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「これがこの領地の衛兵ですか。……女性が多いですね?」
ルーカスを前に1列に並ぶ衛兵達を見ながら、アランが眉を顰めながら言った。ルーカスが良からぬことをするために集めているのではないか、と疑っているのだろう。アランは男女交際に関しては、特に厳しかった。
言われてみれば確かに女性の割合が他の領地よりは多いかもしれない。
「まあいろいろあってな……」
単純な話で、叔父についていた衛兵が、男の割合が多かったというだけだ。それで殺してしまったので、女の割合が多かった、と。本当にそれだけ。
叔父はあまり女を信用していなかったのかもしれない。あれだけ叔父を愛していた祖母、叔父から見れば母親か。彼女のことも叔父は嫌っていたようだから。
ただ、人を殺すことに対して、アランがどんな反応を返すのか分からないため、ルーカスは言及を避け、曖昧に笑うだけに留めた。
「詳しい話は聞きませんよ。聞く権利がありませんから」
その様子を受けて、アランは疑うような目でルーカスを見ながらそう言った。
ルーカスは疑いを晴らすために弁明しようか迷ったが、その決断をする必要はすぐ無くなった。
ネストが衛兵の女性を口説いているところが目に入ったのだ。
「はあー……。……。はあ……」
アランがそれを見て大きなため息を2回ついた。どうやら彼もいろいろあって反省したらしい。ルーカスと前会った時よりも我慢をしている。辛そうだが。
「私はあの人のああいうところが嫌いです」
「そうか。奇遇だな。俺もだ」
ただ口説くだけなら軟派なやつなんだな、と終われるのだがそうもいかない。ネストが何を言っているか口元を見る。ルーカスは結構器用なのでそういうこともできるのだった。
「お前は俺の女にふさわしい」
「結構です」
「はあ!?この俺だぞ。殲滅の勇士で世界最強の魔法使いである俺をー」
ルーカスもその様子を見ながら首を振って大きなため息をついた。
「口説くならもっと賢く口説けと俺は言いたい」
あれでは関係を悪化させるだけだろう。
ネストはあれで男からの人望は厚いので、現状屋敷の中はネストをめぐって男女で対立しているみたいになっていて、少し空気が悪い。そろそろ屋敷から追い出したいなと考えているルーカスだった。
「ミスターエバンスは相変わらず小賢しいですね」
「……」
ルーカスの発言はアランの前では失言だったようだ。苦言を呈されることは覚悟していたが、苦言を通り越して暴言に近いことを言われたため、思わず黙り込んだ。
「ええ、分かってますよ?それが貴族の本分なのですよね?貴方の口癖ですから分かってます」
ああ、アランの悪いところ、説教臭いところだ。ルーカスは内心ため息をついた。これがあるからアランは嫌われているのだ。
「貴方は確かに不幸な境遇だったのでしょう。幼い頃から気を張りつめなければいけない生活を余儀なく送っていたのかもしれない」
「はいはい」
「真剣に聞いていますか?」
「聞いているとも、我が友」
「……ならいいですけど。それを正当化に使ってはいけません。また、自分の境遇を見て、相手より不幸なんだから何をしても良いだろう、なんて以ての外です」
そんなことは分かっている。ルーカスはそう思ったが、口に出すことはしなかった。
「その通りだ。さすが神父殿」
「はあ……」
ルーカスの軽薄な様子に、アランがため息をついた。
「きっとそれが貴方の素なんでしょうね」
「なんか言ったか?」
「いえ」
アランがいい雰囲気で話を終わらせようとしているが、ルーカスは知っている。ネストが女を口説いている時に、アランが女の方に軽蔑した目線を送っていたことを。女嫌いは相変わらずのようだ。
確か……女が男に罪を犯させる、だったか?まあ考えても意味はないか。ルーカスはおじいさまの方を向く。
「おじいさま」
『いや我の方を見られても困るが……』




