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「久しぶりだな」
「お久しぶりですランドット公」
ルーカスが闘技場に行くと、VIP席にルーカス1番の後ろ盾と言っていいランドット公が優雅に観戦していた。
元々父は体調があまり良くなく政務はとてもじゃないができない状態だった。ルーカスは弱冠12歳にして辺境伯代理となったが、祖母が敵であるため立場は弱く、後ろ盾を手に入れなくてはいけなかった。そこで手を貸してくれたのがランドット公だったというわけだ。一応ルーカスの父の友人だったらしい。
「元気そうでなによりだ!」
ランドット公はルーカスの背中を思いっきり叩いた。いつものことだが、とても痛い。
「成長は……あまりしてなさそうだが、相変わらず綺麗な顔をしているな」
「ははは、ランドット公もお変わりがなくて何よりです」
ルーカスは大人になったので、こうして適当にスルーできるようになった。当時は覚えたての魔術で拘束しようとして、それで何故か気に入られたという経緯がある。
「ははっ、お前がオーナーなんだ、このまま見ていくといい、なかなか面白いぞ?」
「そうさせてもらいます」
用意してもらっていた席に着く。
「おお、看板闘士のライオンナイトじゃないか!私は運がいいな!」
ランドット公が興奮したように大きな声をあげる。
一際体格のいい男が立っている。ちょうど始まるところだ。黄色い歓声が聞こえる。
この闘技場は女性客が多い。女性にもきっと需要があるはずだとルーカスが最初に目をつけて、それが成功したからそうなっている。
ライオンナイトは観客席を見渡し、いつものようにパフォーマンスをして……そしてオーナーであるルーカスを見つけて顔を膠着させた。
「お前に賭けるから絶対勝てよ」
そうルーカスが言うと、動揺したように少しコケた。イメージに関わるのでかっこよく立っていてほしい。そして相変わらず目がとても良いらしい。冗談のつもりだったので少し申し訳なくなった。
「これがオーナーの特権ですよ」
「そうらしいな、全く羨ましい限りだ」
ランドット公に冗談めかしてそう言うと、楽しそうに乗ってきた。
「ちなみに値段なんだが……」
「私が売るのは交渉権だけですよ」
闘士達は皆奴隷なので、こうして買取交渉を持ちかけられることもある。ルーカスは闘士達の自主性を尊重しているので、闘士自身が稼いだ金で解放するシステムを取っている。彼らが他の場所で奴隷になるのはルーカスの預かり知らないところだ。
「ケチだな、友人価格ということにならんか?」
「いつになく必死ですね……交渉権は無料にしてあげますよ」
ライオンナイトがいかんなくその強さを発揮し、あっさりと勝ったのを横目にルーカスは言った。ランドット公は彼を随分気に入ったらしい。
しかしこの交渉は失敗するだろう。どれだけ金額を釣り上げても首を縦に振らないからこそ彼は人気なのだ。
「助かる」
ランドット公は楽しそうに頷いた。
ルーカスには優しいが、王子の病死……にも関わっているような男だ。そして残虐な嗜好を持っている。同志に対する仲間意識が強くて、だからこそルーカスのことを大変気に入っており、なんなら年の離れた親友だと思っている。
「遅れてすみません、オーナー」
支配人がルーカスに挨拶を入れてくる。
この辺りでは珍しい褐色肌の男だ。
「ああ」
この男はランドット公がルーカスに紹介した男で、元々ルーカスがこの闘技場を作るにあたってモデルにした場所のオーナーと支配人をしていた人物でもある。
「交渉権を無料で渡すがいいよな?」
「……。スポンサー様ですしね、いいでしょう」
この通りほとんど来ないルーカスよりもこの男の方がこの闘技場では立場が上だった。
耳元で何やら囁かれる。
「この男に売り渡すと肉塊になると思いますが」
「まあ大丈夫だろ」
どうせライオンナイトは頷かないのだし、ここで恩を売っておいて損はない。
ランドット公はルーカスと気が合う時点でまともではないが、公権力を振りかざして手を下す分より最悪だった。
「賭け金を返してくれ」
人気の闘士なので大して増えていないだろうと思い、ルーカスはそう言った。実際受け取ると、少ししか増えていなかった。
「そろそろ本物の獅子と戦わせましょうかねぇ」
「それは……面白そうだな」
ここには倫理的にまともな人間なんておらず、批難する者も現れないまま、話は流れていく。




