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レイクと名乗った男は、どういう仕組みか知らないが、続けて賭けた試合全てで勝った。
「すごいですね」
「昔からこういうのは得意で……えへへ」
「コツとかあるんですか?」
「え。うーん。筋肉の動きとか見て、強いとあの場所の筋肉が発達してて……」
「そうですか……」
どうやらルーカスには扱えないコツのようだ。こっそりとため息をついた。
「待て」
ルーカスはそこを通り過ぎようとした男の手を掴んだ。
レイクの持っていた小切手がその手に握られていた。
「チッ、いいだろ。どうせ勝ちまくってんだから」
入場料で客は選別していたつもりだが、どうしてもこういう輩は紛れ込んでくるらしい。
「いいわけないだろ、さっさと返せ」
スリの男はルーカスが華奢で力仕事なんてまるでしたことのない世間知らずの坊ちゃんだと見るや、力づくで振り払った。
「ぐっ」
やはりこういう時は体格の悪さで押し負けてしまう。だから普通はこんなことはしないのだが……一般席に座ったために、その少し荒々しい熱狂がルーカスにも移ったのかもしれない。
「待って。返して?」
いつの間に移動したのか、スリの男の前にレイクが立ち塞がっている。
その体格の良さを見てスリの男も諦めたように小切手を手渡した。諦めるならなんでこの体格のいい男からスったりしたのだろうか。
「オーナー!なんで一般席なんかに」
騒ぎを見ていたらしい支配人が走って駆けつけてくる。余計な真似を、ルーカスは舌打ちをしたくなったが堪えた。
「遅い」
「すみません」
「今走って逃げた男だ。捕まえて出禁にでもしておけ」
「追いかけさせています」
ルーカスはため息をついた。支配人は1つの欠点にさえ目を瞑れば有能すぎる男だった。
「え、えーと?」
突然のことでレイクは頭が追いついていない様子だった。
「こちらの男性は?」
「さっき知り合った男だ」
「へえ。……いいですね」
レイクをじっくり上から下まで舐め回すように見ながら言った。目が興奮で少し赤く光っている。
「お前な……」
普段なら無視するところだが、見たところレイクは純朴そうな10代の青年だ。支配人の悪癖のことを考えると、ここにそのまま放置するのは危険に思えた。
「ほどほどにしろ」
思えたが、ルーカスはいろいろと面倒くさくなったので、そのまま見捨てることにした。
「ま、まって。置いてかないで」
「ん?」
呼び止められるとは思っていなかったのでつい立ち止まってレイクの方に振り返る。
「オーナーって何!?」
「……ああ。騙していて悪かったな。俺はここのオーナーにして辺境伯のルーカス・サリバンだ」
「えっ」
ルーカスが歩き出すとレイクも着いてこようとする。切り上げるための言葉を紡いだが、それでもついてくるようだ。ルーカスはこっそりとため息をついた。
「……」
「なるほど。悪い人ですね、オーナーも」
「俺関係あるか?」
理由はよく分からないが、支配人は何やら納得して諦めたらしかった。そのまま背を向けて歩き出している。
「辺境伯って切断の勇士の?」
「ま、まあそうだが」
まだ着いてくるつもりか?こいつは。
「お金持ってるんだね。だから僕の分までお金払ってくれたってことか」
「……そうだな」
「僕を守って……はくれなかったか。でもありがとう」
「別にいい」
「なんで僕だったの?」
少し攻めるような声色だ。ルーカスはレイクを見捨てようとしたのだから当たり前だが。
なんで僕、か。おじいさまがじっと見ているから、目立っていたから、粗野ではなさそうだったから。理由はたくさん思いつくが、実際のところ、ただその時その気分の時にこの青年がそこにいたからにすぎない。
「この場所にいるってことはそういうことでしょ?オーナーなら尚更」
少し気が急いた様子でレイクは言った。そういうこと……いや、その限りではない。ただ純粋に格闘技として見ている人間の方が多いはずだ。つまるところ、ルーカスにそうであってほしいと目の前の青年は思っているらしい。
「……。俺の噂を知らないのか?」
「え?」
「女王様の愛人。有名だと思ったんだが」
貴族以外はそんなことに興味はないのだとルーカスは知らなかった。噂好きなら知っているかもしれない程度の話だ。
ルーカスの言葉を聞いたレイクの顔が硬直する。完全に予想外だったようだ。
「もう帰ったほうがいい。お前のためにも」
顔だけ振り返り目を細めてルーカスはそう言った。声は少しだけ動揺が隠せていなかったかもしれない。
レイクはただ黙って呆然とそれを見ていた。動く様子のないレイクを一瞥してルーカスは歩き出した。




