いえいえそんなことは、全く!そもそも俺みたいなほとんど平民みたいな男とエバンス様みたいな立場の人が直接会話するのすら珍しくてですね!」
「ああ……」
権威を保つためによく使われる手だ。実際会話できないくらい上の存在、であった方が格の高さは示しやすい。祖母はよく使っている。ルーカスは自身の立場はその功績により示されると考えているので、使わないというだけだ。そう、功績だ。ルーカスの気前の良さをここで見せれば、家の懐がどれだけ暖かいかが分かるというもの。結局のところ、どの手段を選ぶかの話でしかない。
「まあそんなことは気にしなくていい。好きに話してくれ」
「えーと……そうですね……」
「もちろん限度はあるがな」
「分かっていますよ!……家が欲しいです」
「いいだろう」
▫
「ということだ。まだ距離はあるが、気をつけておくように」
「……そもそも入れないという選択肢はなかったんですか?」
アランがルーカスに咎めるような視線を送る。
「門の兵士が死ぬだろうが。それよりも入り込めてる、と相手が考えて油断してくれている方がよっぽど良い」
「兵士なんて死ぬ生き物だと思いますがね……」
アランの聖職者らしからぬ発言に頬を引き攣らせつつ、ルーカスは続けて口を開く。
「まあ見逃したということは相手にも気づかれていると思う。ノア……帰路の勇士は少年らしい隙があるが、仲間はそうでもないからな」
「どこで知ったんだ?」
黙って腕を組みながら聞いていたネストがようやく口を開く。
「どうでもいいだろ。そんなことより、殴打の勇士の詳細を知らないか。ネストは魔族領、いや、魔族に支配された地に参戦する機会もあったと聞く」
「そこまで知っているんですか。相変わらずどうやって情報を集めているのだか」
アランが感心したように相槌を入れてくるが、たまに旅に出て商人達に話を聞いているだけだ。配下が優秀で、ルーカスが単騎で強いからこそ可能な方法であり、話したところで誰かが真似できるとも思えなかった。
「……。知らん。興味ないからな」
「……そうか」
どうやらネストは殴打の勇士の情報をよく知らないようだ。少し気まずそうな表情で顔を横に向けた。珍しい反応だ。本人も悪いと思っているらしい。
ネストは基本的に魔法が撃てればいいだけなのだと、最近よく分かってきた。魔族領に行った時も魔法を何回か撃って帰ったんだろう。目に浮かぶようだった。
「気は弱いが、キレると怖い……なんて子供達が歌ってるのは聞いたことがあります。流行っているようでした」
アランが首を傾げながら目をつむってそんなことを言った。どうやら詳細を思い出そうとしてくれているらしい。
確かに子供はルーカスにあまり馴染みがない。使えそうな情報だった。
「他には?」
「待ってくださいよ、今思い出しているんですから……力が強く、あと拳を土につき立てれば地面に大きな穴があく、でしたっけね」
「……なんというか普通だな」
「そうですねぇ。とりあえず分かるのは子供達には馴染み深い人物だ、ということくらいでしょうか。歌の真偽も分かりませんし。正直殴打の勇士って単語から想像するそのままの姿ですから」
「ありがとう、参考になった」
「いえいえ」




